今回は最初に「結果」をお話ししてしまおうと思う。
これから振り返る第3戦ポルトガルGPから第6戦イギリスGPまで、すべてレプソル・ホンダ勢による勝利のうちに終わっている。実に見事な成績だ。
レースが本当に「結果がすべて」だとしたら、この4戦の持つ意味は「Honda勢が勝った」の一言で片付けてしまうこともできるだろう。だが、MotoGPという世界最高峰の二輪ロードレース全体、そして800cc時代の過去4年間、さらにはそれ以前までも含めた、Hondaとしてのレースへの取り組み方までをまとめて考えてみると、非常に多くのものを含んだ4レースだったように思う。

ペドロサが見せた「一歩進んだ勝ち方」

第3戦ポルトガルGPの表彰台……頂上に立ったペドロサの、あの嬉しそうな顔を覚えておいでだろうか。私も、わがことのように誇らしかったのが印象深い。あそこまで「見事」なレースをするペドロサを、正直なところ近年あまり見たことがなかったからだ。本人にとっても会心のレースだったにちがいない。

あえて相手の背後につけてペースを伺うという走り

ペドロサがこのレースでやって見せたこと。それは「相手のペースを後ろからじっくりと伺い、相手よりも自分が速く走ることのできるポイントを見極めて、一気にしかける」というものだ。言葉にしてみると、実にあたりまえの「勝ちパターン」や「作戦」のように聞こえるし、誰にでもできることのようにも思えるかもしれない。
しかし、私もレーシングライダーだったのでよくわかる。最初からそんな走りをしようと考えるライダーは、たぶん一人もいない。
誰だって一気に集団を抜けだして、レースの序盤に大量リードを築き、さっさと勝負を決めてしまいたい。「他人に合わせて走る」のはとても難しいし、ましてやMotoGPはわずか45分前後で争われるスプリントレースだ。気がついたら完全にペースを握られ、抜きどころを見いだせないままレースが終わってしまわないとも限らない。ペドロサの場合、スタートダッシュを得意中の得意としていることもあり、なおのこと「先行逃げ切り」を決めたいと考えていただろう。
決勝レース、ペドロサはストレートでもエンジンを全開にせず、ややスロットルを戻して相手との間隔を保っており、前を行くロレンソに仕掛ける気になればいつでもできた。
それでもペドロサは無理をせず、じっくりと最善のタイミングが訪れるのを待った。

MotoGPにおける「燃料の残量」の重要性を見据えて

手術後初レースだから、ということもあったかもしれない。しかし私は、この走りを読み解くキーとなるのは、レギュレーションで21Lと定められた「燃料タンクの容量」だったのではないかと考えている。
800ccから240馬力以上を絞り出す現代のMotoGPマシンが、持てる力を100%使い切った状態で120kmのレース距離を走りきるのは、おそらく難しい。だからこそ、各メーカーとも、コンピューターによるフューエルマネジメントに工夫をこらし、燃料の残量に応じた適切なパワーの出し方というものを研究しているはずなのだ。
現代のMotoGPにとって、「燃料の残量」は「レース中に使えるエンジンパワーの残量」と言い換えても差し支えないだろう。

先行するロレンソは、追ってくるペドロサから逃げるために、スロットルを開け続け、さらには空気の壁をかき分けながら走らなくてはいけない。これは、「燃料の残量」と「パワー」という点からすると非常につらいものがあると考えられる。
トップの選手が入れ替わり立ち替わりしながら長距離を走る「ツール・ド・フランス」のような自転車のレースをご覧になったことのある方なら、あれを思い浮かべてみていただけるとわかりやすい。ひとかたまりのグループを形成した中で、選手が前に出たり、後ろに下がったりしながら、空気抵抗による体力の消耗を抑えるわけだが、自転車における「体力」はバイクでは「ガソリン」に、すなわち「パワー」に置き換えることができる。

ペドロサは、ロレンソの後ろについて風を避けながら、スロットルを少しセーブした状態で、つかず離れずの位置に付ける。ロレンソもペドロサを突き放すべく、あらゆる策を講じたはずだが、ペドロサは「いつでも仕掛けられる」とばかりに「相手に合わせた走り」を続けた。ラスト4周となる25周目に前に出たあとは、余裕のあるガソリン残量を活かしてRC212V本来のエンジンパワーを存分に発揮し、ロレンソを引き離していった……というわけだ。

ペドロサも常に「前に出たい」という心と戦いながらのレースだったに違いない。しかし、それをぐっと抑えて、手術後という自らの体調、相手のペース、ガソリンの残量までを冷静に分析しながら、これまでとは違う「新しい勝ち方」をしてみせた。彼には、心の底から拍手を送りたいと思ったものだ。
それだけに、フランスGPで接触転倒、再び骨折してしまったことは残念としか言いようがない。一日も早く復帰し、ここで見せた強さをまた見せてくれることを願うばかりである。

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