vol.61

コンディション変化への対応が鍵になった第8戦

第8戦イタリアGPの舞台は、トスカーナ地方の山間に位置するムジェロサーキット。渓谷の緑豊かな自然地形を利用した、高低差のある美しいコースで、選手たちは熱狂的なイタリアのファンに見守られながら手に汗握るハイスピードバトルを展開します。今年のレースは、Repsol Honda Teamのイタリア出身選手、アンドレア・ドヴィツィオーゾが持ち前の粘り強くしたたかな走りを披露。今シーズンの自己ベストタイとなる、3度目の2位表彰台を獲得し、見事に晴れ渡った青空の下で地元ファンから大喝采を受けました。3位はチームメートのケーシー・ストーナー。表彰台を外さないクレバーな走りで、ポイントランキングトップの座をさらにしっかりと固めました。しかし、今回の大会は、土曜まで不順な天候が続いた困難なレースウイークでもありました。コンディション変化に備えることの難しさや、全員で一丸となって戦いぬいたレースの舞台裏について、HRCチーム代表の中本修平が語ります。

「ポールポジションからスタートしたケーシーですが、レース序盤は好調で、後続選手との2秒差を上手にキープしながら走っていました。ところが、中盤にさしかかるあたりで一度タイムが落ち、そのあと少し持ち直したのですがタイムをキープすることが難しく、それ以上は無理をせずに、結局、3位でチェッカーを受けました。レース後にタイヤをチェックしてみると、チャンキング(タイヤ表面の剥離)が発生していて、それが今回の敗因になってしまいました。今日の決勝レースは、昨日までと比較すると路面温度がかなり上昇していました。タイヤの空気圧を、もう少し落としておくべきでした」

−決勝レース時の路面温度は、昨日や一昨日の同時刻と較べると、20℃以上も違っていたようです。

「公式発表によると、今日のレーススタート時の気温は29℃、路面温度が54℃でした。昨日の同時刻、予選を行った時間帯は気温21℃、路面温度28℃です。つまり、路面で26℃の温度差があった、というわけです。したがって、決勝レースのリアタイヤは硬い方のハードコンパウンドにしたのですが、これはこのコンディション変化を考えれば当然の選択でした」

−ストーナー選手自身も、空気圧が高かったことが今日の敗因だった、と話していました。

「空気圧が高いほどタイヤは発熱しやすく、序盤から良好なグリップを得ることができますが、それだけ摩耗も早まります。路面温度が高ければ、当然ながらこの傾向はさらに強まります。したがって、今日の午後は少し空気圧を落としてレースに臨んだ方がよかった、ということが、今から振り返れば我々の反省点です」

−とはいえ、表彰台を確保してランキングトップの座を守ったのは大事なポイントですね。

「そうですね。今回はライバル陣営が速かったというよりも、むしろ我々のミスによって敗因を作ってしまいました。次回はこのような失策を犯さないようにしてしっかりと一戦一戦を戦い、勝っていきたいと思います」

−今回のレースは、地元出身のドヴィツィオーゾ選手が2位表彰台を獲得しました。

「今日のアンドレアは、実力を存分に出しきって戦ってくれました。ロレンソ選手に抜かれたときは、ピットの中で全員が『すぐに抜き返してほしい!!』と念じていましたね」

−以前に中本さんが指摘していたとおり、今日のドヴィツィオーゾ選手は、決勝レースで最後までしぶとく粘って結果をキッチリと持って帰る、彼の持ち味を存分に発揮したレースでした。

「今回の彼は、課題だった予選も十分にいい内容でよかったと思います。アンドレアも、予選・決勝ともに速い選手になりつつあります。あともうひとがんばりして、普通のコンディションのレースでぜひとも早く一勝を挙げて欲しいところですね」

−一方、今回のレースからようやくペドロサ選手が復帰し、大きな注目を集めました。

「ダニはクラッチにトラブルが出てしまい、スタートから約1周ほど、うまくミートしない状態が続きました。そうこうしている間にポジションを落としてしまい、結果的にそれがレース終盤まで影響してしまいました。それさえなければ、おそらく6位くらいの位置なら十分フィニッシュできていただけに、残念です」

−今回のレースウイークは金曜、土曜ともに午後は雨に見舞われてかなりの時間が潰れてしまいましたが、他の選手にとってはタイムロスでも、ペドロサ選手にとっては逆に体力を温存することにもつながったのではありませんか?

「確かに、そういう見方もできるでしょうね。今日のレースが終わったあと、ダニは、『痛みに関してはガマンできる範囲だけど、この一ヶ月半ほどはオートバイに乗ってなくてトレーニングができていないので、体力を消耗して疲れてしまった』と言っていました」

−鎮痛剤などは使用したのでしょうか?

「確かに感覚として痛みは感じているのですが、痛み止めを使わなければならないほど深刻な状態ではありません。以前、左の鎖骨を負傷したときのような、次第に腕の感覚がなくなってくるような事態も特に生じてはいません。ただ、長い間、身体を使っていなければ、筋力は次第に落ちてきます。その影響で今回は疲労感が大きかったようです。ドイツGPまでにはトレーニングもしっかりと再開できますから、次回はいいレースをしてくれると期待しています」

−もうひとりのイタリア人、シモンチェリ選手は激しい4位争いを繰り広げながら、最後は惜しくも5位フィニッシュでした。

「マルコは、路面温度が上がってタイヤがグリップしなくなり、そのままタイムが下降していった、という展開です。彼の場合も、最後にはタイヤにチャンキングが発生しはじめていました。マルコは、ある特定コンディションに合わせてマシンを仕上げてゆき、その状況下で速く走る能力は非常に優れた選手です。ただ、レースでは、そこから離れたコンディションでもタイムをコントロールし、戦い抜いていくことが要求されます。そのためにも、さらにもう一段階の成長を遂げてくれることを期待しています。一発タイムを叩き出す速さはすでに備わっているので、次は、いかにいいポジションで完走するか、というステップですね。
 チームメートの青山博一君は、このところ、いいタイムを出すことに苦労をしているようです。昨日の夜もワークス勢のデータや走りを参考にしながら、セッティングの方向性について彼と話し合っていたところです。目指すべき方向もある程度見えてきて、その結果、今日の決勝レースでもそこそこのポジションとタイムで走ることが可能になっていました。復活の兆しは見えています。次のレースではきっといい走りを見せてくれると思いますよ」

−次のレース、ドイツGPのザクセンリンクサーキットは、昨年ペドロサ選手が優勝した場所です。

「今年も、ぜひとも勝ちたいと思っています。Honda勢の選手なら、誰が勝ってくれてもいいですね(笑)」

−シーズンはこれから中盤戦に向かい、ますます厳しい戦いが続くと予想されます。

「だからこそ、明日の事後テストでいいものを見つけ出し、さらなる高いステップに進みたいと考えています。次戦も、我々は勝利を目指して全力で戦います。皆様の声援が我々と選手にとって何よりの励みです。ドイツGPでも、ぜひとも熱い応援をよろしくお願いいたします」