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さて、今シーズンを通じて走ってきたHonda勢ライダーについても振り返ってみよう。
アルバロ・バウティスタ(Team San Carlo Honda Gresini)は第13戦サンマリノGPと第15戦日本GPで表彰台を獲得するなど、持ち前のアグレッシブなライディングがRC213Vとマッチしてきた印象だった。一方で成績にばらつきがあったのも確かだが、これは彼のライディングによるものだけではなく、1台体制のハードウェアに起因するものも多くあった。
実は、彼のライディングしたRC213Vは、Honda陣営で唯一ショーワ製サスペンションとNISSIN製ブレーキキャリパーを採用した「メイド・イン・ジャパン・パッケージ」であった。そんな背景から、個人的にとても応援していたのだが、レーシングマシンのハードウェア開発というのは「針の穴に10mくらい離れたところから糸を通す」というような作業にも近い。チームも1台体制(チームメートのミケーレ・ピロのライディングするもう一台はCBR1000RRのエンジンをFTRのシャシーに載せたCRTマシンであった)であったことから、データの収集という意味で不利に働いてしまった部分もあったであろう。
だが、彼の本来のポテンシャルは、もっと高いところにある。来季も同じ体制での参戦となることから、またRepsol Honda Teamの2台を向こうに回しての活躍が見られるかもしれない。期待が高まる。
ステファン・ブラドルが「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたのは、納得である。
走りは、彼の実直そうなルックスの通り、どこまでもステディなもので「華やか」とは言い難いものだが、2012年シーズンのレースラップのおよそ3分の2においてセカンドグループを走り続けたこの安定感は、およそ「ルーキー」らしからぬものであった。
12年の「3強」であったストーナーやペドロサ、ロレンソが最高峰クラスにデビューしたときほどのインパクトがない、という人もいるかもしれないが、ストーナーとペドロサがデビューした06年というのは990cc時代最終年であり、RC211Vも熟成しきっていた。ロレンソがデビューした08年というのも、800cc時代としては2年目で、ハードウェアとしての課題はあらかた洗い出されたあとであった。
ブラドルの場合、「1000cc時代」という、だれもが手探りの状態でマシンを作り上げていく過程のところに下位カテゴリーからステップアップしてきて、トップグループに肩を並べる走りをみせたのだから、マシンへの対応力もすばらしいものがあるということが証明された。チームを運営するルーチョ・チェッキネロも、きっと「こいつだけは手放してなるものか」と思っているはずだ。
引退するストーナーに代わって、Repsol Honda Teamに加入するのはMoto2チャンピオンのマルク・マルケスだ。
1993年生まれの19歳、スペインからやって来たこの若者のライディングは、一同注目、話題騒然、賛否両論……そんな言葉がふさわしいものだ。
12年は18戦9勝、2位2度、3位3度と圧倒的な速さと強さをみせつけた一方、カタール、バレンシアなどで「ラフプレイ」の裁定を受けるなど、走りは相当に荒っぽい。
圧巻だったのは、最終戦のバレンシアだ。フリー走行中の接触から最後尾スタートのペナルティーを受けた……のだが、そこからなんと自分以外の全32台をごぼう抜き。トップチェッカーを受けたという、「すさまじい」としか言いようのないライディングで世界中の話題になった。
モータースポーツは危険をともなうスポーツだ。ルールは厳格に守られなければならない。だが、マルケスには、ほかのライダーへのリスペクトを欠くということのない限り、こうした「ヤンチャさ」を失わずに、果敢にアタックしていってもらいたいと考えている。
繰り返しになるが、ルールは守らなくてはならない。しかし、このくらいの「気迫」なくしてストーナーの抜けた穴を埋めることができないのもまた事実。今、MotoGPクラスでトップを争うようなライダーたちも、かつては物議を醸すほどの「ヤンチャ」な走りを繰り広げていたものだ。
そんなマルケスが、MotoGPクラスで直面する壁があるとすれば、やはり「電子制御」だろう。
彼がこれまで乗ってきたMoto2マシンは、MotoGPマシンに比べればアンダーパワーで、電子制御も存在せず、すべてが彼のコントロール下にあった。
一方、今度は電子制御で武装されたMotoGPマシンだ。この制御の仕方はライダーが自分でカスタマイズしていくことができるため、マシンのメカニズムをしっかりと理解し、いかにして自分好みにマシンの挙動を作り上げていくのかが、マルケスが最初に取り組むミッションとなるだろう。
現代のMotoGPは「速いけれど、脳みそまで筋肉」といったライダーでは、決して乗りこなすことはできないわけだが、彼ならば優秀なRepsol Honda Teamのスタッフのサポートを受けながら、しっかりと対応していくことができるだろう。デビューが待ち遠しい新人の登場である。
ほかにも、我々「一般ライダー」にとってのフラッグシップであるCBR1000RRのエンジンを搭載したマシンを操り、ミケーレ・ピロが最終戦で5位に入賞したのも印象深い。昨シーズン最後の「MotoGP分析」で、「荒れたレースでCRT勢が活躍するようになってくると、レースがよりおもしろくなる」とお話ししたが、最終戦では、まさにその通りの展開となった。プロトタイプ勢との大きすぎるタイム差など、まだクリアしなくてはならない課題は多いが、エントリー台数が増えて見た目にもにぎやかになり、バトルも増えた。日本人ライダーの青山博一も、FTR-カワサキのマシンでの復帰が伝えられている。来年以降も、CRT勢の活躍にぜひ注目してみてほしい。
今シーズンは久々に、MotoGPクラスにフル参戦する日本人ライダーのいないシーズンとなってしまっていたが、ヤマハの中須賀克行が第15戦と第18戦に出走し、最終戦バレンシアGPで2位表彰台を獲得したことにも触れなくてはなるまい。世界トップクラスのライダーたちを相手に堂々と戦い、日本代表として、まさに全日本チャンピオンとしての意地を見せてくれたと思う。やはり、日本人が表彰台に絡むポジションで戦ってくれると、レースが何倍もエキサイティングなものになる。
ずっとHondaとともに歩んできた私としては「これがHondaであってくれたなら……!」とも考えたものだが、Moto2クラスの中上貴晶をはじめ、次世代の日本人ライダーも育ってきている。また近いうちに、Hondaのマシンで日本人が優勝争いをするシーンが見られることを期待したい。
さて、「1000cc時代」2年目となる13年シーズン、どのような展開になっていくのだろうか。Honda陣営では、ストーナーが引退し、マルケスがステップアップを果たした。
ヤマハ陣営には、生ける伝説、バレンティーノ・ロッシが復帰。ロレンソとタッグを組む。
今年ヤマハのサテライトチームでレースを大いに盛り上げたアンドレア・ドヴィツィオーゾはドゥカティ陣営に移籍。ニッキー・ヘイデンとともに、再び勝利を目指していくこととなる。
各陣営、チャンピオン経験者をそろえて、Hondaとの全面対決に備えている。今年の前半戦も大接戦であったが、13年シーズンもそれに匹敵するバトルが見られるかもしれない。
すでにオフシーズンテストも行われ、各陣営とも13年に向けて着々と準備が進んでいる。開幕まではまだしばらく時間があるが、今シーズンのMotoGPを振り返りつつ、来季への期待を高めていっていただければ幸いである。