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2011年シーズンをともに戦った、すばらしきライバルたち

元HRCワークスライダーとしての多少のひいき目を抜きにしても、私は「Hondaが強いとレースが面白くなる」と思っている。Hondaが強さを発揮すればするほど、他の陣営の開発に力が入り、さらに戦いが激しいものになっていくからだ。シーズン開幕当初からお伝えしていることではあるが、開幕前からHonda勢が圧倒的な速さを見せた今シーズンは、ライバルの動向からも目が離せなかった。ここで、そのすばらしきライバル勢についても振り返ってみよう。

やはり手強かったヤマハ勢

ホルヘ・ロレンソが3勝、ベン・スピーズが1勝の計4勝を挙げたヤマハは、バレンティーノ・ロッシがドゥカティに移籍したあとも、やはり手強い相手だった。ロレンソはディフェンディングチャンピオンにふさわしい走りを見せ、常にストーナー、ペドロサと優勝を争ったし、スピーズもその才能を本格的に開花させつつある。特に2戦目、ヘレスにおけるロレンソの優勝は、このレースで勝ち続けることの難しさを象徴するかのような出来事だったと思う。オフシーズンテストから一度もトップを譲らなかったHonda勢を打ち負かしたからだ。
一方で、マシン開発については、少なくとも結果から見る限りは全てが順調であったようには見えず、ロッシがドゥカティに移籍したことが影響してしまったようにも思える。ロッシが在籍していることのメリットは、レーシングライダーとしての強さだけにとどまらない。豊富な経験とマシンに対する繊細な感覚を持つことから、彼の意見を生かして開発をスムーズに進めることができるのである。開発の方向性で迷ったときに、「ロッシの満足する設定」をベースにして、各ライダーのセットを詰めていくことも可能だ。いかにロッシの存在が大きかったかを物語るが、来シーズンは、引き続きリーダーであるロレンソのもと、さらに熟成の度合いを高めてくるはずだ。

先進的なマシン設計に挑んだドゥカティ

そのロッシの移籍先であり、マシンの開発が一気に加速すると思われたドゥカティだが、残念ながらカーボンモノコックフレームをはじめとした先進的なマシン設計が完全には機能しなかった印象だ。シーズン中に、アルミフレームを組み合わせた改良型の車体にもトライするなど、ロッシの要求に答えるべくアップデートを続けたが、最終的にはロッシ、ヘイデンとも3位表彰台を1度ずつ獲得するにとどまった。
しかし、ここもヤマハ時代と同様、ロッシがリーダーシップを発揮し、開発の方向性が定まると追い上げてくるのは間違いない。ロッシも30歳を越え、一部には「全盛期を過ぎた」「モチベーションが低下しているのではないか」などという声もあったが、決してそんなことはない。ヤマハ勢と同様、オフシーズンテストから、その走りに注目していきたい。

多くの見せ場をつくったスズキ

スズキは、今年から一台体制での参戦となったことで開発のペースが鈍化してしまうことが懸念されたが、まったくの杞憂に終わった。成長著しいアルバロ・バウティスタのアグレッシブなライディングによって、シーズン終盤には表彰台も狙える位置でレースを大いに盛り上げてくれたのである。最終的には転倒を喫してしまったものの、もてぎでの堂々とした3位走行も記憶に新しいところだ。
残念ながら2011年いっぱいでワークス活動を休止することが発表されたが、2014年からの復帰をめざして、競争力のあるマシンの開発を進めていくということ。ぜひそこでHondaとのバトルを再び繰り広げてくれることに、期待をしよう。

2012年シーズンが秘めた「語り継がれる時代」への可能性

2012年シーズンは、また新たな展開を迎えることになる。まず、エンジンが1000ccに拡大されることになる。これによって走りがどのように違ってくるのかは、またオフシーズンテストの結果を見てご報告したいと思うが、もうひとつの目玉となるのがCRT(クレーミング・ルール・チーム)という新ルールの導入だ。
これは、市販車のものをベースとしたエンジンを、フレームビルダーの製作した車体に載せたオリジナルマシンで参戦できるようにするという、新しい試みだ。すでにチーム・サン・カルロ・ホンダ・グレッシーニからは、CBR1000RRのエンジンと、Moto2にも参戦するフレームビルダー、FTRの車体を組み合わせたマシンでの参戦がアナウンスされているし、BMWやカワサキなど、現在はMotoGPに参戦していないメーカーのエンジンを搭載したマシンの登場も期待される。
絶対的なパフォーマンスとしては、ワークスマシンにかなうものではないと予想されるが、全日本ロードレース選手権や、アメリカのAMAスーパーバイク選手権などのレースで大排気量車の扱いに慣れたライダーが、MotoGPに参戦しやすくもなる。世界最高峰の二輪ロードレース、MotoGPへの門が広く開かれたのは大いに歓迎すべきことだと思う。

それに、こんなシナリオも期待できる。
ちょっと想像してみてほしい。例えば、コンディションの難しい雨のレース──2011年シーズンなら、上位勢が次々に転倒を喫した第2戦のヘレスなどを思い浮かべていただければいいかもしれない──腕自慢の若いライダーが、絶対的なパフォーマンスでは劣るCRTのマシンを巧みに駆ってワークスチームを追い回し、表彰台を獲得する様子を……。胸が躍らないだろうか?
かつてのWGPでは、野心に燃えるワイルドカードライダーがレギュラー参戦ライダーとし烈な戦いを繰り広げたことでチームからの注目を浴び、チャンスをつかむといったような、ロードレース版「シンデレラ・ストーリー」とも言うべきものが珍しくなかったが、もしかするとそんなシーンが現代に再現されるかもしれない。よりエキサイティングなレースが展開されることだろう。今からそんなシーンの実況解説をするのが楽しみだ。

勝者が勝者で居続けるために

よく言われていることだが、誰もが勝利をつかもうと必死に努力をし、あらゆるものを通常では考えられないほどの早さで進化させ続けているレースの世界において「その場にとどまる」ことは許されない。「停滞」はすなわち「後退」を意味するのだ。
そうした意味で、来年からのHondaはさらに大変になる。苦しい戦いを強いられた4年間の経験を糧にして、ようやく手にした勝利ではあるが、この血のにじむようなプロセスを永遠に繰り返さない限り、勝者が勝者でい続けることはできないのである。
ストーナーはおそらく来年も速いだろうが、当然、油断はできない。
わずか5年ほど前を振り返ってみよう。デビューしたばかりのストーナーが、ここまで圧倒的な強さを誇るライダーに成長すると、だれが予想しただろうか? 2戦目でポールポジションを獲得するなど、速さの片鱗は見せつけていたものの、「速いけれど、もろいライダー」という評価が一般的ではなかっただろうか?
来年、ストーナーと同様に「大化け」するライダーがいるかもしれない。それがHonda陣営から出てくるのが、このコーナーとしてはありがたいことだが、スピーズ? バウティスタ? 後半に向かって右肩上がりに調子を上げてきたアブラハムという可能性だって捨てきれない。ヤマハ、ドゥカティのライバルメーカーによる包囲網もさらに狭められるだろう。
しかし、これを退けて勝ち続けてきたのがかつてのHondaであり、そこにHondaが「憧れ」の存在であり続ける要因があったのだ。元HRCワークスライダーとして、そこにぜひ期待をしたい。

新たな時代も、激動の800cc時代に負けず劣らず、目の離せない時代になるのは間違いないだろう。
今シーズン、このコーナーをご覧いただいた皆さまにお礼を申し上げるとともに、今後もMotoGPにご注目いただければ幸いである。

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