「ドニントンパークの決勝レース直前はどう見てもスリックタイヤで走り出すドライコンディションだったのですが、いつ降り出してもおかしくない微妙な状況でした。雨が降ってくると、外気温と路面温度の影響で、タイヤの表面温度もどんどん下がってしまいます。だから、タイヤの発熱と温度の維持には十分に気をつけよう、とレース前にライダーたちと話していたんです。特にアンドレアの場合は3戦連続でノーポイントだったので、どんな状況でも転倒ノーポイントだけは避けなければならない、と彼自身も感じ取ってくれていました。レース序盤は、アンドレアの前をロッシ選手が走行しリードしてくれたことで、アンドレアは多くのことを学習でき、その後もサインボードを見て後続車とのタイム差を確認しながらチェッカーまで走りきってくれたので、非常にいいレースだったと思います。開幕以来、表彰台寸前で終わるレースが続いていたところに3戦連続ノーポイント。その後につかみ取った勝利ですから、本人も大きな自信になったと思います。次の課題は、純粋なドライコンディションでライバル陣営の選手たちやチームメートのダニという強豪選手にひけをとらないこと。とはいえ、まずはワークス1年目で初優勝を飾ることができたので、よかったです」
−レース後半に後続の選手たちが追い上げてきたときには、正直見ていてハラハラしました。
「どこまでプッシュするか、という度合いは、最終的にはコンディションや戦況に応じたライダーの判断に任せるしかないんです。『ライダーを信じよう。アンドレアは必ずトップでゴールラインを通過してくれるよ』と、クルーチーフたちと話しながらモニターを見ていたんですが、正直なところ内心はハラハラ、ドキドキしていました。
ドニントンパークはもともと滑りやすい路面特性なのですが、レース後に本人が言っていたのは、ヘルメットのシールドが水で濡れてくると、路面の濡れている場所とそうでもない場所の見分けが付きにくくなる。先頭を単独で走っていると余計に難しい、ということでした。しかし、そのようなコンディションでも勝つことができたわけですから、アンドレアはさらに自信を深めることができたと思います」
−一方のダニは、9位というリザルトでした。
「決勝までのセッションは好調に進めてきたのですが、ウエットに関してはマシンの仕様や本人の走りも含めて納得できない部分が残っている、という印象でした。決勝レースでは転倒を避けるためにペースをわずかに落としたことでタイヤが冷えてしまい、今度は反対にペースを上げられないという状態に陥り、最後は9位という不甲斐ない結果になってしまいました。レースが終わって本人と話したところ『非常に悔しい、今回の結果は自分のミスだ』と反省をしていました。昨年までのダニなら、そのような部分はできるかぎり他人に見せず、強いところだけをアピールしがちだったのですが、今は強い部分も弱い部分も包み隠さず、素直にあらわすようになりました。これは、彼にとってもチームにとっても非常にプラスなことです。次に同じような状況になれば自分の力で絶対に何とかする、と言っていたので、今は気持ちを切り替えて次のレースに前進している状態ですね」
−ダニの体調ですが、現在はどれくらい回復しているのでしょうか。
「ザクセンリンク(第9戦ドイツGP)の前から自転車のトレーニングも再開しました。ドニントンパークでほぼ100%完治、という状態だといっていいでしょう。ザクセンリンクといえば面白い話があって、決勝レースの最中に5コーナーのオーロラビジョンで、アンドレアのフロントタイヤを映し出す画面が目に入ったらしいんです。アンドレアのフロント周りの状態がよくない状況で、ダニは自分のタイヤにも同じ現象が発生するかもしれない、と思いそこから数周の間少しペースを落とし、それでトップとの間に距離が開いてしまったのですが、8コーナーでマシンを傾けているときに、自分でフロントの状態を確認したらしいんです。そうすると、思ったよりもタイヤにダメージがなく、残り11周というサインボードを確認したダニは、最後は3位でフィニッシュしました。その話をダニから聞いたときには、昨シーズン前半戦の頃にあった本来の冷静なダニが戻ってきたな、と感じましたね」