HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.74

課題を抱えながらも、ストーナー2連勝で総合首位。
ペドロサは3戦連続表彰台獲得。困難な状況を打開する選手の力量

 スペインGPから2週連続開催となった第3戦ポルトガルGPは、今季初のPPを獲得したケーシー・ストーナーが、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)とチームメートのダニ・ペドロサの追撃を振り切って、今季2勝目を達成しました。スペインGP同様、今大会も不安定な天候でフリー走行が始まりました。しかし、土曜日、日曜日と天気は回復、予選とウオームアップでベストラップを刻んだストーナーが、その走りを決勝でも見事に再現して、スペインGPからの2連勝を達成しました。今大会は、順調にタイムを短縮するも、課題の多いレースとなりました。Hondaにとっては、まさに薄氷を踏む思いでの2連勝であり、あらためて、チャンピオンらしく力強いレースをみせてくれたストーナーに、チームスタッフは感謝していました。前戦スペインGPで、「やっと勝てた、ケーシーに感謝している」と語った中本修平HRCチーム代表は、「正直、今回も何もしてあげられなかった。彼の強さに感謝するばかり」と、一日も早い援護を誓っていました。3位にはペドロサが入賞。今大会はストーナーの速さに脱帽のレースとなりました。決して万全ではない状況の中で、3戦して2勝、開幕から3戦連続で両選手が表彰台に立ったRepsol Honda Team。2連勝を達成したポルトガルGPを、中本HRCチーム代表にふり返ってもらいました。

−2週連続開催となった第3戦ポルトガルGP。今回も不安定な天候で幕を開けましたが、土曜日、日曜日と、天気が回復するにつれて、ストーナー選手の速さが印象に残りました。特に決勝前のウオームアップを終えたときには、今回も勝てるんじゃないかと誰もが感じたように思います。そして決勝では、その通りの強さをみせてくれることになるわけですが……。

「確かに、今回も強いレースを見せてくれました。後ろとの差を見ながら、ペースを作っていく。今大会は0.5秒前後のリードをきっちりと守って、終盤、ホルヘに追いつかれたときには、このあたりでペースを上げていこうかという感じで引き離していきましたからね。スペインでも、そういうレースを見せてくれましたが、今回はさらに、ケーシーの戦略というか意図のわかりやすい戦いぶりでした。しかし、テレビをご覧になった方はわかったと思いますが、今回のケーシーは、チャタリングがひどかった。これまで経験した中では、最悪だったと本人も言っていました。そういう状況で勝ってくれたのですからね。ただただ、今回もケーシーにありがとうという気持ちでいっぱいです」

−チャタリングを抑えるためにストーナー選手は、レース中に乗り方を変えたり、手元で設定を変更できるマッピングを操作したとコメントしていました。強いレースでしたが、実際は、チャタリングと腕上がりというふたつの不安要素を抱えながら、厳しい戦いをしていたのだということがよくわかります。

「今回のレースは、序盤はそれほどチャタリングは出ていなかったのですね。それが3周目くらいからどんどんひどくなって、同時に腕上がりの症状も出てきたと言っていました。その後、何とかチャタリングが出ないように、ライディングを変えたり、いろいろ工夫しているのですが、チャタリングが少し収まってくると腕上がりの症状も緩和されたようです。これで、チャタリングと腕上がりの関連性がはっきりしたし、それだけに、我々としても、何とかしてあげたいと思っています。今回は2週連続開催であったことに加え、スペインほどではなかったけれど、金曜日、土曜日と天候が不安定でニューパーツを試すタイミングも時間もなかった。それでもこの状況で戦い、今度も勝ってくれた。この2連勝は、ただただ、ライダーのおかげだと感じています」

−Hondaにとっては、そういった厳しい状況の中で嬉しい2連勝となりました。ストーナー選手はPPを獲得したときに、「何とかPPは取れたけれど……」と不安を抱えていました。決勝前も、「ホルヘはこのコースを得意としているし、予選は2列目だが、いい走りをしている。今回も厳しいレースになる。勝てるかどうかわからない」と語っていました。何とか取れたPPから2連勝を達成したのですが、何か大きな変更はあったのでしょうか?

「ストーナーのPPは、本当にPPは取れたけれど……という気持ちでしたね。予選は、セッション終盤に転倒者が出て赤旗中断になった。残り10分というタイミングだったし、セッションが再開されてからは、タイムを出そうと選手全員がコース上に出ていった。そのため、クリアラップを取れなかった選手も多くて、2番手のダニもそうだし、2列目に終わったホルヘも完ぺきなアタックができなかった。そういった運、不運のある中で何とかケーシーはPPを取ってくれたという感じでした。だから、仕上がりとしては差はなかったと思いますね。ケーシーに関しては、コース後半部分、最終コーナーの高速セクションでタイムをロスしていた。対してホルヘはここが速かった。これは昨年も同じような傾向があったし、これはケーシーのライディングスタイルにも関係していますね。そして、路面コンディションの変化を感じ取りにくい土曜日の微妙な天気にも原因があったと思います。そういう状態で、Repsol Honda Teamが、予選で1-2を取りました。予選を終えた段階では、PPのケーシーよりも2番手のダニの方が状態はよかったように思います」

−そういうこともあって、予選を終えたときにダニに優勝のチャンスがある……とチームも期待していました。今大会の3位という結果を、どう思いますか?

「ダニは、このコースを得意としているし、エストリルは、彼のライディングスタイルとマシンのセッティングの方向性が合っているように思いますね。そういうこともあって、エストリルでは、ダニの方がマシンのパフォーマンスをうまく引き出しているように感じます。しかし、今大会は1周目にタイヤのスライドがあって3番手に下がってしまったのが、勝てなかった理由の全てだったと思います。今回はホルヘとペースが変わらなかったし、もし、ダニがホルヘの前にいたら、ダニが2位でフィニッシュできたと思います。いずれにしても、今回はケーシーががんばってくれた。ケーシーをホルヘとダニが全力で追いかけたというレースだったと思います。もし仮に今回、ダニが優勝して、ケーシー、ホルヘという順だったら、3人はまったく同ポイントとなります。3戦を終えて3人が振り出しに戻るという、そんな戦いを見たかったような気がちょっとしますね」

−スペイン、ポルトガルと、ニューパーツをなかなか試すチャンスがありませんでした。今回は月曜日にテストがあります。

「このテストが本当に重要になります。ケーシーの腕上がりの原因がはっきりしているし、その対策に我々も全力で取り組んでいる。しかし、どうにもこうにも天気が味方してくれない。せっかくパーツがあるのにテストができないという悔しい日々が続いています。ケーシーだけではなく、ダニからもいろいろリクエストはあるし、もっともっといい状態にしてあげたいと思っている。しかし、こういう天気、状態が続いていると、ほんと、歯がゆいですね。今回、ケーシーが総合首位に立ったけれど、1点差のリードというのは、点差がないのとほとんど同じですからね。この3戦を終えて、苦しい状況に変わりはないけれど、ライダーのがんばりで、なんとかホルヘと互角に戦えているという状態。これから先も、ライダー、エンジニア、スタッフのワンミスがチャンピオンシップに大きな影響を与える。月曜日は雨の予想なので、いいテストができないかも知れない。でも、一日も早く、苦しみながらがんばってくれているライダーを助けてあげたいと思っています。これからも応援よろしくお願いします」

※Repsol Honda Teamは、5月7日に予定されていたエストリル・テストを雨天のためキャンセルしました。