いよいよ2010年シーズンが始まった。第1回目のプレシーズンテストは、2月3日から三日間、初日はメーカーのテストライダーのみ、2日目と3日目に選手の走行、というスケジュールのもと、南国マレーシアのセパンサーキットで行われた。Honda陣営の各チームは、それぞれに掲げた目標を達成すべく精力的な走行を重ね、最初の第一歩を踏み出した。2010年仕様のHonda RC212V、そして新体制で臨むレプソル・ホンダ・チームの陣容について、今季からHRC総監督という立場で指揮を執る山野一彦が、テストの成果と王座奪還を目指す今季への思いを語る。
「今回のテストは、転倒もアクシデントもなく乗り切ることができたので、幸先が良かったと思います。昨年と一昨年は、いずれも最初のセパンテストで大きなアクシデントがあったので、我々にとって鬼門だったんです。だから、今回は走行前のミーティングで、ダニとアンドレアに私個人からのリクエストとして『とにかくセーフティファーストで行こう』と話しました。過去2年は、アクシデントに影響されてベースが出来上がらないうちに開幕を迎えていたような状態でした。だから、とにかく今回はセーフティを最優先にして、そのなかでマシンとチームのベースを作って行こうと提案したんです。両ライダーともそれを受け入れて、着実にメニューを消化してくれたので、当初の目標は問題なく達成できました。今までのセパンテストと比較すると、今回は非常に手応えを実感できましたね」
−ペドロサ、ドヴィツィオーゾ両選手のパフォーマンスはそれぞれどうでしたか?
「アンドレアは、走行初日の走り出しで『去年は納得の行かなかった部分が解決されている』というマシンのファーストインプレッションを返してくれました。問題がなくなっている、あるいは、良くなっているけどまだ足りない、等について、ハッキリとコメントしてくれています。チーム員のやる気はライダーの言動に左右される側面もあるのですが、その意味でも非常にいい雰囲気でした。マシンに対する大きな不満もなく、順調に進みましたね。
ダニは、今までなら雨が降ると緊張感が途切れ気味になることもあったのですが、最終日の午前に雨に見舞われた時には『新しいマシンではレインを走ってないので、絶好のコンディションだ。午後になると路面が乾いてしまうから、早く走りだそう』と率先してチームを盛り上げてくれました。今まで以上に積極的な姿勢で臨んでくれたので、非常にポジティブなテストでしたよ」
−ラップタイムを見ると、特に選手走行の初日はライバル勢に先を越されたようにも見えたのですが、山野監督としては、特に心配する要素ではなかった、ということでしょうか。
「実は、今回のテストでは私自身がチーム員とライダーに対して『タイムを気にするな』という指示を出していたんです。だから、ダニとアンドレアにも、ラップタイムを見せないために、ピットボックスからモニターを取り外させたんですよ。ラップタイムにばかり気を惑わされてもしようがないので、それよりも今回の目標をひとつずつ確実にクリアしていこう、という提案に対して両選手ともOKして、メニューを着実に消化してくれました。レースの世界にいる以上、ラップタイムを基準にするのは当然だし、自分たちの方がライバルよりも遅ければ動揺するのも当たり前なんですが、照準はあくまでもシーズンが始まったあとの一戦一戦のレースです。
ラップタイムに惑わされない、という今回の作戦を通じて私が皆に伝えたかったことは、自分たちが定めた目標を信じて全員で一丸となって突き進んでいこう、という強い意志を持つことだったんです。それがうまく進み、外部のノイズにも左右されず一体感を持って作業を進められたので、非常にいい試みだったと感じています」
−今回、レプソル・ホンダ・チームの両選手が乗ったマシンは、12月にテストライダーの秋吉選手がテストした仕様という話ですが、11月のバレンシアからどういうところが進化しているのでしょうか。
「基本的なマシンのベースは変更していません。変わった点といえば、電気システムの制御でしょうか。これもガラッと変わったというわけではなく、ソフトウェアのバージョンアップでセッティングの幅を持たせ、さらに戦闘力が向上するようにモディファイを加えた、という状況です。テスト初日に秋吉が最終確認をしたうえで、2日目から、レプソル・ホンダ・チーム両名の4台のマシンに入れ込みました。その効果は、アンドレアのコメントにもあるように、エンジン特性が加減速の両面でよりコントローラブルになっています。
ソフトウェアが変わるとセッティングの味つけも変わってくるので、マシンの乗り味にも影響を与えます。この“味”の変化は、乗りこんでいかないことには理解できません。ライダーにしてみれば、どうしても最初は09年仕様のマシンと比較してしまうので、たとえばダニは初日に『ホントにこんなに穏やかでいいのかな。しっかり加速をしてるのかな』というコメントをしていました。けれど、どんどん乗っていくにつれ、戦闘力向上につながっていくことを理解してくれたようで、『確かに今まで過敏に反応していたところが、穏やかでマイルドになっているね』とコメントするようになりました。次回のテストは同一コースのセパンなので、そこでより明確に結果として表れてくるのではないでしょうか」