vol.56

王座奪還に向けてさらに一歩進んだ第3戦

2011年第3戦は、本来ならツインリンクもてぎで日本GPが行われる予定だった。しかし、3月11日に発生した東日本大震災の影響で日本GPは秋へ順延されたため、第2戦スペインGPから4週間後のポルトガルGPが第3戦として開催されることになった。
 不安定なコンディションに悩まされることの多いエストリルサーキットだが、今年の決勝レースはドライコンディションで行われ、3番グリッドからスタートしたRepsol Honda Teamのダニ・ペドロサが今季初優勝を飾った。チームメートのケーシー・ストーナーは3位、同じくアンドレア・ドヴィツィオーゾもラストラップで大逆転の4位フィニッシュ。チャンピオン奪還へ向けて着実な前進を見せた今大会の戦いを、HRCチーム代表の中本修平が振り返る。

「フリープラクティスから抱えていた課題をひとつずつ解決しながら、レースに向けてマシンを仕上げてゆくことができたので、マシンのセットアップについてはうまく進んだと思います。今回のレースで優勝をおさめてくれたダニは、スペインGP直後に行った肩の手術のあと、本格的なトレーニングを控えていた状態でした。そのために今回は筋肉痛が出ていたので、フィジオセラピストのお世話にもなりながらウイークを進めてきました。
 レース中も肩の筋肉の痛みが出てしまったのですが、前回のレースまで問題だったような、血流が止まって腕のしびれが発生するようなこともなく、最後まで走りきることができました。そうは言っても、手術以降はレースディスタンスを走っていないので、肩の状態に一抹の不安があったのも事実です。だから、レース序盤は抑え気味に、ロレンソ選手の後ろにつけて走りながら自分のほうが速いところを掴み、終盤に一気に勝負をかけてオーバーテイクした、という流れです。ロレンソ選手の直後につけて走っているときも、ストレートで何度か前に出ることもできそうだったのですが、ダニはスロットルを戻しています。あえて全開にせず、タイミングを見計らっていたのですね」

−ペドロサ選手は、レースのことはもちろん、腕のしびれが出なかったことが何よりうれしい、とコメントしていました。

「手術をすると決断したことは正しかったし、やって良かったと思います。実際のところは土曜の予選までレースディスタンスを走っていないので、本人にも不安はあったし、我々も同様だったのですが、ちゃんと走りきり、勝つことができました。今後、体調が戻ってくれば、さらにもっといいレースができると思いますよ。とは言うものの、ライバル陣営は強力なので、今後も勝ったり負けたりするレースが続くでしょう。が、私たちはチャンピオン獲得に向けていい方向に進んでいる手応えをつかんでいます」

−ストーナー選手も、3位表彰台を獲得しました。

「ケーシーは、スタート直後の2コーナーでマシンにハイサイドのような挙動が生じて、その際に腰をひねってしまいました。その数周後にも、7コーナーでまた腰をひねり、本人いわく、そのままピットに戻ってリタイアしようかと思うほどの痛みだったのですが、後続選手との差を詰められずに維持する程度の走りは可能だったので、最後までガマンして走りきってくれました。3位というリザルトは少し残念ですが、そのような事情だったのでしかたがないし、選手自身はとてもよくやってくれたと思います」

−以前から腰に問題を抱えていたのですか?

「ときどき症状が出ることはあったようですね。症状とはいっても関節などの深刻な部位に問題を抱えているわけではなく、筋肉の痛みです。レースを終えた今はガチガチに硬くなってしまっているのですが、フィジオセラピストにほぐしてもらえば、元どおりに問題なく走れるようになるでしょう」

−ストーナー選手のマシンセットアップは、仕上がりはどうだったのでしょうか?

「悪くなかったですよ。今朝のウエットコンディションでもすぐにいいタイムを出すことができていましたから。決勝レースでも十分にいけるなと思ったのですが、一周目の2コーナーですでに腰を痛めてしまったので、前の2台を追いかけることができる状態ではなかったですね。本当は1位や2位にいってほしかったのですが、このような状況で3位という結果は上々だと思います」

−もうひとりのRepsol Honda、ドヴィツィオーゾ選手は最終ラップの最終コーナー立ち上がりからゴールラインで大逆転、4位に入りました。

「アンドレアは、オープニングラップの2コーナー進入でロッシ選手に前に出られてしまいました。その後、なかなか前に出ることができずに抜きあぐねながら周回が過ぎてゆきましたが、最後の最後で抜き返してくれました。悪くなかったですね」

−最終ラップに自己ベストタイムを記録しました。

「それまでずっと前を塞がれていましたからね。前を走る選手と同じタイムで走ることを余儀なくされた結果、ともいえるでしょうね」

−青山博一選手も、中盤集団の争いの中で着実に前へ出て、最後はクラッチロー選手とのバトルを制して7位フィニッシュ。

「いい方向に来ていますね。彼も予選まではいろいろと悩んでいたようなので、我々からも少し助言をさせてもらいました。そのアドバイスを素直に受け入れてくれて『その方向でトライをしてみる』と言ってくれていたので、それが結果的にうまくいったのかもしれませんね。今後が楽しみです」

−決勝で早々に転倒リタイアを喫したシモンチェリ選手ですが、予選までの走りはアベレージが図抜けていました。うまくいけば独走で勝つこともあり得るか、とも見えたのですが?

「転倒しなかったとしても、独走優勝はなかったのではないかと思いますよ。マルコはレース後半のタイヤマネージメントという課題に取り組んでいる最中ですから。仮にレース前半で3〜4秒以上のアドバンテージを築けば勝てることもあったかもしれませんが、他の選手がそれを許してはくれなかったのではないでしょうか。資質の高い選手であることは間違いないのですが、勝てるレベルに到達するにはあと一歩の前進が必要かもしれませんね」

−今回はRepsol Hondaの選手が1位、3位、4位。ベストリザルトとは言わないまでも、まずまず、いったところでしょうか。

「Hondaにとってのベストリザルトは表彰台独占ですから、確かに最高の結果というわけではありませんね。欲張りだすときりがないのですが、とりあえず今回の第3戦は、今までケガに苦しんできたダニが勝ってくれたという意味で、とてもうれしく思っています。ケーシーも、歩けないくらい腰を痛めている状態で3位に入ってくれました。今回のようなアクシデントさえなければ、今後もダニとケーシーは活躍してくれるでしょう。アンドレアも最後の最後までしぶとく食い下がりますからね。マルコだって、転倒しなければきっとトップ争いに絡んだでしょう。Honda勢全体が、かなりいい状態になってきたと思います。この調子で次のルマンでも、我々はさらに挑戦を続けていきます。今後も応援をよろしくお願いいたします」