−サテライト勢では、この3連戦でランディ・デ・ピュニエ選手が非常に好調だったことが印象的でした。
「あのチームは、オーナーのルーチョ・チェッキネロとチーフメカニックが、非常にうまく雰囲気を盛り上げています。ランディ自身もマシンに対する大きな要求がなく、どのサーキットに行ってもアジャストレベルのセッティングで対応できています。彼は1回目のフリープラクティスから連続周回にトライする等、常にレースをシミュレーションしながら取り組んでいるのでデータ収集も好調で、ライダーもタイヤ摩耗時の状況変化を確実に把握しています。ランディはこの3連戦ですべてフロントローに入り、カタルニアのレースではシーズンベストリザルトの4位を獲得しました。次こそ表彰台だ、とチームが結束しているので、今後も好成績が期待できると思います」
−デ・ピュニエ選手は、今回からフレームとスイングアームが新しくなったのですか?
「第7戦からほぼ、ワークスと同一仕様になりました。今シーズンは、年初にもお話したとおり、今後はサテライト陣営もどんどんワークスチームと近い仕様へと展開していくつもりです」
−シモンチェリ選手も、この数戦で見るからにパフォーマンスが向上してきたように見えます。
「彼は根っからのポジティブシンキングの持ち主で、『今シーズンは一年かけてMotoGPのすべてを勉強する』といいながら、虎視眈々と上位選手とのタイム差を縮めてきています。カタルニアではあいにく、転倒リタイアに終わってしまいましたが、サーキットへの適合という意味では充分にデータを残せたので、来年のカタルニアGPに向けて収穫の多いレースだったと思います」
−チームメートのメランドリ選手は、アッセンの金曜午前に転倒して肩を脱臼し、決勝レースを欠場しました。
「ブレーキングで止まれなくなり、そのまままっすぐコースインしようかとも思ったものの他の選手に迷惑がかかるといけないので回避していると、縁石に引っかかって弾かれてしまい、マシンごと大きく跳ね飛ばされた、というのが実情です。転倒後、チームオーナーのファウスト(グレシーニ)に事情を聞いたところ、マルコ本人としては決勝日の朝も走れなくはない状態だったようなのですが、次のレースが連戦のカタルニアなので、ここで無理をして次に悪影響を及ぼすよりは、一戦休んでも体調を1週間分確実に良くして翌戦に臨もう、と相談し、ドクターストップと言うよりもむしろチームストップという判断でアッセンの決勝を欠場することになりました。そのカタルニアでは、体にダメージが残る状態でありながらも、9位でシングルフィニッシュをしてくれました。彼の強さと頑張りには、本当に感謝のひとことしかありません。チームとしても、シモンチェリが転んだレースでメランドリが結果を残したのは、意義が大きいですね」
−シルバーストーンでは青山選手が決勝日午前に転倒して負傷し、代役として急きょアッセンから秋吉選手が参戦することになりました。
「カタルニアGPに向けてバルセロナに移動後、青山君の自宅に行き、すこしゆっくりと話をしてきました。体幹を動かさないようにコルセットで固定し、自宅でも松葉杖をついて静養している状態です。手術をして脊椎にプレートを挿入する方法も可能だったそうですが、プレートを入れること自体がリスクになりえる、という話でした。青山君のライダー人生はまだまだ先が長いので、無理をしてリスクを負うよりも、1〜2週間余計に時間はかかるとしても自然治癒を選択したのは賢明だったと思います。もちろん我々は一刻も早い復帰を心待ちにしていますが、無理に現場復帰を急ぐより、完全に治療して完璧な状態で走れるようになってから戻ってきてくれることを望んでいる、と話しました。
急きょ抜擢された秋吉も、あの厳しいスケジュール下でいきなりヨーロッパへやってくるのは大変だったと思います。秋吉も精神的に大変な状況でしたが、アッセンでは無事に完走してポイントを獲得し、次のカタルニアは走行経験のあるコースだったこともあって、さらに上位でレースを終えてくれました。彼自身もこのあとに鈴鹿8耐を控えている状態で、ある程度の安全圏でレースをしなければいけない部分もあったのですが、それぞれのレースに挑む気持ちを高めながら、精一杯の仕事をして目標を達成してくれたので、本当に感謝しています」
−ところで、今シーズンは一年を通じて6基という厳しいエンジン制限が設けられていますが、7戦終了段階でのHonda勢の状況はどうでしょうか?
「全18戦というレース数の毎セッションでの走行距離を計算すると、エンジン1基あたり、だいたい2200〜2500kmをこなさなければならないことになります。Hondaの場合、充分な耐久保証を取れているのでパワー劣化や信頼性の低下等は一切なく、むしろ1200kmほど走ったあたりからのほうが調子が良い傾向にあります。それだけクオリティの高いパーツが組み込まれているということでもあり、当初の予定どおりエンジンローテーションを組めているので、担当者にも負担をかけずにすんでいます。けっして余裕があるわけではありませんが、ワークスもサテライトも、エンジンに問題を抱えているという話は幸いにも聞いたことがないですね」
−さて、今回の3連戦を終えて、次もドイツ〜アメリカと2週連続のレースが控えています。
「次の連戦こそ、天王山ですね。ここはともに連勝でクリアしなければならないと考えています。チャンピオンシップポイントの面でも、これ以上点数を離されると厳しくなってしまうので、なんとしてでもトップランナーを止めなければなりません。いろんな意味で死闘になるので、平常心を忘れないようにしながら、何が何でも勝ちに行くつもりです」
−次の連戦が終われば、ちょうど全18戦中9戦を終えることになります。
「シーズン半分を終えた段階で、次の連戦でダニがともに勝ったとして3勝。ライバルはすでに5勝しているので、相手の5勝に対して我々が3勝ならまだしも、7勝対1勝では、非常に厳しいことになります。年間9勝が優勝ラインと考えると、そこに近づかれるのは絶対に避けなければならないので、次の2戦はとにかく連勝。死にものぐるいで勝ちに行く覚悟で臨みます。皆様も、熱い応援をどうかよろしくお願いいたします」