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Honda勢と戦うライバルたちの動向

今回のテストには、タイヤサプライヤーのブリヂストンが新しいタイヤを持ち込んでいた。「路面温度が低い状態での『グリップ感』がもっとわかりやすいほうがよい」というライダーからの意見をもとに改良を重ねたタイヤで、フロントはコンパウンドのみ、リアは構造・コンパウンドともに新しいものが用いられているのだが、Honda陣営と一部のライダーには、タイヤのチャタリング──コーナリング中にタイヤが細かく振動を繰り返してしまう現象──が発生しているのが確認できた。これは、タイヤに合わせたマシンのセッティングが完全には詰め切れていないことによるものだと考えられるが、そうした状況ながら、終日にはストーナーが昨年のレコードである1:59.665を更新する1:59.607をマーク。2番手のロレンソに0.6秒近い差をつけるなど、RC213Vのポテンシャルは相当に高いものであることがうかがい知れる。
そんなHonda勢と戦うライバルたちの仕上がりは、どうだろうか?

サテライト勢も含めて「強さ」を見せるヤマハ

ヤマハ陣営はテスト初日の1/31、シーズンイン直前かと見紛うばかりの走りを見せたHonda勢をベストタイムで上回り、ホルヘ・ロレンソが2:01.657をマーク。2:02.003で2番手につけたペドロサの後方には、2:02.221でカル・クラッチローが、2:02.234でベン・スピーズが続いていた。
感心するのは、その安定のマシンづくりだ。速いマシンか。強いマシンか。MotoGPで勝つことのできるバイクには2種類あるが、やはりヤマハは「強い」。テストでの走りを見る限り、手のつけられないストレートスピードだとか、強烈なコーナリングスピードを備えているというわけではないが、ファクトリーチームのロレンソ、スピーズだけでなく、サテライトチームのクラッチローも上位に顔を出すあたりに、その手堅いマシンづくり──「強さ」が表れていると言えそうだ。昨年までHondaで戦い、ヤマハのサテライトチームに移籍したアンドレア・ドヴィツィオーゾも、YZR-M1の初ライドながら6番手につけている。昨年のHonda陣営は、Hondaらしい「速さ」と同時に、ヤマハのような「強さ」を兼ね備えていた点が印象的だったが、そのマシンづくりを今年も継続できるかどうか。それが、Hondaのタイトル防衛のカギを握ることになる。

「ジャパニーズスタイル」を取り入れ始めたドゥカティ

昨シーズン、バレンティーノ・ロッシの移籍によって注目を集めたドゥカティはどうだろうか? 鋼管のトラスフレームや、カーボンモノコックフレームなど、常に「日本勢とは違うレーシングマシンづくり」を進めてきていたが、昨シーズン後半からは、日本勢の「お家芸」でもあるアルミフレームにもチャレンジ。「デスモセディチGP12」として先行デビューさせていた。
彼らは不思議なことに、私をピットに呼び寄せてオープンにいろいろなものを見せてくれるので毎年のテストを楽しみにしているのだが、そこで目にしたニューマシン「デスモセディチGP12.1」のフレームは、かなり「ジャパニーズスタイル」に寄せてきたという印象。詳しいことはお伝えできないが、一般的な「ツインスパーフレーム」とは少々異なる、意欲的な一台となっていることが感じられた。この新型が思うように性能を発揮しなかったときのことを考えてか、旧型の「GP12」というマシンも運び込まれていたが、最終的にはその出番はなかったようだ。
このことから、昨シーズンは表彰台を一回獲得するにとどまったロッシも、マシンの仕上がりには悪くない印象を持っていることが伺えるし、実際にテスト中も気分が良さそうに見えた。
Hondaが強いとレースが面白くなるのと同様、ロッシが強いとレースはより一層ドラマチックになる。復活を果たしたロッシとHonda勢の戦い……解説者としては楽しみなところである。

「オールHondaの技術」を活かす「中本体制」の面白さ

テスト最終日。今年も、HRC総監督の中本修平さんに、テストの感触を確かめてみた。
常に、高い目標を自らに課す中本さんのこと。事前の予想通り、答えは「まだまだですね」というものであったが、これは昨年のオフシーズンテストでの「まだまだ」とは、少々ニュアンスの違うものであるようだ。
「昨年は、もっとぶっちぎりでライバルに勝てるという手応えがあったからこその『まだまだ』でした。でも今年は、ケーシー以下のタイム差があまりにも拮抗しています。我々がするべきことは、まだたくさん残っていますよ」
たしかに、昨年のプレシーズンテストでは、Honda勢が一度もトップを譲ることがなかったのに対し、今年はヤマハ勢も初回のテストからかなり高いレベルで仕上がってきている。現状では両者の実力は、ほぼ「互角」であるというのが、このテストを訪れていた人々の共通した認識といったところだろう。

ここからどのようにライバルを「ぶっちぎって」いこうとするのか。私がこれからも注目していきたいと思っているのは、「中本体制」の面白さである「オールHonda」でのレースへの取り組みだ。
Hondaは二輪車だけでなく四輪車や、発電機・船外機・汎用エンジンといった汎用製品、さらにはロボットやジェット機までを手がける企業であるが、中本さんはそれらの分野からさまざまな技術を、レーシングマシンの開発にフィードバックしていきたいと考えているようなのだ。
事実、昨シーズンのRC212Vの圧倒的なコーナリングスタビリティを支えた「シームレス・ミッション」は中本さんがF1マシンの開発チームを率いていた時代から注目をしていたもので、HondaのF1撤退後に担当エンジニアをMotoGPマシンの開発チームに合流させて完成させたものだという。
また、「ライダーの負担を軽くすることでラップタイムを向上させる」ことをコンセプトに開発されたトラクションコントロールシステムには、二足歩行ロボット「ASIMO」の姿勢制御をするために開発されたジャイロセンサーが用いられている。「いま、ライダーが何を考えてバイクに入力を与えているのか」を読み取るために、このセンサーからの情報が必要不可欠だからだ。

中本さんは、HondaのF1撤退にともなって「次に何をやりたいか」と問われて、「パワーボートのレースをやりたい」と答えたのだと聞いた。中本さん曰く「二輪・四輪の両方で、最高峰クラスのマシンの開発をやらせてもらった。ならば次は、それらの経験を活かして汎用製品の最高峰で最高の結果を残してやろうと思ったんですよ」とのことだが、この「オールHondaの技術力」へと注がれる中本さんの視線は熱い。次はいったいどんな分野から、最先端の技術がMotoGPに持ち込まれるのだろう?
まったく予想もつかないが、ぜひみなさんもHondaの持つさまざまな技術に注目をしてみていただけると、レースをより楽しくご覧いただけるだろう。私も、新しい情報を仕入れることができたら、その都度お伝えしていきたいと思う。
個人的には、ジェット機の車体づくりなどからのフィードバックなどがあれば、最高にエキサイティングと考えているが……はたしてどうだろうか?

さて、MotoGPの2012年シーズンは、2月下旬に行われる2回目のプレシーズンテストを経て、4月8日にカタールにて開幕する。今回の結果を踏まえて、どのように勢力図が変化していくか? そして開幕戦、序盤戦がどのように展開していくか? 今から楽しみである。開幕まではまだしばらく時間があるが、今回お送りした情報、インターネット上にあふれるMotoGP関連情報をもとに、シーズンの行方を予想してみるのも面白いかもしれない。
今シーズンもこのコーナーでは、MotoGPをより深くお楽しみいただける情報をお届けしていきたいと考えている。ぜひご期待いただきたい。

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