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多聞「MotoGPのことがだいぶんわかってきました。これまで考えたこともないんですけど、乗ったらどんな感じなんですか? 宮城さんなら市販車からレーシングマシンまで、いろいろなバイクに乗ってきたから、わかるんでしょう?」
宮城「逆に質問しますけど、『乗って確かめてみたら?』って言われたらどうです? 乗ってみたいですか? MotoGPマシン」
多聞「えっ? どうでしょう。別物すぎてまったく想像もつかないというか。乗れるんですか?」
宮城「多聞さんでも乗れると思いますよ」
多聞「本当に? たとえば四輪のレーシングマシンって、ピットから走り出すことすら難しい、ってよく聞くじゃないですか。それと同じで、MotoGPも『二輪』ということ以外に私たちのバイクとの共通点はなくて、もっと別の乗り物なんだと思ってました」
宮城「ツインリンクもてぎのHonda Collection HallでF1の動態確認テストにも携わった経験などからもわかるんですけど、おっしゃるとおりF1は普通の人には、まず動かせません。スイッチのレイアウトからシフトチェンジの方法から、スロットル、ブレーキまで全部違いますから。ステアリングについているパドルシフトだって、クルマごとに使い方が違うので、乗る前に携帯電話の説明書よりも分厚いくらいの解説書を読まなきゃいけない、みたいな感じですよ」
多聞「ですよね」
宮城「でもMotoGPのマシンって、スロットルもクラッチもブレーキペダルもシフトペダルも、みんなが教習所で最初に乗るであろうCB400 SUPER FOURと基本的には同じ操作で走りますからね。F1だって、もちろんクルマとしての究極の形ではあるけれど、僕らが乗るクルマの延長線上には、ない。でもMotoGPは間違いなく僕らと同じ操作で走っているんです。だからこそ、レーシングマシンからCBR1000RRのような市販車への技術的なフィードバックなんかも、多く存在するんですね」
多聞「そうなんだ……。そう聞くと、急に身近に感じてきました。でも、基本操作はいいとして、エンジンがすごく気難しくて、走り出すなりプスン、って止まってしまうということは?」
宮城「僕が現役時代にレースをしていたバイクや、さらに前のバイクは、そういう面がなきにしもあらずでしたね。性能を一番発揮できる領域でしか、思い通りの動きをしてくれないとか、特定のライディングスタイルでしか乗りこなせないとか」
多聞「今は違う?」
宮城「市販のモーターサイクルの基準ではなくてあくまでも『レーシングバイクとして』という前提が付きますけど、現代のグランプリのバイクって『乗りやすい』バイクじゃないとダメなんですよ。生身の身体で時速300kmを越えるようなスピードでライバルと競争して、優勝するための道具なんですから。そんなギリギリの戦いの中で、昔みたいなって言うのも極端ですが『個性的なバイク(笑)』に乗らないといけなかったら、もう戦う前から負けちゃってるみたいなものですよ。
たとえばの話、乗った瞬間から『これ乗りにくい!』みたいなバイクでツーリング行きたいと思います?」
多聞「ははは、思わないです」
宮城「でしょ? 朝、駐車場でバイクにまたがってエンジンかけて、『ああ、やっぱりこの感じが私のバイクだ』って思うバイクだとツーリングも楽しいよね」
多聞「そうですそうです」
宮城「レーシングバイクもいっしょ。現役の選手は、僕みたいな表現はしないと思いますけど、バイクにまたがって『おお! これこれ! う〜ん、わかってるな!』と思いながらピットから出て行った方が、絶対にいい結果が出ます。だから、Hondaのエンジニアやメカニックが、一台一台を6人のライダーに合わせてライディングポジションからエンジン、ブレーキのフィーリングまで、ものすごく細かくセッティングしているわけですよ」
多聞「へえ……。乗るだけなら私でも乗れるけれど、勝つということを考えると、そんなことまでしないといけないんですね」
宮城「そう。僕がレースをやっていた頃も、『ブレーキレバーでこんな感じのをつくってほしい』ってリクエストしたら、次のレースのときに本当に『こんな感じ』のレバーが出てきましたから。それが無言のプレッシャーになっていたりもするんですけど(笑)。合わせられるものは、できるだけライダーに合わせたほうがいい。RC212Vにも、それができるだけのセッティングの幅広さがあるからね」
多聞「『普通のバイクと操作が同じ』と聞いたら、がぜんMotoGPマシンにもライダーにも親近感が湧いてきました。今度『乗ってみる?』って言われたら『乗ってみる!』って言うようにします!」
宮城「アクセルのワイドオープンは禁物(笑)! まあ、くれぐれもゆっくりね。転んだら、MotoGPマシンは高いですよ!」