HRC総監督 山野一彦の現場レポート

−ドヴィツィオーゾ選手とデ・ピュニエ選手は、Honda勢の他の選手よりも早くからオーリンズ社のサスペンションを使用していますが、それも関係あるのでしょうか?

「全くない、とは言い切れないでしょうね。道具は使えば使うほど、把握するスピードも早くなりますから。ただ、今言えるのは、問題の要因はオーリンズサスペンションの使用歴よりも、マシンがサスペンションやタイヤ、ライダーのライディングに合わせ込めていないところにある、と私は解釈をしています。
 選手にとって、レースとはライバル選手との戦いであると同時に、マシンとの格闘でもあります。そのマシンがどのような挙動を起こそうとも、ライダーはそれをすべて把握したうえで乗車できるような環境に持っていくのが我々の仕事だと思っています。モニター上でマシンが振れていたり安定していないように見えても、ライダーがそれをすべて把握していれば問題にはならないんです。ライバル陣営の選手たちは、皆、そうやってマシンの上で格闘し、戦っています。そのような格闘が可能なマシン作りをしなければ、我々には勝ち目はない。グレッシーニの両選手も、毎ラップ、毎コーナー、限界まで攻めていることは我々も充分に把握しています。だからこそ、彼らが本来の力を発揮できるマシンに早急に改善しなければならない、と思って取り組んでいます」

−青山選手の10位については、どういう印象ですか?

「彼は、ステップバイステップで行くことが今年のテーマです。まずは、MotoGPのマシンやレースに慣れること。チーム自体が、そのような目標を据えてシーズン前半に取り組んでいるので、良かったと思います。10位という結果なので、100点満点とはいわないまでも、現状での彼とチームのベストを尽くすことはできたと思います。第二戦のもてぎはホームグランプリで青山君も知り尽くしているコースなので、MotoGPでは初レースとはいえ、皆さんの応援の力も借りてさらに次のステップへ進んでほしいですね」

−では、その第二戦、ツインリンクもてぎでの日本GPに向けたレプソル・ホンダ・チーム、そしてHonda陣営全体の抱負を教えてください。

「6名のライダーそれぞれが、第一戦のカタールよりもいい結果を得られるようにしていきたいと思います。日本GPでは、Hondaはこの数年、ずっと勝っていません。ツインリンクもてぎはホームコース中のホームコースなので、今年こそ何が何でも勝たなければいけない。そのためには総合力が必要になってきます。Hondaは強くなった、と皆様に思っていただけるように全力で戦います。Hondaの強さを私自身が肌で感じたいし、応援してくださる皆様にも肌で感じてもらいたいので、是非ともご声援をよろしくお願いいたします」

−最後に、開幕戦カタールを迎えると同時に、鎌田学さんが亡くなられたという非常に残念なお知らせが届きました。長年、Hondaの開発ライダーとしてチームや選手を支えてくれた学さんの訃報は、パドックの全関係者に衝撃と悲しみをもって受け止められました。

「鎌田学さんは、Hondaの250ccや500cc、スーパーバイクやMotoGPと、様々なグランプリマシンの開発を担当してくれました。彼が築いてくれたものは、我々の大きな財産になっています。その功績は、本当にどれほど感謝しても足りないくらいです。そんな彼が亡くなられたのは本当に残念ですが、私自身の気持ちの中では、学さんは今でもすぐ近くにいて、いろんな助言をしてくれています。私が選手担当のメカニックから全体を見る立場になって、ライダーの視点や考え方から少し離れがちになることもあったのですが、そんなときはいつも学さんが、『山野さん、そうじゃないですよ。ライダーはこういう場合にはこういうふうに感じるものですよ』と教えてくれました。その意味では、私にとっては、彼は年下でも先生のような存在です。
 亡くなったという一報を聞いたときには非常にショックで、皆で黙祷を捧げました。彼に対して何ができるかと考えたときに、やはり勝つことだ、レースに勝ってその報告をすることが最大の恩返しになると考えたのですが、残念ながら今回のレースではそれはかないませんでした。でも、学さんは常に私たちのそばにいて見てくれていると思っています。素晴らしい仲間が亡くなったのは本当に残念ですが、今後も毎戦、学さんに勝利の報告ができるように、一戦一戦をしっかりと戦っていきたいと思っています。ご冥福をお祈りいたします」

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