−ザクセンリンクのひとつ前、第8戦アメリカGPでは優勝を飾っており、ダニ本来の強さがようやく戻ってきたように見えました。
「コースが助けてくれた側面も大きいと思います。マシン面での課題をカバーしてくれるコース特性と、ダニ自身の復調。その2つがうまく噛み合いました。そこで優勝したことにより、マシンの改善ポイントはさらに鮮明になって、その後のザクセン、ドニントンという結果を得て、方向性はより鮮明になりました。ここから先のHondaは、もっと強くなると思いますよ」
−次の第11戦チェコGPからは、エンジン使用規制という新たなレギュレーションがスタートします。新しいエンジンを投入する予定はあるのでしょうか?
「そうですね。ザクセンリンクで新しいエンジンを投入し、さらに向上させたものですが、新しいレギュレーションへの対応を考慮したものをブルノで投入します。エンジンの使用距離や耐久性などについては、従来も大きな問題ではなかったので、2010年を見据えた先行エンジン、といった位置づけになります。特性は、さらに扱いやすくなるような改良を施しています。車体に関しても、来年をターゲットに見据え、新たなフレームやスイングアームを用意しています。ここから先の後半7戦では、逐次パーツを投入してチャンピオンを目指しながら、来年はもっと強いチームを作れるように、長期的な事柄も視野に入れて戦っていく予定です」
−残り7戦で5基のエンジンという新しい規制は、レース戦略に大きな影響をもたらしますか。
「もちろん、耐久性を上げていく必要はあります。また、使用ローテーションを含めて、エンジンの走行距離管理の精度をさらに向上させていかなければならないのですが、Hondaの場合は、耐久性に求める要件がもともと非常に高いんです。ニュウマチックバルブエンジンを採用し始めた頃から比較すると、今はどんどん耐久性が向上しています。だから、新しいレギュレーションが導入されても、我々としてはさほど慌てなくても対応できると考えています。ザクセンリンクで投入したエンジンよりもさらに出力、ドライバビリティ、耐久性で優れたエンジンであることを見極めているので、来年に向けてツーステップ先取りするくらいの検証と準備ができていますよ。
また、エンジンの使用距離が伸び、少ない台数でも問題なくハイレベルなレースを行えると実証できれば、技術進歩がコスト削減につながることの証明にもなります。技術陣も、高いモチベーションで開発に臨んでいますよ。レギュレーションという限られた時間軸の中での目標達成は、まさに技術者の腕の見せどころだし、ここから得た成果がやがて量産車にフィードバックされれば、さらに張り合いが出ますからね」
−では、8月16日決勝の第11戦チェコGP、そしてシーズン後半戦に向けた抱負を教えてください。
「ダニは現在ランキング4位、アンドレアは6位につけていますが、ともに最終戦のチェッカーフラッグまであきらめることなく、可能性がある限りチャンピオンを目指して戦い続けます。ダニがフィジカル面で問題を抱えていたシーズン前半は、アンドレアがチームの歯車を噛み合わせるため必死で戦い抜いてくれました。その姿勢とがんばりが、ドニントンパークで実を結び、優勝という結果を得ることができました。ダニもラグナセカで優勝したことにより、体調さえ戻れば強豪選手たちと互角以上に戦えることを証明してくれました。
後半戦は、ブルノがシーズン第1戦、来年の開幕戦はシーズン中盤戦、という意気込みで臨みます。来年も今年も関係なく、我々は常にエンドレスで勝利を目指して戦い続けます。理想を言えば、ここから先の7戦全戦で、ダニとアンドレアはともに表彰台に上がってほしいところですね。2人が揃ってポディウムに立ったとき、初めて私も一緒に表彰台に上がることができるんです。だから、ライダー2人には『3人で表彰台に上がろう』と常に言っていますし、実現したいです。しかし、ライバル勢はいずれも強豪揃い。厳しい戦いになるでしょう。その覚悟もできています。我々としては、理想を現実にできるように、一戦一戦着実に戦い抜くまでです。シーズン後半戦も、皆様からの熱いご声援をよろしくお願いいたします」