「バイクは好きだけれどバイクのレースはあまり観たことがない……」という方は多いのではないだろうか。「景色を楽しむために乗っているから」「毎日の移動のために乗っているから」という方にとって、「誰よりも速く」というレースの世界が縁遠いもののように思えるのは、無理もないと思う。
しかしMotoGPは、少しでもバイクに親しんでいる方なら誰でも「面白い」と思える要素がたくさんあると、私は思っている。なぜなら、MotoGPマシンは我々が乗る「普通のバイク」の、MotoGPライダーは我々「バイク乗り」の延長線上に、確かに存在するものだからだ。
そこで今回は、雑誌などで活躍する「モデライダー」こと多聞恵美さんをゲストに迎え、これまでの「2011年シーズン分析」とは少し趣向を変えた「バイク好きのためのMotoGP基礎知識」をお届けしてみたい。肩の力を抜いて、お楽しみいただければと思う。
宮城 光(以下 宮城)
「さあ、MotoGPのことなら何でも答えますよ! どうぞ!」
多聞 恵美さん(以下 多聞)「じゃあ、さっそく『MotoGP初心者のバイク好き』代表として質問させてもらいますね。ツーリング中に、駐車場でされるような質問で恐縮なんですけど、MotoGPマシンのエンジンって何ccなんですか?『ちょっと観てみようかな』と思ったときに、気になる人は多いと思いますよ」
宮城「4ストローク 800ccですね。ちなみに今は全メーカーが4気筒のエンジンです」
多聞「どうせなら『1000』とかの方が、キリがいいような気もするんですけど……」
宮城「良い質問ですねぇ〜! 2002年にMotoGPが始まったときは、『1000』に近い990ccだったんですよ。2ストローク500ccのエンジンを積んだ、従来の『GP500クラス』のバイクと混走する関係で、『同じエンジン回転でも、4ストロークのエンジンは2ストロークのエンジンに比べて爆発回数が半分だから、排気量を倍にすれば似たようなタイムで走れるだろう』と考えたわけですね」
多聞「なるほど。始まった当初は2種類のエンジンが混走していたわけですね。2ストロークと4ストローク、どっちが速かったんですか?」
宮城「シーズン前は『長い歴史の中で究極と言えるレベルまで進化を遂げてきた500ccの方が速いかもしれない』という前評判が結構あったんですよ。Hondaのマシンで言えば、『NSR500』ですね。でも、シーズンが始まってみれば4ストローク990ccのMotoGPマシンの方が圧倒的に速かったですね。HondaのRC211Vは、16戦中14勝をマークするという圧倒的な強さを見せてチャンピオンを獲得。以降2006年まで、MotoGPクラスは990ccのエンジンで争われてきました」
多聞「それが800ccになったのは、どうしてなんです? もう500ccのバイクは走っていないので、それと速さを合わせるため……じゃないですよね?」
宮城「我々が普段乗っている普通のバイクだったら考えられないことですけど『タイヤがもたない』という問題が発生したのが原因の1つ。250馬力以上あったとも言われる、とんでもないパワーのせいでタイヤがあっという間に摩耗し、当時はわずか120km程度のレース距離を走りきることすら危うくなってしまったんです。
もう1つは、いきすぎたパワー競争はライダーを危険にさらす可能性があったということ。990ccの時代は、最高速も時速350km強くらい出ていたんですけど、そこまで速い必要があるのかと。それなら排気量を20%落としてパワーも同じくらい落としましょう、それでも十分すぎるくらいエキサイティングでしょう、ということになったというわけ。今は……これでも多くの市販車に比べるととんでもない数字だけれど、220〜230馬力程度と言われています」
多聞「なるほど」
宮城「でも、この800ccも今年で最後なんですよ。次はまた1000ccになるんです」
多聞「ええ!? ついさっきタイヤが最後までもたないとか、危険だとか言っていたのに……」
宮城「まっ、色々な条件を付けて、よい形になると思いますよ。今年までは、最大気筒数と800ccまでという排気量の制限が大まかな決まりでしたが、来年のエンジンはボア径、つまりピストンの直径を81mmまでにせよという条件が付きました。タイヤやスピードの問題は……またパワーだけを追求していったら同じことになるんですけど、今度はそういうわけにはいかないんですよ」
多聞「というと?」
宮城「MotoGPが始まった当初は年間でエンジンを何台使ってもよかった。エンジンはパワーを出そうとすると、比例して耐久性は厳しくなるんだけれど、そんなのお構いなしだったわけです。でも、今期からは使えるエンジンが18戦で6基までというルールになっているから、単純計算で1基あたり3レースは走れるだけの耐久性を持っていなくてはいけない。だから当然パワーも抑えられるだろうと言われていますね。決勝で使えるガソリンも21Lまでと定められていて、燃費の面でもむやみやたらにパワーは出せないというわけ。これは800ccに向けての燃料量だったわけですが、来季のプロトタイプ1000ccにも適用されるわけです。これはエンジンマネージメントをどうするか、相当に考えなくてはならないのです」
多聞「なるほど。……それはそうと、さっきから『MotoGPが始まった2002年』みたいな話を聞くと『あれ? 思ったより歴史が浅いのかな?』とも思うし、『それまでの2ストローク500cc』みたいな話もあって、どういうことなのかよくわからないんですけど……。MotoGPって、いったいいつからやっているんです?」
宮城「ああ、たしかにわかりにくいかもしれないですね。MotoGPという名前が付いたのが2002年というだけで、過去のこともぜんぶ引っくるめて言うならば『ロードレース世界選手権』。『WGP』、『ワールドGP』っていう言い方もする。僕らにとっては『世界グランプリ』というのが、なじみ深いかな」
多聞「ああ、なるほど……。じゃあ、人や年代によって呼び方が違うのは、そういうことなんですね。ようやく謎が解けました」