今シーズンも、残すところ4戦となった。
ポイントランキングではケーシー・ストーナーが284ポイントと、2位のホルヘ・ロレンソに44ポイント差をつけてトップに立っている。Hondaが2006年以来遠ざかってしまっている悲願の総合優勝が、いよいよ現実味を帯びてきたと言えるだろう。
今シーズンは開幕戦からHondaが強さを見せつけたが、ライダー、マシンとも、その時点の実力のままではここまで来ることはできなかっただろう。Hondaの強さがライバルをより手強いものとし、Hondaに成長を促す……そんな激動の2011年シーズンで、彼らは何をめざし、どのように歩んできたのだろうか。
注目の日本GPを前に、振り返ってみたい。

インディアナポリスGPで証明された
ライダー+マシンの「本来の実力」

ライダーが本来持っている力をどのくらい引き出せているのか、バイクとのマッチングがうまくいっているのか──つまり「どのくらい『ノレて』いるのか」ということを読み解くのはレースの解説などを行う上でとても重要だ。我々はさまざまなデータを読み解き、これを明らかにするということを、いつも行っている。目の前の表面的な順位ではない、もっと深いところにある差から、その後のレースの展開、シーズンの行方などが見えてくることが多々あるからなのだが、これを見抜くのは難しいし、わかりやすいかたちでお伝えするのはもっと難しい。客観的な基準というものが存在せず、レース一回の結果からそれを導き出すこともできないからだ。
ところが先日、これが非常にわかりやすいかたちで示されたレースがあった。第12戦インディアナポリスGP。その決勝順位をご覧頂きたい。
バイクの仕上がり、チーム力、ライダー本来の実力などを総合し、「2011年における本来の実力」であると私が考えていた順位と、ぴったり合致している。

タイヤから「本来の実力」が見える

私が近年のMotoGPにおいて「本来の実力」を測るバロメーターだと見ているのが、タイヤだ。ここ数年のタイヤは、とにかく「熱」を入れないと本来のグリップを発揮しない。タイヤに負荷をかけて速く走ることでゴムが発熱し、グリップ力が向上する。これによって、さらに速く走ることができるようになるのだが、MotoGPマシンや1000ccクラスのレーシングマシンを走らせた経験が少なかったり、バイクとのマッチングが合わなかったりといった理由で速く走れないライダーほど、いつまでたってもタイヤに「熱」を入れることができない。そして無駄に空転するタイヤの表面はささくれ立ち、グリップを発揮する前に摩耗していってしまうのである。
現在のタイヤはブリヂストンの単独供給であり、タイヤサプライヤーによる差が出ない分、そのあたりがはっきりとわかるというわけだ。
インディアナポリス・モータースピードウェイは、今年になってインフィールド部分で再舗装が行われ、タイヤにとって非常に厳しいサーキットへと生まれ変わったのだが、このことが「本来の実力」を浮かび上がらせることとなった。

上位陣の実力は、完全に互角

このレースはタイヤの使い方が勝敗を分けることになるということは、ある程度前から予想はされていたものの、決勝レースは予想を上回る厳しさだった。ピットインしてタイヤを交換したり、レース終盤には「これ以上走るのは危険だ」と訴えたりするライダーもいたほどで、ライダー+バイクのパッケージングがどれだけ仕上がっているのかということが、そのままレースの順位として結果に表れたと言えるだろう。
注目したいのは上位の4名のストーナー、ペドロサ、スピーズ、ロレンソのラップタイム。最初から最後までタイムの落ちが非常に少なく、本来はタイヤが摩耗してきてグリップが低下するはずの終盤(ストーナーは20周目、ペドロサは24周目)にベストラップをたたき出すなど、完全にタイヤを自らの支配下に置いていたのが印象的。もちろん、レースを走り終えたタイヤの表面の摩耗状態も良好だった。このことからも、タイトル争いのカギを握る上位陣の実力は、完全に互角だと言うことができる。

せっかくなので、もう少し各ライダーの実力について見てみよう。
今シーズン、アグレッシブな走りでレースを盛り上げてくれているシモンチェリは12位でフィニッシュ。ベストラップは2周目で、以降タイヤが機能しなくなったことでずるずるとタイムを下げていき、最終ラップの1周前には、周囲より4秒ほど遅い1分45秒台のタイムで周回している。一発の速さは折り紙付きで、すばらしいライディングセンスの持ち主であることに疑いの余地はないが、レース運びに関しては、まだ大いに改善の必要あり、といったところだ。
9位でフィニッシュした我らが青山博一は、序盤にペースが上がらないという課題が残るものの、今回はこれがよい方向に作用したのかもしれない。多くのライダーを苦しめたタイヤ表面のグレイニングも発生せず、レース終盤でも果敢に仕掛けていくという、持ち前の粘り強い走りを披露した。
Honda勢最大のライバルであるヤマハワークス勢のベストラップは、ロレンソが8周目。スピーズが13周目。Honda勢に比べると早いタイミングで記録されているが、その後も安定してラップを重ねている。ライダーのスキルもさることながら、バランスのいいバイクがあってこそ成せる業だろう。特にハードタイヤでスタートしたスピーズはレース前に「10周目以降にペースを上げていこうと思う」と公言していたが、その言葉通り13周目にベストラップを記録。さらには、レース終了時のタイヤの状態はロレンソよりも良好だった。今後、より一層存在感を増してくるのは間違いない。Honda勢にとって、警戒しなくてはならない相手だと言えそうだ。

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