Vol.42

悔しさ、目標、そして監督としての喜び

 2009年シーズンも残すところあと4戦。レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサは開幕前やシーズン中盤の負傷から順調に回復し、現在はランキング3位につけている。また、チームメイトのアンドレア・ドヴィツィオーゾはサマーブレイク以降の3戦を連続して4位で終え、ワークスチーム初年度ながら着実な成長を続けている。ライダーとチームの終盤4戦、そしてそこから見据える2010年シーズンへ賭ける思いを、レプソル・ホンダ・チーム監督山野一彦が語る。

「ダニの体調ですが、今はもう万全の状態です。今は純粋にセッションとレースに集中し、戦闘力を上げるセットアップの進めかたにトライしている状況です。ロングランも積極的に行い、天候面などでのイレギュラーなことがない限り、ダニかアンドレアのいずれかが実施しています。ロングランをすることで、タイヤの使い方やライン取り、ブレーキング、ライバルとの比較など、自分たちの強みや弱みがより克明に把握できます。ライダーのコメントを聞いていても、今は以前にも増して戦闘モードになっていますね」

−第13戦サンマリノGPの結果を見ると、ダニは3位でフィニッシュ。ライバル陣営に敗れる結果になってしまいました。

「レース中、ダニのマシンに予期せぬトラブルが発生し、その影響によりセッションで刻んでいたアベレージに匹敵するタイムが築けなくなってしまいました。制御系のトラブルでマシン操作がよりセンシティブになり、かなりのタイム差をつけられた状態での3位になりました。私個人としてもチームとしても、3位とはいえあのタイムギャップだから、悔しい結果であることに違いはありません。ただ、そのトラブルを起こしたマシンでダニが懸命に戦い、3位という結果で乗り切ってくれたことはうれしく思っています。2010年を見据えながら2009年シーズンのチャンピオンシップを争っていく大事な一戦と考えると、表彰台を獲得してなんとか凌いだ一戦、といえると思います」

−一方のドヴィツィオーゾ選手は、チェコGPとインディアナポリスGPに続き、今回も4位で終えています。

「アンドレアにとって、今年はワークスライダーとして1年目ということもあり、ステップアップのシーズンとして戦うことを共に目標としているのですが、それでも今回の結果は非常に悔しいと感じています。ダニがトップにあれだけの大差をつけられ、アンドレアはそこからさらに離されてしまったわけですから。この大きな差を真摯に受け止め、自分たちに足りなかったことをライダーとチームで話しあいながら問題点を絞り込んで、残りの4戦で解決を図っていかなくてはなりません。
 ただ、今回はサスペンションメーカーを変更して初めてのレースでした。これまでとはキャラクターの違ったマシン状態という条件下にもかかわらず、大きな混乱もなく4位を獲得してくれたので、私としては良くやってくれたと感じました。本来、4位に対して『おめでとう』という言葉は適切ではありませんが、今回は『ありがとう、よくやってくれた。この結果は必ず次に生きてくるから』という話をしました。アンドレアも十分に分かっていて、『ありがとう』という言葉を返してくれましたよ」

−そのドヴィツィオーゾ選手のサスペンションを、オーリンズに変更した理由は?

「端的に言えば、開発の一環です。私自身の長年のレース経験と、技術者としての視点から言わせてもらえれば、技術者というものはマシンづくりでピンポイントを押さえたくなる傾向があるんです。たとえば、エンジン開発では出力がほしい、車体設計なら旋回性のいい車体がほしい、というように。しかし、ピンポイントで高いポテンシャルを発揮しても、条件が変わればそのポテンシャルは崩れてしまう可能性があります。つまり、私が狙っているのは、そのポテンシャルに幅を持たせたい、ということなんです。本来なら、シーズン途中にこのような変更を加えるのはリスクが大きいと考えるのかもしれませんが、幸い我々のチームや開発陣には高い技術力があるので、新たな意識改革の刺激にもなるし、総合力を向上させていく上で良い材料にもなる、と捉えています。従って、年内の4戦をダニはショーワ社、アンドレアはオーリンズ社のサスペンションで戦います。そして、その結果を見ながら、ライダー、チーム、開発陣の全員で意見交換や協議を行い、来年に向けた方向性を決めていく予定です」

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