フラッグ・トゥ・フラッグ、の素朴な疑問
“フラッグ・トゥ・フラッグ”ルールといえば、MotoGPクラス決勝レース中のコンディション変化にともない、異なるタイヤを装着したマシン(スリック→ウエット/ウエット→スリック)への交換が許可されるルールである。チーム戦略や選手の思惑がピットインのタイミングにはっきりとあらわれ、また、レース中の順位変動も通常以上に激しくなることから、スリリングなレース展開をもたらすこのルール採用を歓迎する声も多い。
しかし、入門者には分かりにくい点が多いのもまた、このルールの特徴である。たとえば、フラッグ・トゥ・フラッグという名称の由来や、レース中に宣言される根拠とタイミング、フラッグ・トゥ・フラッグを宣言する主体、あるいはそもそも“ドライ”と“ウエット”は、いつ、誰が決定するのか……などなど。よく考えてみれば、このルールに関する詳細は、疑問に感じることだらけだ。
今回は、そんなフラッグ・トゥ・フラッグ・ルールの具体的な中身について、ルールブックの記述などを紹介しながら解きほぐしていきたい。
フラッグ・トゥ・フラッグの成り立ち
現行の“フラッグ・トゥ・フラッグ”ルールが成立したのは2005年。それまでは、ドライコンディションで始まったレース中に雨が降ってきた場合は、先頭を走る選手の危険性を訴える挙手と、レースダイレクター※1の判断により中断が決定されていた。レース中断時の消化周回数は、最後尾を走る選手を基準に判断され、その消化周回がレース全体の2/3を満たしていればレースが成立するものと見なされた。
ところがそのルールでは、レース続行に問題がない程度の降雨でも、全周回の2/3を経過した段階でトップを走る選手が、故意に危険性をアピールすれば作為的にレースを終了させることも不可能ではない、という指摘もあり、協議の結果、02年のシーズン途中にルールが一部改定された。中断時の消化周回数にかかわらず中断後も必ず残り周回を競うことになり、レース結果は、中断前の第1ヒート※2と中断後の第2ヒートのタイムを合算して正式リザルトとする、と改められた。
しかし、この改定ルールの下では、中断後の周回数が極端に少ない場合でも第2ヒートが行われることになり、この点に関しては、一部選手たちからさらなる改定を求める声が上がった。
翌03年のルールでは、中断後の残り周回がどれだけ少なくても第2ヒートのレースが行われる、という点では同様だった。が、第2ヒート終了時の“見た目”の着順と両ヒートのタイムを合算して決定される“正式な”順位の間に生じる齟齬などを考慮した結果、第1ヒートの結果はタイムを無視し、中断時の順位を第2ヒートのスターティンググリッドとして反映する形に変更された。この年の第4戦フランスGPで早速このルールが適用され、第2ヒートの13周で争われたリザルトがレースの正式記録として残されている。翌04年もこのルールは継続し、第4戦イタリアGPでは、降雨中断後の第2ヒートが6周で争われるという超スプリントレースになった。
その後、05年に、コースコンディション変更前の順位が変更後の内容にも忠実に反映され、さらに、レースの中断などによるイレギュラーなスケジュールの遅延なども生まない解決策としてルールが再度改められた。それが、現在の“フラッグ・トゥ・フラッグ”ルールというわけだ。
ルールブック内では、{1.20.2}で、この規則を以下のように記述している。
レースは天候を理由として中断されることはなく、当該レース中にマシン(許可のある場合)やタイヤの交換、マシン調整を希望する選手は、ピットに入ってそれを実施をしなければならない。
1.20.2MotoGP raceA race will not be interrupted for climatic reasons and riders who wish to change machine (when allowed), tyres or make adjustments must enter the pits and do so during the actual race.
ちなみに、125ccクラスと250ccクラスの場合は、MotoGPクラスのようにマシンを乗り換えるようなルール変更はなく、従来通りの方法が踏襲されている。具体的には、ドライコンディションでレースが始まった場合、降雨などによる路面状態の変化により続行が危険と判断されればレースは中断され、改めてウエットレースとして再開される。
用語解説
※1レースダイレクター(レースディレクター)各グランプリのレース運営、スケジュール管理などについて最高権限を持つ“レース責任者”。状況に応じてレースのスケジュール変更や中断などの決定権を持つ。 「レースディレクション」とは異なる(次ページ参照)。
※2ヒートレースが中断するなどして分割されて開催されるときなどに、分割された各レースを、第1ヒート、第2ヒートなど呼ぶ。単純に第1レース、第2レースと表記されることもある。