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vol.53

課題を克服し2011年チャンピオンをめざす

 いよいよ2011年シーズンが開幕する。2月上旬と下旬に各3日間、マレーシア・セパンサーキットで行われたプレシーズンテストでは、Honda勢の選手たちはいずれも好調な走りを披露した。一回目のセパンテストでは、日替わりでHondaライダーがトップタイム。二回目のテストでも首位を独占。ここまでの流れは順調にも見えるが、挑戦者のHondaにとって勝利への道は遠く険しい。眼前に立ちはだかる強力なライバル陣営に挑む今シーズンの意気込みを、HRCチーム代表の中本修平が語る。

「まずは、今回の地震被害でお亡くなりになった皆様へご冥福をお祈り申し上げるとともに、現在も被災地で厳しい状況を強いられている皆様に対し、心からのお見舞いを申し上げます。
 さて、わたしがF1からMotoGPへ戻ってきて、今年で3シーズン目になります。過去2年のウインターテストでは、Honda勢は上位にいなかったし、ましてや一番上にいるなんてありえないことでした。それが今年は2回のテスト、トータル6日間でずっとトップだったし、2回目の最終日にはHonda勢がトップ4を占めた。過去のテストでは、ダニひとりがいいタイムで他の選手はHondaのマシンに手こずっている、という状況だったことを思うと、確かによくなってきたことは実感しています。ただし、一発タイムはともかく、ロングランは優勢にあるわけではないので、今の状況だと予選はなんとかなっても決勝レースではダメかもしれない。勝つ、チャンピオンを取る、ということを目指すのならば、もう一皮むけないと難しいな、というのが正直な印象です。MotoGPを戦うレベルのライダーなら、それなりのタイムを出せるだけのベース車はできたかもしれない。でも、チャンピオンを取るためにはさらにもうひとがんばりが必要です。その意味では、まだ不安は大きいですね」

−セパンテスト1回目から2回目にかけての進歩は、どうだったのでしょうか。

「セパン1回目の結果を受けて、セパン2回目ではブレーキングスタビリティに対応するためにいろんな部品を入れた結果、改良はしたもののいまだ解決には至らず、といったところです。他社の走りをビデオで撮って解析してみると、彼らのほうがいいところもたくさんあります。細かいことも含めて課題はたくさんあるので、『うーん、ちょっと時間が足りないな』、というのが今の状態でしょうか」

−とはいえ、マシンは昨年と比べると確実に戦闘力が向上してきたように見えます。

「2010年のマシンは、大きく開発の方向性を振った結果、いいところとわるいところが出てきて、中盤以降に方向性をその中間仕様に戻して戦ってきました。この仕様が出来たころから成績もよくなってきて、その改良を進めていけば今年は十分に戦える、という手応えをつかんでいます。だから、2011年仕様は昨年後半のマシンからジオメトリーも変えていないし、剛性に対する考え方も変えていません。2010年仕様を熟成したものが2011年仕様、ということなんですよ」

−さきほど言及していたブレーキングスタビリティについての改善は?

「<ジャックナイフ限界>と我々は呼んでるんですが、ブレーキングしたときにリアが浮いてしまいますよね。それによってホッピングが生じるのですが、その限界は物理値だから、重心をできるだけ低くしてホイールベースを長くすることで(ジャックナイフ)限界は上がっていく。でも、Hondaの完成車パッケージでは、あれより低い重心はとれないんですよ。ホイールベースも長くしてしまうと、曲がらないしリアのトラクションを失ってしまいます。Hondaのマシンはカウルが小さいので一見コンパクトに見えるんですが、実はジオメトリー的には決してコンパクトではないので、従来はライディングポジションで対応してもらう状態でした。アンドレアたちを見てもらえばわかるように、ものすごくシート位置の後ろに乗りながらジャックナイフ限界を上げていたのですが、それも限界に来ていて、バックトルクリミッターつきのクラッチの改良や、エンジンブレーキ特性のコントロールなどを探ってるところです。開幕戦直前のカタールテストでは、それらの改善を狙った部品を入れる予定なので、いい方向を見いだせると思います。エンジンのコントロールやエンジン特性の分野ではかなりの改良が進み、一時期はアグレッシブだと指摘された部分がずいぶんよくなってきたので、それが扱いやすさに反映されて、ラップタイムにつながってきたのだと思います。最後はライダーのがんばりがモノを言う世界なので、今の状態でもひょっとしたら勝てる場合もあるかもしれないけれど、わたしたちはエンジニア的な発想をするので、もう少しライダーが余裕を持って戦えるマシンにしたい、という思いは強いですね」

−今、話に出た各部の改良のなかでも、クラッチには大きな進歩があるようですが。

「クラッチそのものは何も変わっていません。非常にコンベンショナルなものです。ただし、トランスミッションは従来の二輪で使ったことがないような構造のものを投入しています。わたしたちは<シームレス・トランスミッション>と呼んでいます。シフトアップ時の段差やトルクのロスが少ない機構で、開発に約2年の歳月を費やしました。欧州などの一部ではデュアル・クラッチではないかという噂も出たようですが、それだとレギュレーション違反になります。我々はレギュレーションに抵触する技術を採用することは、もちろん、ありません。でも、あのミッションは普通では思いつかない発想だ、という自負はありますよ。ギアが6枚並んでいるけれど、明らかに構造が違うんです(笑)。それを、セパンテストからワークス4選手に使ってもらっています。ライダーからのフィードバックも非常に良好です。ダウンシフトが少し固いのでそこを少し改良しなければならないのですが、コーナリング中でもシフトアップがすぐできるためにマシンにほとんどショックがなく、スロットルを戻さずにシフトアップしていける、と言ってくれています」

−では、プレシーズンテスト2回を終えて、6名のHonda勢に関する短評をお願いします。

「まず、ケーシーはドゥカティでもチャンピオンを取った速いライダーで実績もある選手。
Hondaに来てくれても速いだろうと思っていたら、期待通りの走りでタイムも出ています。ケーシーがタイムを出せばダニも負けじと出してくるし、ケーシー、ダニのふたりがタイムを出せばアンドレアもがんばってくれる。このレプソル3台がタイムを出せば、同じワークスマシンなんだから自分だって走れる、とマルコが発奮して、そのチームメートの青山君はワークスに負けてたまるかと思ってるからなお一層気合いが入る。……というふうに、相乗効果がいい形で生まれました。ケーシーの加入で一番期待していたのは、これなんですよ。また、選手ががんばることで、スタッフの側もセットアップミスをしないように緊張感が高まります。選手、スタッフともにいい効果が生まれていると思いますね」

−では、今シーズンはチャンピオン争いを期待できそうですか。

「最終戦のバレンシアでHondaライダー同士がチャンピオンを争っている、という状況に持ってゆくのがベストです。が、そう簡単には事を運ばせてはくれないのも明らかですね。最大のライバルは昨年のチャンピオン、ロレンソ選手(ヤマハ)だし、スピース選手もそれに匹敵する水準で、ロッシ選手(ドゥカティ)もシーズンを争う主役のひとりです。でも、わたしたちだって勝ちたいからレースをやっている。今は、なにがなんでもチャンピオンを取りたいんだ、という気持ちで選手たちをはじめスタッフ全員が一丸となっています。
 もちろん、レースはやってみなければわからないし、そう簡単にはいかないとも思うけれど、だからこそ、あきらめずに続けるんです。勝ちたいから。どうしてもチャンピオンを取りたいんです。執念深いんですよ、わたしは。だからこそ、選手とスタッフたちが必死になって取り組んできたことに対して、『君は正しいんだ』『君たちは間違ってなかったんだ』ということを、なんとしてでも実証してあげたい。そして、その結果をファンの皆様とともに分かち合いたいと思っています。
 最後に、被災者の皆様に対しあらためて心からのお見舞いを申しあげるとともに、この困難な時期を乗り越えるための精神的支援をできるよう、微力ではございますが、わたしたちは全力を尽くして戦って参ります」