HRC総監督 山野一彦の現場レポート

ライバル陣営に、さらに一歩追いつくために

 2月25日と26日の2日間、2010年2回目のプレシーズンテストが行われた。高温多湿のマレーシア・セパンサーキットを舞台に、レプソル・ホンダ・チームのアンドレア・ドヴィツィオーゾは、初日から高水準の走りで順調にメニューを消化。ダニ・ペドロサもテスト2日目には大きくタイムアップ。両ライダーはコースが閉鎖される直前まで貪欲に周回を重ね、精力的に走行を続けた。この2日間のテストで得た手応えと教訓を、HRC総監督山野一彦が振り返る。

「今回のテストでは、特に2日目にダニがなかなかラップタイムを更新できず、夕刻になってようやくタイムを大きく縮める、という状態でした。これは、チーム側のテストメニューの組み立てや進め方にやや問題があったためで、それが原因で彼を少し混乱させてしまった感は否めません。テストでは、いろいろなアイテムをライダーに確認してもらい、その評価をもとに磨きをかけたものを再度持ち込んで、だいぶよくなった、あるいはもっと改良しなければならない、といったコメントをもらい、さらにブラッシュアップする、という作業を繰り返しながら開発を進めていきます。今回はその作業の進め方で多少の行き違いが発生し、ダニを少なからず混乱させることになってしまいました。ただ、そのような状態にあっても、ダニは最後まで熱心にメニューに取り組んでくれました。高温多湿なこのコンディション下でライバル陣営のタイムになかなか追いつかず、ライダーにしてみれば嫌気がさしても全然おかしくない状態でしたが、ダニは終始集中力を欠くことなく走行を続けてくれました。ともすればチーム員が混乱しがちだった一方で、むしろダニは『問題点が見つかったのは次のステップのためにいいことなんだから、みんな冷静になって作業を進めよう』と、率先してコントロールしてくれた姿が印象的でしたね」

−ちなみに、その混乱とは、具体的にどういうことだったのですか?

「今回のテストでは、ディメンションを大きく振ったり、トレール量を増やしたり減らしてみたりと、レースウィークではなかなか試せない大きい変化にもトライしました。そうやっていろいろと試していく際に、当然ポジティブな点とネガティブな点が出てくるのですが、その評価をしながら方向性を見極めていく作業の中で、見込み違いが発生してしまいました。現在は、なぜそのような事態が発生してしまったのかという検証や、同じことを繰り返さない対応策の検討を進めている最中です。とにかく、そのような状況下でもダニはテスト終了時刻の6時までツナギを脱がずに、懸命に走ってくれました。ライダーの努力が80点だとしたら、今回のチーム員は40点ですね。選手の努力と熱意にしっかりと応えられるよう、我々開発側やチーム員は今回の教訓を真摯に受け止め、認識しなければならないと思っています」

−ドヴィツィオーゾ選手のほうは、どうでしたか。

「アンドレアの場合は、どちらかというとあまり大きくセッティングを振らない進め方で、比較的落ち着いてメニューに取り組むことができました。ベストタイムを更新することも当然大切なのですが、今回はアベレージタイムを上げることを走行前の目標として掲げていて、それについてはほぼ達成できたかなという実感があります。まだ第一ステップですが、前回のセパンテストの結果を受けて今回用に設定したセミロングランの目標ラインは、クリアをしました。アンドレアのスキルは確実に上昇しています。ただ、ベストタイムで見るかぎり、ライバル陣営の後塵を拝してしまったのは事実なので、彼自身は非常に悔しく感じているようでした。テストが終了すると、私に『アンハッピーだ』と言ってきました。このコメントを聞いたとき、実は私はとても頼もしく感じたんです。Honda勢ではトップでもライバル陣営から引き離されているという現実を前に、レースで負けたときのような悔しさを感じてくれているのですから。私たちも、今回の結果を自分たちの中に受け入れて、次のカタールテストに向けてがんばっていかなければならないと痛切に感じています」

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