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好調のHondaが直面した「試練」

タイヤの選択に失敗した第5戦カタルニアGP

カタルニアGPでのレプソル・ホンダ勢は、「強さ」が試される局面にあった。
レースで使用されるタイヤには「ソフト側」のタイヤと「ハード側」のタイヤがあり、当然「ソフト側」のタイヤの方がブレーキング、コーナリング、加速とあらゆる面で有利だ。一方、「ハード側」のタイヤは、路面の温度が高くなった際に長くパフォーマンスを維持できるのだが、絶対的な性能では一歩劣ってしまう。
チームは路面温度が高くなることを見越して「ハード側」のタイヤを装着したわけだが、予想に反して決勝で路面温度が上がることはなかった。全員がそれなら何の問題もない。しかしハード側のタイヤを選んだのはレプソル・ホンダ勢の2台を含めてわずか3台。タイヤのチョイスを完全に外してしまったのだ……。

厄介なことに、このサーキットではレースの直前となる5/22にF1が開催されており、路面にべったりとF1タイヤのラバー(ゴム)が貼り付いているなど、路面の状況も極めて悪かった。
F1では、何台ものマシンが何周にもわたってコーナーを通過する中でタイヤが溶けて路面に付着していき、レース後半になると路面自体のグリップが向上。ラップタイムが上がっていく。だが、路面にへばりついたラバーはMotoGPのタイヤと比較して圧倒的に「硬い」F1用のコンパウンドであり、MotoGPマシンにとってはグリップが向上するどころか、逆にグリップを低下させるものとなる。特に最終セクターではF1専用シケインが増設されていた事から、路面に激しいブレーキング痕が残り、思うようにタイヤがグリップしなくなるなど、ライダーは非常に厳しい戦いを強いられることになる。

しかしレースを終えてみれば、ストーナーは背後から迫ってくるロレンソとスピーズ──こちらはソフト側のタイヤを装着している──から逃げながら、レースのペースを見事にコントロール。彼らに追い抜く隙を与えないまま先頭でチェッカーを受け、ドヴィツィオーゾもスピーズの背後に食らいつきつつ、後ろから迫るロッシの猛攻を見事に凌いだのである。
去年までのRC212Vでは、そうはいかなかっただろう。今年のRC212Vは、タイヤがきちんとグリップしない場面でも「強い」のだ。

レインコンディションの中で行われた第6戦イギリスGP

大雨──当然、路面は滑りやすくグリップしない──の中で行われたイギリスGPで、「グリップしない場面でも簡単には破綻しない」という2011年型RC212Vの「強さ」の一端を見いだすことができた。特に路面の状況が悪い中で難しくなる「加速、減速」の一連の流れが実にスムーズなのである。
まず減速時。たとえば、エンジンブレーキの制御がうまくいっていないマシンの場合は、リアタイヤが横に流れてしまうような不安定な挙動を示すことがあるが、RC212Vの場合は理想的な体勢を保ったまま、確実にスピードを落としていき、コーナーへアプローチしていく。これは、車体側のバランスが優れているのはもちろんのこと、エンジンまわりのコンピューター制御によるエンジンブレーキのコントロールが高い精度で行われていることによるものだろう。エンジンから発生する強力なバックトルクをいかに手なずけるか。これは4ストロークエンジンになってからの最高峰クラスにおいて常に課題となってきたものだが、現時点で理想的なものに近づいているということが言えそうだ。

そして、コーナリングから加速にかけてだが、こちらはサスペンションの動きが印象的だ。
通常、レーシングマシンは加・減速時の前後動(ピッチング)をできるだけさせないことが望ましいとされており、サスペンションもある程度動きを抑える方向でセッティングされる。おおまかなイメージで言えば、リアサスペンションの動きが大きいと、エンジンパワーがタイヤに伝わる前にサスペンションを縮めるために使われて、加速がワンテンポ遅れることになってしまうし、フロントフォークの動きが大きいとブレーキングでリアが浮き上がってしまう……といった具合だ。どちらもレースをする上でありがたい挙動ではない。
だが、雨の中で見るRC212Vは、サスペンションが実によくストロークしている。フロントタイヤが滑ってライダーが投げ出されそうになったり、リアタイヤがホイールスピンを起こして前に進んでいかなかったりと、路面がグリップしないことで神経質になりがちなマシンの動きが、よく動くサスペンションによって和らげられ、路面を確実に捉え続けているように見えるのだ。
これに、Hondaがこれまでも得意としてきた、優れたトラクションコントロールシステムが加わり、確実にマシンを前へと進めていく。優れたシステムをエンジニアが作り上げ、メカニックがレースコンディションに合わせてセッティングをする。マシンを信頼できるから、ライダーはどんどんスロットルを開けていくことができる。こんな好循環が生まれているのではないだろうか。

これらは「強さ」を実現するための要素の一部でしかないだろうが、過去4年間にわたって「速くて強いバイク」という、一見しただけではと無茶にしか思えないような目標に向かって黙々と挑んできたエンジニアの努力の成果であると思うし、それこそが6戦を終えた時点で、すでにエンジン規定が800ccとなって5年目RC212Vによる年間最多勝記録を更新したという結果に表れている、と見るべきだろう。


結果だけを見てみれば、Honda勢が「快進撃」をしているかのように思える序盤戦だったかもしれない。しかし、HRCのチーム代表、中本修平さんは今もオフシーズンテストから続けてきた「まだまだ」という姿勢を決して崩さない。確かに昨年のデータに照らし合わせてみると、置かれている状況は必ずしも盤石とは言えない。昨年6戦終了時点では、140ポイントを獲得してランキングトップに立つヤマハのロレンソが、2位のペドロサの93ポイントに対して47ポイントもの大量リードを築いていた。一方、今年はランキングトップに立つストーナー110ポイントに対して、2位のロレンソは12ポイント差の98ポイントとなっており、1回のレースでその差を覆されてしまう可能性さえ残っている。

これまでのレースは、例えるならスタートダッシュを決め、フロントを少し持ち上げながら全開で加速してきた……といった状況だろう。間もなく中盤戦。2速にシフトアップし、いまだ背後から大きく聞こえてくるライバルのエキゾーストノートを遠ざけていくことができるか。これが今年のチャンピオンシップの行方を占うことになろう。
Hondaが、強力なライバルたちを相手にどんな戦いを見せるのか。ますます目が離せなくなってきた。

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