vol.63

前半戦は10戦中7勝。勝負は後半戦へ

2011年前半戦をひとまず締めくくる第10戦アメリカGPの舞台は、サンフランシスコ郊外モントレーの内陸部にあるラグナセカ・レースウェイ。カリフォルニアの抜けるような青空の下で、今年も熱い戦いが繰り広げられました。3日間総計で13万6285人という大観衆が見守ったレースは、Repsol Honda Teamのケーシー・ストーナーが終盤にトップ争いから抜け出して優勝。今季5度目の勝利を獲得しました。序盤からストーナーたちとトップ争いを繰り広げたチームメートのダニ・ペドロサは、3位でフィニッシュ。右鎖骨骨折から復帰間もない状態にもかかわらず2戦連続の表彰台で、本来の実力を確実に取り戻しつつあります。今回も厳しい戦いとなった第10戦の内幕とシーズン前半戦の推移を、HRCチーム代表の中本修平が振り返ります。

「ケーシーは、昨日の予選まではマシンがなかなか思うようなレベルにまとまらなかったので、今朝のウオームアップ走行でセッティングを大きく振ることにしてみました。その感触が良好で、これならレースができるという状態に仕上がった結果、決勝は最後までじっくりとしたたかに戦ってくれました」

−ストーナー選手はウエイトトランスファー(荷重移動)に問題を抱えていたようですが、それも今朝の変更で解決できたということでしょうか。

「ウエイトトランスファーについては、2日目には解消して大きな問題ではなくなっていました。ですが、リアのグリップを十分に出せない課題を抱えていたのです。そこをうまくバランスするポイントを見つけることができて、それが勝因になりましたね」

−今日の展開は、気迫の走りと冷静なレース運びの勝利に見えました。

「マシンがよくまとまっていたので、隙があればいつでも勝負を仕掛けることができる状態でした。27周目の1コーナーでロレンソ選手をオーバーテイクできたのも、ケーシーの加速が優れていたからです。彼の前に出たあとは、安定して1分21秒台を連発し、一方のロレンソ選手は22秒台へ落ちていったので、そこで一気に引き離すことができました。
 一方、ダニはマシンバランスもよく、いいフィーリングでレースを進めながらタイミングを見て前へ出ようという状態でレースを進めていました。ところが、このコースはどのコーナーでもハードブレーキングを要求されるのですが、鎖骨の負傷が治ったばかりのダニは十分なトレーニングができていないために腕上がりの症状が出てしまい、そのためにタイムを維持できなくなってしまいました」

−ここは路面がバンピーなので、それが負傷した右肩へ影響したという面もあるのでは?

「それはなかったですね。ハードブレーキングの連続による腕上がりが原因です。幸い、明日から夏休みなので、トレーニングを再開してしっかりと後半戦に備えていきます。そういう意味では、ここから2週間の休みというのは非常に貴重で、我々にとっては非常にありがたいですね」

−ドヴィツィオーゾ選手については、今回のレースはどうだったのでしょうか。

「アンドレアは、レース前半にトップグループについていくために体力を消耗してしまい、それが中盤から後半の周回に影響してしまいました」

−午前のウオームアップ走行を見るかぎりでは、だいぶんよくなってきたのかとも見えたのですが。

「今朝のウオームアップではアンドレアひとりがハードタイヤでコースに出て行き、いいタイムを出していたのでレースも期待していただけに、残念です。アベレージタイムでトップグループとのコンマ数秒を詰められなかったのが少しずつ積もり積もっていった結果、あの差に広がってしまいました」

−これから次の第11戦チェコGPまで2週間のサマーブレイクに入りますが、今シーズン前半戦の展開は、どうでしたか。

「10戦中でHondaは7勝しました。昨年はシーズン全体で4勝しかできなかったことを考えれば上出来といえるかもしれませんが、ロレンソ選手は強豪なので、今後のレースでも勝ったり負けたりという展開が続くと思います。ひとつでも取りこぼすとチャンピオン争いには大きな痛手になるので、ミスをしないように細心の注意を払いながら、一戦一戦を大事に戦っていきたいと思います」

−ランキング首位のストーナー選手は、第2戦スペインGPのアクシデントでリタイアした以外、全戦で表彰台を獲得する高水準で推移しています。

「実はケーシーはアッセンのフリープラクティスで転倒して以来、身体にはダメージが残っていて、いまだに痛みを抱えている状態なのです。その意味では、ケーシーにとってもこれから2週間の夏休みは身体を休めて完全なコンディションに戻すいいタイミングだといえるでしょうね」

−ペドロサ選手も、ケガで欠場したレースと復帰戦のイタリアGPを除けば全戦で表彰台を獲得しています。

「夏休みの間にフィジカル面のトレーニングを再開し、ダニが本来持っている能力を存分に発揮できる状態まで戻してくれるでしょう。そうなれば、シーズン後半戦もダニ、ケーシー、ロレンソ選手の誰が勝っても不思議ではないレースが続くでしょうね」

−表彰台独占は、ひとまず後半戦までおあずけですね。

「ライバル陣営は強力ですから、そう簡単には望み通りの結果を達成させてはもらえませんよ。だからこそ、それが我々の夢であり目標になるのです。それを少しでも早く実現できるよう、そして今年こそチャンピオンを奪還できるよう、シーズン後半も全力で戦っていきます。今後も応援をよろしくお願いいたします」