−最終戦の翌日からは、早速2010年シーズンに向けたテストが3日間行われました。どんな内容だったのでしょうか。

「両選手ともに、2010年仕様のプロトタイプに乗ってもらいました。09年のシーズン中に彼らのコメントから得られたポイントをもとに改良してきたマシンなので、ふたりとも初日から混乱無く、順調にテストを進めることができました。ダニもアンドレアも、乗りやすく戦闘力が高いマシンだ、と高評価をしてくれています。他社に対して劣っていて課題だった部分も、かなり追いつくことができたのではないかと思いますね。
 あと、重要なことは、ライダーたちがとても楽しくマシンに乗っている、という事実です。たとえば、ダニは当初予定していたテストメニューを2日で終了したので、2日目の夕刻に『明日は走らなくてもいいよ』と話したのですが、『2010年のマシンは乗っていて楽しいからもっと走りたい。ポテンシャルの確認はできたから、あとはシーズン中にできないような大きいセッティング変更を試してみたい』と積極的な姿勢を見せてくれたので、走らせることにしたんです。最初の話では、2、3項目試したら切り上げると言っていたのですが、結局、3日目もテスト終了時間まで走り込んで、チェッカーを受けました。ダニは数多くのテストに参加してきましたが、これまでの傾向だと彼はテストメニューを完了次第帰路についていたのですが、今回初めてテストの終了を告げるチェッカーフラッグを受けたんです。そんな彼の貪欲で前向きな取り組みを見ていると、私もとてもうれしく感じましたね。アンドレアも、2日目に転倒したので3日目は大事を取って休みにしようと言ったら、むしろ彼のほうから走りたいと申し出てくれました。これは、来年に向けて非常にいい兆しだと思います。ライダーに走りたいと思わせるマシンに仕上がりつつあるので、これは来年2月に始まるセパンテストが非常に楽しみですね。2010年は今年以上にテストが少ないスケジュールなので、今のこの状態のマシンポテンシャルは、来年をすごく左右すると思うんですよ」

−2010年のマシンといえば、両選手ともオーリンズ製サスペンションを使用することになったようですが、長年のパートナーだったショーワ社からオーリンズ社へ変更した理由を教えてください。

「マシンには、パフォーマンスを最大に発揮するための適正な剛性や適正なディメンションというものがあります。09年からタイヤがブリヂストンのワンメークになったことにより、マシンのセットアップは『いかにタイヤ性能を最大限に引き出すか』ということを重視する方向に変わりました。サスペンション本来の性能ではオーリンズとショーワともに非常に優れた性能を持っていて、コースによってはショーワ製のほうが高いポテンシャルを発揮することもあるのですが、シーズンをトータルで考えてみたときに、ブリヂストンタイヤにより適合してマシンとの相性もよく全体のパッケージとして性能をより発揮するのはオーリンズのサスペンションだと判断をしました」

−サスペンション以外に、2010年型のRC212Vに大きな変更点はあるのでしょうか。

「先ほども言った、タイヤパフォーマンスを最大に発揮する最適剛性と最適ディメンションを達成するために、車体の細かいところで見直している部分はたくさんあります。
 たとえば、フレーム強度を検討した結果、クロスメンバーに変更を加え、ヘッドパイプのディメンションなども09年仕様から変更をしています。フレームの変化については外見上からは大きな差異を見て取るのが難しいかもしれませんが、スイングアームの形状などは、見た目でも09年仕様との相違がはっきりとわかるのではないでしょうか。とはいえ、今までの基本コンセプトを踏襲し、両ライダーからのリクエストや蓄積してきたデータを反映しているので、全体としてさほど大きく変わったようには見えないかもしれません。でも、従来のマシンに見られたコーナー進入時のセンシティブさなど、ダニやアンドレアからも指摘されていた09年仕様の課題は大きく改善されたのではないかと自負しています。その意味では旋回動作でライダーにかかる負担が大きく減少し、結果として非常にコントロール性の高いマシンに仕上がりつつあるのではないかと思います。
 以前に、サマーブレイク後から新しいシーズンが始まっていると申し上げましたが、2010年のカタールGPに向けて今すぐレースを開始してもOK、というくらいの気持ちです」

−マシン面の話題でもうひとつ、来シーズンはエンジン使用規制がさらに厳しくなり、18戦のシーズン全体で6基、という制限になります。

「幸い、その部分についてはまったく心配をしていません。09年後半から始まった使用規制でも全然問題はなく、2010年に向けたいい予行演習になりました。もちろん、イレギュラーな出来事が発生したときにはそれに対応しなければならないので油断はしていませんが、エンジン1基あたり3戦という運用については、特に悩むことはないですね」

−では、2月のテスト開始まで、ライダーやチームはそれぞれどういったことに取り組んでいくのですか。

「このシーズンオフは、休み返上です。忙しさ、という意味ではシーズン中と変わりませんね。ライダーは、先ほども言ったフィジカル&メンタルのトレーニングに集中して、私の手元に逐次その情報が入ってくる体制になっています。また、我々は『勝てるマシンと勝てるライダー』という最強の組合せを作り上げるために、日々、研究開発や2010年のチーム作りを整えています。さらに、私の個人的なテーマとしては、MotoGPの中でHondaのプレゼンス(存在感やイメージ)を向上させる、という大きな目標と課題があります。勝てば自動的にプレゼンスが向上する、といったものではないので、勝つこととプレゼンスの向上という両輪を考えながらアプローチをしていかなければならないのですが、そのために、2010年は今まで以上に自分にできる最大限のことを成し遂げようと考えています。
 その一環として、リビオ・スッポ氏にレプソル・ホンダ・チームに加わってもらうことにしました。彼は以前、ベネトン・ホンダで宇川徹選手が参戦していた時代のスタッフで、私も当時から彼とは親交があります。2010年から、彼にはチームのマーケティング・ディレクターとして辣腕を振るってもらいます。Hondaのプレゼンス向上に、きっと大きな力になってくれるでしょう。また、レプソル・ホンダ・チーム内のダニのチームはアルベルト・プーチが、そしてアンドレアのチームはジャンニ・ベルティがそれぞれ監督します。これに伴い、私はチームダイレクターとして、レプソル・ホンダ全体を統括指揮することになりました。強力なライバル陣営に打ち勝つのは容易なことではありませんが、2010年こそ強力なライダーとマシンで<強いHonda>を作り上げ、何としてでもMotoGPの王座を奪回します。2010年シーズンのレプソル・ホンダ・チームへのご声援をよろしくお願い申し上げます。どうぞご期待ください」

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