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さて今週末には、いよいよMotoGPファンが待ちに待った日本GPがツインリンクもてぎで開催される。Honda勢からはフル参戦中の6名のライダーに加えて、全日本ロードレース選手権で活躍する秋吉耕佑、今年の鈴鹿8耐で最年長ウイナーとなった伊藤真一もスポット参戦するなど、非常に楽しみなレースとなっている。直前情報として、いくつか見どころをお伝えしたいと思う。
タイトルの行方が気になるのはもちろんだが、やはりこのレースにおいて注目したいのはこの人だろう。MotoGPライダーとしての2度目の母国レースを迎える青山博一だ。粘り強い走りで着実にポイントを稼ぎ、第14戦アラゴンGPを終えてランキング10位。最高位はスペインGPでの4位となっている。
私はテレビの解説でも常々「トップ10フィニッシュを」と言い続けてきた。その理由はシーズン序盤でその位置に付けていれば、夏休み前あたりでシングルフィニッシュが見えてくるし、それを確実にこなせば終盤戦での表彰台獲得のチャンスもあるだろう、と考えたからだ。
ここ最近のレースでもコンスタントにトップ10には食い込んでいるものの、2011年も終盤にさしかかった今、この順位にいるというのは、目標から5〜6戦ぶんは遅れを取ってしまっているように感じる……というのが正直なところだ。この遅れというのは、彼がMotoGPクラスへとステップアップした2010年に、転倒によるケガで欠場していた期間とぴったり重なる。かえすがえす、昨年失われた2ヶ月が惜しいところだが、後ろを振り返っても仕方がないし、青山自身もまっすぐに前を見据えている。
地元でいつも以上の実力が出る、というライダーは多くいるが、青山も当然そんな一人だ。彼はこれまでも声援を力にして、驚くべき「もてぎミラクル」を見せてきたことがあるし、実際に「地の利」もある。ぜひとも、ここですばらしいレースをして流れを一気に変え、終盤戦で大いに暴れ回ってもらいたいところだ。現地へ観戦に行くという方は、彼に精一杯の声援を送ってあげてほしいと思う。
大げさでも何でもなく、それが表彰台獲得に向けた大きな力になるはずだ。
「プラクティスセッションを全開で走ることができたら、もう少し予選に向けたセットアップが詰められるのに」……そんなチームやライダーの葛藤も、みなさんの前でひっそりと存在しているかもしれない。
MotoGPクラスでは、2010年よりコストの抑制などを目的とし、シーズンを通じて使用できるエンジンが6基までとなる基数制限が行われているのだが、これは「できそうでできない」という、なかなか絶妙の設定であったようだ。前戦、アラゴンGPでは7基目のエンジンを使い始めたロッシがピットスタートのペナルティを受けたことを記憶されている方は多いと思うが、実は他にも主立ったところでヘイデン、青山、エリアス、そしてレプソル・ホンダ勢にとって目下最大のライバルであるロレンソと、多くのライダーがアラゴンGPの時点ですでに「最後の1基」を使用中なのだ。
レースにおけるパフォーマンスを第一に追求したレーシングバイクのエンジンは、市販車のエンジンのように何万キロも走れるようには造られておらず、通常はせいぜい3〜4戦分のエンジンライフしか持ち合わせていない。アラゴンGPも入れると5戦を1基のエンジンで戦わなくてはならないという計算になるため、ペナルティを甘んじて受けるのでなければ、プラクティスセッションで回転数をセーブして走ることになると考えられる。
コースは一部で再舗装が行われていて、昨年までとはコンディションも異なるのだが、はたして、「100%の力で走れない」状態でどこまでバイクを仕上げられるだろうか。
ちなみに、アラゴンGP終了時点でポイントランキングトップに立つストーナーのエンジンは4基目。ドヴィツィオーゾも同じく4基目。ペドロサとシモンチェリが5基目となっている。
転倒の状態などによって、ライダーごとにエンジン交換のタイミングは異なるが、パフォーマンスと高い次元で両立された信頼性は、やはりHondaならでは。70年代に「不沈艦」とまで呼ばれた「RCB1000」で耐久レースに参戦し、数々の勝利を重ねてきたこと、80年代の過酷な鈴鹿8耐などを通じて「耐久性」へのノウハウを蓄積してきたことは、このアドバンテージと無関係ではないだろう。
エンジンの「耐久性」というのは「パワー」と比較して華やかなファクターだとは言い難い。特に、エンジントラブルによるリタイアが頻発するわけではなく、人知れずエンジン交換がなされている現代では、ファンが意識をする機会さえ訪れないかもしれない。だが重要な局面でスロットルを心おきなく開けていけるかどうかを、チャンピオンシップがかかるいま、この「耐久性」が大きく左右している。シーズンもクライマックスを迎えるタイミングで新たに登場した、レースを楽しむための新たな視点だ。このあたりも意識してみると、各セッションをより興味深くご覧いただけるのではないかと思う。
さて、シーズン後半戦をここまで振り返ってきた。今シーズン初めから続けてきている私なりの「分析」が、年に1度のMotoGP日本GPをより楽しいものにするためのものになっていれば、うれしい限りである。
当日は日本テレビ系の生中継で、私が現地からピットレポートもお送りする予定になっている。いつもはお茶の間のテレビ画面越しでお会いしているMotoGPファンのみなさんに、ツインリンクもてぎでお目にかかれるのが、今から楽しみだ。