vol.62

嬉しいダニの完全復活と次戦への期待

第9戦ドイツGPは全18戦で戦うシーズンのちょうど折り返し地点に相当します。起伏に富んだテクニカルなザクセンリンクサーキットには、レースウイークの3日間総計で23万人あまりのレースファンが詰めかけ、シーズン屈指の大盛況の大会になりました。大観衆に見守られた日曜午後の決勝レースでは、Repsol Honda Teamのダニ・ペドロサが、右鎖骨骨折の負傷から復帰2戦目にも関わらず完ぺきなレース運びで優勝。ドイツGP2年連続優勝で完全復活を力強くアピールしました。3位にはポイントランキング首位のチームメート、ケーシー・ストーナー。今季9戦中8表彰台というハイレベルな走りを今回も披露しました。30周という長丁場の苛酷なレースを走り抜いた選手たちの姿と、高い水準を維持して戦うことの難しさを、HRCチーム代表の中本修平が語ります。

「ダニはケガから復帰して今回が2戦目ですが、本来の実力を発揮して、再び勝てる水準まで復調していることを証明してくれました。我々も嬉しさを感じると同時に、ホッとしているところです。レース走行後の選手たちのタイヤをざっと眺めたかぎりの印象では、表彰台に上った3人の中ではダニのがタイヤが一番きれいな使用状態でした。つまり、それだけ上手に走っていたことの証拠です。マシンセットアップ面では、正直なことを言えば満足しきれないところもあったのですが、そのような状況下でも今日のダニはうまくレースをまとめてくれました」

−予選ではフロントロー2番手からスタートして優勝。復帰2戦目にして完全復活、と言ってもよさそうですか。

「そうですね。ただ、ケガをしたのは右側ですが、このサーキットは左コーナーが多いので、それに助けられた側面があるのも事実です。痛みに関しては、骨の痛みはすでに解消しているものの、まだトレーニングを100%の状態まで持っていけていないので、どうしてもレース後半に疲れが出てきてしまうようです。今回のレースでは、実はその部分だけを心配していたのですが、集中して最後まで走りきり優勝してくれたので、本当によかったと思います」

−今回のレースで投入した新しいスイングアームも、狙ったところをきっちりと引き出せていましたか?

「スイングアームは、我々にとってセッティング部品のひとつです。ここのコースのようにリアのグリップ不足が問題になる場合には、新しいスイングアームを使うし、逆にもう少し安定性が必要なときには、従来のものを使う、というふうにケースバイケースで臨機応変に対応していくつもりです」

−ペドロサ選手は体力面が少し気になる、という話ですが、次戦のアメリカGP・ラグナセカスピードウェイも激しい起伏と周回数が多い、肉体的に厳しいコースです。

「確かにそうですが、大丈夫だと思いますよ。ダニは一昨年のレースで優勝していて相性のいいコースなので、きっといい走りを披露してくれるに違いありません」

−3位表彰台のストーナー選手は、レース終盤にタイヤが厳しくなったのしょうか?

「ケーシーは右側のグリップ、特に裏ストレートに出る前の右コーナー(11コーナー)でうまく加速できずに、苦労していました。あそこのコーナーが、今回のケーシーには課題になっていましたね」

−最終ラップは、最終コーナーの前で、ややインを閉めすぎたようにも見受けられました。

「たしかにあれだけ閉めてしまうと、立ち上がり加速で苦労することになってしまいますからね。それが原因で、最終コーナーでロレンソ選手に追い抜きを許すことになってしまいました。結果はケーシーが3位でフィニッシュしたことにより16点加算、2位のロレンソ選手は20点加算なので、ポイントランキングは首位を守ったものの、4点詰められることになってしまいました。とはいえ、シーズンを戦っていく中では引き離すこともあれば詰められることもあります。次のレースでは、再びライバル勢を引き離せるようにしたいと思います」

−ドヴィツィオーゾ選手の今回のレース運びはいかがでしたか?

「レース前半は順調だったものの、中盤以降にじわじわと離されていきました。1分22秒台のラップタイムを維持するいいペースで走ってくれていたので、その調子で最後までいってほしかったのですが、途中でマルコに先行された際に、少し前方と離れてしまいました」

−あれで、トップグループとの距離が開いてしまいましたね。

「あの距離が、アンドレアのモチベーションに少し影響してしまったかもしれません。その後の4位争いでは集団の前でフィニッシュしてくれて、その意味ではよかったとも思いますが、我々はアンドレアに4位争いではなくて表彰台争い、トップ争いを期待しているのです。そこを目指すもうひとがんばりが、次のステップへ向けた彼の課題ですね」

−ドヴィツィオーゾ選手とバトルを繰り広げていたシモンチェリ選手については?

「先日もお話したとおり、マルコは一発の速さは発揮してくれています。ただ、今日のレース後に彼のタイヤを見てみると、かなり激しくブリスター(タイヤの発熱による気泡)が発生していました。最終ラップでスピーズ選手にオーバーテイクを許してしまったのも、そのブリスターが原因です。『タイヤは壊れる(依存する)ものではなくて壊す(管理する)もの』という意味で言うならば、今のマルコはまだタイヤのグリップに頼って走っている傾向があるので、レース距離全体を通じてタイヤを管理していくことをもう少し習得してほしい、と思います」

−以前にも指摘していた、レース全体を通じての戦い方やタイヤのマネージメント、ということですね。

「そうです。昨年と比較するとかなりよくなっていると思いますが、彼にはもっと高い水準のものを期待できると我々は考えています」

−青山博一選手も、レースウイークを通じて苦労していた様子が見受けられました。

「彼は昨年、ドイツGPを負傷欠場しているので、MotoGPで走るのは今回が初めての経験でした。セットアップにも苦労していたようですが、青山君は前々回のオランダGPで再びケガをした脊椎を抱えている状態ですからね。ここで転んでさらに負傷を大きくしてはいけない、という懸念があるので、それだけでコンマ数秒遅れがちになってしまうのはしかたがないのかもしれません」

−次のアメリカGPは、サマーブレーク前の最後のレースになります。展望はいかがですか?

「当然、もう一度勝ちたい、と考えています。昨年はロレンソ選手が勝ちましたが、一昨年はダニが勝ってます。ケーシーも、チャンピオンを獲った2007年は圧倒的な速さで優勝を飾りました。次のレースでも、ふたたびこの3人の争いになるのではないでしょうか」

−その争いに、あとはドヴィツィオーゾ選手が絡んできてくれれれば。

「そうですね。マルコとアンドレアに絡んでもらって、ワンツースリーを達成できれば申し分ないのですが、そうはさせてくれないのがレースの世界です。ロレンソ選手は、さすがチャンピオンだけあって、したたかでしぶとい戦いをするライダーなので、次戦も負けないように全力で立ち向かっていきたいと思います。皆様も、応援をよろしくお願いいたします」