モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > HRCチーム代表 中本修平 現場レポート > vol.70
vol.70 | 2011年シーズン終了と、来シーズンに向けて |
2011年シーズンを締めくくる第18戦バレンシアGPは、長く厳しい戦いが続いたこの一年を象徴するような難しいコンディションのレースウイークになりました。日曜午後2時に始まった決勝レースは、低い気温に加えて、何度か雨がぱらつく難易度の高い状況でしたが、ポールポジションのケーシー・ストーナー(Repsol Honda Team)は、好スタートを切り、大きなリードを築きあげました。ストーナーは終盤に後続選手に追いつかれてオーバーテイクされてしまいますが、最終ラップの最終コーナーで勝負を仕掛け、立ち上がりからゴールラインの加速で上回って僅差の大逆転勝利を収め、今季10勝目を獲得しました。また、今回のレースは、前戦マレーシアGP決勝中に不慮の事故死を遂げたマルコ・シモンチェリ選手(Team San Carlo Honda Gresini)の追悼レースとして、陽気で気さくな故人を偲び、全クラスの全選手がシモンチェリ選手のゼッケン58番を各自のマシンやヘルメット等に装着してウイークを過ごしました。
さまざまな意味で記憶に残る一戦になった2011年最後の戦いを、HRCチーム代表の中本修平が振り返ります。
「今日のレースでは、ケーシーは最後の最後に大逆転勝利を収めてくれました。一方で、序盤の大きなリードにもかかわらず、雨が降ってきた際にペースを落としすぎてしまい、スピーズ選手に追いつかれてオーバーテイクされる原因を作ってしまいました。レース後には本人もそのことを反省していましたけれども、今回のような難しいコンディションのレースになると、ヤマハのマシンの長所が発揮されやすく、Hondaの短所も顕在化しやすい状況になってしまいます。そのような難しいレースだったにもかかわらず、最後はうまく抜いて優勝してくれたのでホッとしています」
「ドライ、あるいはウエットのすっきりとした条件ならば我々が圧勝を飾る可能性もあったと思いますが、気象や路面コンディションは誰にとっても同じ条件です。さらに、こういう状況では、先頭を走る選手は目標になるものがないために難しい走行を強いられます。後ろから追いかけていると、前方との距離やタイム差などから判断や推測をして、様子を見ながら走ることも可能ですが、先頭を走っている場合には、路面状態の変化や、先のコース状況が何もわからないから、抑え気味にコーナーに入って、様子を探りつつ適切な判断を迫られる、ということの連続なので、精神的にも過酷な走りを強いられます」
「難しいコンディションのレースは今回に限らず他にも何度かありましたが、ケーシーはそのたびごとにうまくコントロールをしてくれていたように思います。頭脳的なレースをする選手に成長してくれたと実感しています」
「あそこで大きくタイムを落としましたね。こういうコンディションでは、ダニはどうしても苦戦を強いられてしまいますね」
「その問題よりも、グリップが急激に下がるコンディションになると、ダニは思うようなタイムを出せなくなるという課題を抱えています。たとえば、午前のセッションで路面がグリップしない状況下だと全くタイムが出ない、といった具合です。あるレベル以上のグリップをきっちり出せるときには抜群の速さを発揮するのですが、今回のような状況になるとどうしても弱さが出てしまいます」
「それもある程度は関係しているでしょうね。その不利な要素をどうやって走りや技術でカバーしていくか。ダニ自身も自らの課題を克服しようと努力をしてくれていますが、とはいうものの、天候をコントロールすることだけはできませんからね……」
「決勝レースに先立つ午前10時10分には、マルコの追悼式典として、ケヴィン・シュワンツ氏がマルコのマシンで先導しながら全クラス全選手がコースを走行し、その後、盛大に花火が打ち上げられるイベントが行われました。ご遺族の希望からこのような形式の追悼式典になったのですが、陽気で気さくで、誰からも愛されたマルコにはしんみりした行事よりもこういった賑やかな追悼のほうがふさわしく、彼もきっと喜んでくれていると思います。すばらしい才能を開花させつつある途上での夭逝は言葉もないほど残念ですが、結果的に短い時間で終わってしまったつきあいの中で、マルコは多くのものを私たちに与えてくれました。今後も多くの方々と喜びや楽しみを分かち合えるレース活動を行っていくことこそが、我々がマルコの遺志に報いる唯一で最大の方法だと考えています」
「来年も今年と同様、あるいはそれ以上の勝利を収めたいと思っています。そのためにも、火曜のテストからしっかりと準備を進めてゆきます。2012年シーズンの戦いはすでに始まっているのです。今年一年、みなさまからずっといただいていた応援に対し、心からの御礼を申し上げるとともに、来年からの新たな戦いに向けてさらなるご支援をいただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます」