vol.54

開幕戦は勝利。第2戦も連勝を。
がんばろう日本!

カタールのロサイルインターナショナルサーキットで行われた2011年開幕戦は、Reepsol Hondaのケーシー・ストーナーが、ポールトゥウィンの快勝。チームメイトのダニ・ペドロサも3位表彰台を獲得した。両ライダーは、表彰台で「ガンバレ日本」と記された日章旗を掲げ、中東の地から日本の人々を勇気づける温かいメッセージを送った。困難な状況を戦い抜いて勝利を勝ち取ったHonda勢の開幕戦を、HRCチーム代表の中本修平が振り返る。

「ケーシーは、もともとロサイルのコースが得意で、プラクティス中からいいタイムを連発していました。また、マシンもいい状態に仕上がっていたので、うまく運べばレースでも勝てそうな感触を掴んでいました。一方のダニは、不得意だったロサイルのコースを克服、攻略してくれて、レースでも序盤からケーシーとバトルを繰り広げました。しかし、中盤以降は左腕の痛みが大きくなってしまったために、最後は3位で終えました。とはいえ、総じてテストからレースまでうまく運んで来て、リザルトの上位をホンダライダーが占めることができたので、マシン面での底上げも進んできたかなと思っています」

−予選までの流れでは、表彰台独占もありそうに見えたのですが。

「それはないですよ。ロレンソ選手は、テストでもロングランペースが非常に安定して速かったですからね。彼のような選手を相手に戦って、表彰台を独占できるほど甘いものではないと思います。けれども、今回はワンツーを取りたかったですね。実際にダニは、途中から痛みがひどくなって順位を落としてしまいましたが、それがなければ2位を取れていた可能性は非常に高いと思います」

−レース中に痛みが出てきたのは、本人にも予想外のように見受けられました。

「去年の日本GPで転倒して左鎖骨を折ってから、骨そのものはどんどん回復しています。最終戦のバレンシアでも、骨は大丈夫だったのですが腕が痺れて感覚がなくなるような痛みが大きくなり、レース後半から順位を下げてゆきました。レース後に詳細な検査を受けたところ、骨は大丈夫だけれども、プレートのビスが少し浮いているのでそれを少し締めて、極力安静にしながら、左腕を使うトレーニングを控えていました。年が明けてセパンテスト前から、徐々に左腕のトレーニングも再開してきたんですよ。カタールでレース前に行った二日間のテストでも若干痛いけど大丈夫、と言っていたので、正直なところ、こういう展開になるとは思っていませんでした。
 大怪我をした後などは、普段はなんともなくても寒いときに痛みが再発したりすることがあるじゃないですか。それに近い何かなのかもしれませんね。レース後、スペインに戻ってCTスキャンMRI等の精密検査を行ったのですが、特に異状は見つかりませんでした。医師の診断では、骨折した部位に問題はない。治癒も進んでいて、神経への圧迫や血流の阻害などもないので、鎖骨のさらに内側にまだ多少のダメージが残っていたのかもしれない、ということでした。とはいえ、ヘレスのレースには問題なく出られるという話なので、次戦での活躍に期待をしています」

−両選手が表彰台に登壇した際に「ガンバレ日本」の文字が記された国旗と、Honda勢の各マシンに貼った「がんばれ日本!」のステッカーは、どうやって用意したのですか?

「ステッカーは、現地のステッカー屋さんを探して作ってもらいました。国旗は、HRC社長の鈴木哲夫に運んでもらう予定だったのですが、地震の影響で現地に来られない可能性もあったので、カタールの日本大使館へ、国旗を貸していただけないかとお願いに行ったんです。主旨を説明すると快く貸していただけましたが、幸い鈴木が日曜に持ってきてくれたので、大使館からお借りした国旗は使わずにそのままお返ししました」

−地震発生のとき、すでに現地入りしている皆さんの様子はどうだったのでしょうか。

「私はホテルの部屋でNHKの海外放送を見て、事態を知りました。まずはスタッフ全員に家族の安否を確認させました。電話がつながりにくかったので数時間かかりましたが、無事を確認できたので、以後は自分たちの仕事に集中しました」

−今回の地震の、HRCへの影響は?

「影響を受けたパーツサプライヤーさんが数社ありますが、基本的に今シーズンの部品はすでに納入済みなので、我々のレース活動自体への影響はほとんどない、と考えています。ただし、来年以降の開発については、さらにひと工夫が必要になるかもしれません」

−ほとんど影響がない、ということは、少しは影響がある、ということですか。

「開発はシーズン中も継続して行っていかなければなりませんが、今のところはたくさん用意したテスト部品をまだ100パーセント消化してないので、それらを試しながら、現在持っているアイディアで対応していくことが可能です。ただし、様々な部品をテストしていく過程で、新しいアイディアも出てきます。その場合に、新しい部品の製作日程が影響を受けて、アイディアの反映までに時間がかかってしまう可能性はゼロではないかもしれません」

−そのような場合に、計画停電が業務に影響を及ぼしそうですか。

「今のところは、サプライヤーさんの稼働は100パーセントではないし、我々も100パーセントではありません。今シーズンのレースというふうに捉えるとほとんど影響はないのは今も申しあげたとおりですが、レギュレーション変更後の来年のマシン開発に関しては大きな影響が出ています。サーキットテストをしたくても搬送できないのが現状ですし、今の日本はまだそれどころではない状態ですからね。早く皆が日常を取り戻せるように、我々なりに全力を尽くしたいと思っています」

−今シーズンは、以後のレースでもずっと「がんばれ日本!」のステッカーを継続して貼っていくのでしょうか?

「そのつもりです。開幕戦ではライダーのスーツにもつけたかったのですが間に合わなかったので、次のレースではその部分にも対応したいと思っています。
 日本が復興してほしいという強い思いは、当然、我々全員が抱いていますし、被災された方々へもメッセージを届けたいので、ステッカーは継続します。勝ってメッセージをもっと強く送ることが出来ればよりよいのですが、こればかりは相手のあることなので、やってみなければわかりません。勝算があるとは思ってないけれども、かといって負けるとも思っていない。だから、自分たちにできる100パーセントのことをやります。誰かのために勝ってあげようというようなおこがましいことはできませんが、とにかく自分たちが勝ち、その結果を喜んでいただくことで皆さんが励まされることに繋がるのならば、とても嬉しく思います。我々のライダーやスタッフ、あるいは日本で支えてくれている開発陣や補給部隊等、日々、必死でもがき苦しんでいる彼らに唯一報いる方法は、勝つことなのですから」

−次のヘレスに向けた抱負をお願いします。

「スペインのコースはスペイン人ライダーが得意なので、ダニには大きな期待をしています。ただ、ロレンソ選手もスペイン人なので、相当に手強い存在となることが予想されます。スピース選手も強力でしょうね。一方で、カタールで優勝したケーシーがホンダのマシンでどんなふうにヘレスを走ってくれるのか、ということも楽しみです。ダニが苦手なカタールを克服してくれたように、ケーシーにも期待をしています。Hondaが圧倒的に強いわけではないので勝負はやってみるまでわかりませんが、勝利を目指して100パーセントの力で戦います。応援をよろしくお願いします」