HRCチーム代表 中本修平 現場レポート
vol.71

へレステストを終えて

 2012年ロードレース世界選手権が、まもなく開幕します。開幕戦の舞台はカタールのロサイル・サーキットで、07年から6年連続で第1戦として開催されます。昨年は、開幕戦カタールGPを制したケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)が、800cc最後のマシンとなったRC212Vでシーズン10勝を挙げてチャンピオン獲得。開幕戦で3位のダニ・ペドロサ(Repsol Honda Team)がシーズン3勝で総合4位になり、Hondaは、個人総合、コンストラクターズタイトル、チームタイトルの3冠を獲得しました。

 いまから約5ヶ月前、2011年のシーズン最終戦となったバレンシアGP終了後、同地では早くも、2012年に向けた最初の合同テストが行われ、2年連続タイトル獲得を目標にするHondaは、排気量の上限が1000ccに拡大された2012年のルールに合わせたRC213Vで、ペドロサがトップタイム、ストーナーが2番手と好調なスタートを切りました。

 ニューマシンで好調なスタートを切ったHondaは、年明けの合同テストでも好調な走りを見せます。1月下旬(1月31日〜2月2日)と2月下旬(2月28日〜3月1日)にマレーシア・セパンで行われた2回の合同テストと、3月下旬(3月23日〜25日)にスペイン・ヘレスで行われた合同テストで、チャンピオンのストーナーがトップタイムをマーク。ペドロサも僅差で続き、2年連続、16回目の個人総合、19回目のコンストラクターズタイトル獲得に向けて万全の体制を築きあげました。

 開幕戦カタールGPまで、あとわずか。HRC中本修平チーム代表に、ここまで行ってきたウインターテストを振り返り、開幕戦と今シーズンにかける意気込みを聞いてみます。

−今年はMotoGPクラスの車両規定の変更で、800ccから1000ccへと排気量の上限が上がりました。昨年は、RC212Vでシーズンを戦いながら、2012年型RC213Vのテストを行うという忙しいシーズンでした。昨年最終戦のバレンシアGP終了後のテストでは、ペドロサが2日連続でトップタイム。年明けのマレーシアとスペイン・ヘレスで行われた合同テストでは3回ともにストーナーがトップタイムをマークしています。シーズンの開幕戦に向けて、ニューマシンRC213Vと両選手の仕上がりはどうですか?

「2012年のルール改正に合わせて、昨年からマシンの開発を進めてきました。おおむね順調でしたが、いくつか問題があり、とても完ぺきな状態とはいえません。ひとつは、昨年12月に最低重量の規定が、再度、変更になったことですね。2010年の春に1000ccとなる2012年は、最低重量を150kgから153kgに変更すると決めていました。それに合わせて我々はバイク作りをしてきたのに、急きょ、4kg増やさなくてはならなくなってしまった。すでにバイクはできあがっているし、この時点で仕様変更するのは無理なので、とりあえず、マレーシアとスペインのテストは、ウエイトを積んで対処してきました。しかし、いいバランスを見つけるのが難しかったですね。特に小柄なダニには、この変更は大きく影響しています。

 1月下旬のマレーシアテストからスペインのヘレスまで、ダニのコメントは一貫していて、車重が増えたマシンでは、昨年の11月のバレンシアテストのようにどうしても乗れない……というものです。このテストでダニは2日連続でトップタイムをマークしています。その走りができなくなって、ちょっとフラストレーションをためていますね。左右への切り返しは問題ないのですが、一番の問題はブレーキング。スロットルを戻したときにフロントに荷重がかかりすぎるところが気に入らないようですね。この部分に関しては、これからも対処していきたいと思っています。いまはウエイトを積んで最低重量をクリアしていますが、いいバランスにするために、徐々にパーツの重量を重いものに変えて対応したいですね。

 ケーシーは、相変わらず、すぐにタイムは出してくるけれど、フロントのチャタリングに悩んでいます。マレーシアでは、その対策にほとんどの時間を費やすことになりました。1月下旬の1回目のテストのときは、1分59秒台をマーク、昨年800ccで出しているベストを更新していますが、このときは体調が悪くてソフトタイヤを使ってアタックできなかった。もしやっていれば58秒台はいけたと思うし、スピードという点ではまったく心配していません。しかし、昨年の状態に比べて安定性の面ではまだまだという状態です。2月下旬のテストも、エンジンに問題が発生してHonda勢は2日間しか走れなかった。最後の調整の場となったスペイン・ヘレスでも、なんとかトップタイムは出しましたが、昨年のような安心して見ていられる状態ではないですね。ケーシーに関しては、バランスの問題よりも、依然として、チャタリングが一番の問題ですね。最後のテストとなったヘレスでは、ライダーがそういう状態に慣れてきたということもあって、かなり改善されてきましたが、完ぺきにはほど遠い状態です」

−チャタリングの問題というのは、車体だけではなくタイヤとの相性もあると思います。今年はフロントに新しいタイヤが投入されていますが、タイヤとの相性はどうですか?

「昨年11月のテストから、ブリヂストンの2012年仕様のタイヤを使っていますが、ケーシー、ダニともにチャタリングの問題を抱えています。今年のバイク自体もチャタリングが出る傾向があったのですが、今年のタイヤは、その傾向がさらに強くなった印象ですね。ただ、チャタリングに関しては、元々抱えている課題でもあり、タイヤと車体のいいバランスを見つけて対処していきたい。ブリヂストンのタイヤのパフォーマンスを生かせれば、ケーシーもダニも、もっともっと速く走れることがわかってますからね。とりあえず、これが、最優先課題。最低重量の変更もタイヤも、ライバルたちと同じ条件ですからね。ヤマハ勢は2チーム4台ともに、とてもいい状態に仕上がっていますね。特にロレンソは相変わらずの速さで、今年も最大のライバルになることは間違いありません。ドゥカティ勢も、すごい勢いで開発が進んでいるし、我々ももっとがんばらなくてはいけないと思っています。

 最後のテストになったヘレスでは、ケーシーが11周のロングランを行って、1分39秒台で周回しています。我々としてはレース距離の27ラップをやって欲しかったのですが、ケーシーが、それ以上やる必要がないというので、11ラップで終わりました。彼はすごく頑固ですからね。言い出したら一歩も引かない(笑)。もう少し、我々の言うことを聞いてくれたらもっと勝てるのにと思うときもあります(笑)。そういう頑固さが彼の強さの秘訣でもありますけどね。

 ヘレステストの最後のアタックも、リアに振動が出てタイムが出せなかったと彼は言っていました。2回やって同じだったので、その原因をいま調べています。とはいっても、それでもトップタイム。どんな状態でもケーシーは、ポーンとタイムを出してくれますね。その速さを安定して引き出せるように我々はもっとがんばらないといけないですね。

 今年は子どもが生まれてパパになった。生まれるまでは落ち着かない様子でしたが、生まれてからはすごく落ち着きが出て、一段と強くなった印象です。女の子が生まれたので、日本からスイスの家にひな人形を送ってあげた。すごく喜んでくれましたが、3月3日が過ぎたら早く片付けるようにと教えたら、ひな人形がどういうものかインターネットで調べたので分かっていると言ってましたね(笑)。

 チャタリングに悩んできたケーシー対して、バイクのバランスに苦しんできたダニですが、最後のテストでは、しっかり27ラップのロングランを行って1分40秒台でラップを刻みました。かなりいいアベレージだと思うけれど、正直、ダニも、まだまだライダーとしての力を出しきれていませんね。これからどこまでタイムを上げていくのか、それも我々のがんばりにかかっています。ダニは、この数年、完全な体調でシーズン開幕を迎えたことがない。今年はケガもなく開幕戦を迎えることができるし、すごく楽しみにしています。一昨年、シーズン終盤戦にケガをしなければダニは最終戦までタイトル争いしたかもしれないと今でも思っていますからね。今年は期待しています」

−開幕戦カタールGPまで、あとわずかとなりました。ここまでは、まずまずの仕上がりのようですが、今年の豊富と目標を教えてください。

 昨年の開幕前は、すごく自信がありましたね。正直、何事も起きなければタイトルは取れるという自信があったし、非常にいい状態でシーズンを迎えることができました。

 しかし、今年は厳しい戦いになるだろうと思っています。確かに、昨年11月の1000cc初の合同テストまでは、おおむね順調だったと思います。それが突然の最低重量の変更があり、ちょっと問題が出てしまった。それに対処するのにちょっと時間がかかるし、チャタリングの問題も抱えています。安定性という点では、昨年のような自信はまだありません。当初の予定通り153kgでやらせてもらえたらと思いますが、どのメーカーも同じ条件ですからね。

 いま、車重変更に合わせたバイク作りを必死に行っているし、その問題に対処しながら、一戦一戦、最高のバランスを見つけていきたいですね。今年は厳しいシーズンになると思っています。そういう状況ですが、なんとか、今年はケーシーとダニにチャンピオン争いをしてもらいたい。そのために我々は最高のマシンを提供していかなければならないし、この2人ならやってくれると信じています。もちろん、開幕戦カタールGPは、予選、決勝ともに1位と2位独占を目標に全力を尽くします。

 アルバロ・バウティスタ(Team San Carlo Honda Gresini)もテストをこなすごとにHondaのバイクに慣れてだんだんスピードを上げてきています。ポテンシャルのあるライダーなので、これからの成長をすごく楽しみにしています。昨年のMoto2チャンピオンのステファン・ブラドル(LCR Honda MotoGP)もMotoGPマシンに慣れてきているので、着実に速くなっています。Repsol Honda Teamの2人とともに、この4人の選手が、今年のMotoGPクラスを大いに盛り上げてくれることを期待しています。

 目標は2年連続タイトル獲得。そのために、この冬もスタッフ全員ががんばってきたわけですから。一戦、一戦、ファンのみなさまに喜んでもらえて、スタッフみんなが喜べるようなレースをしたいと思っています。今年も応援よろしくお願いします」