−ところで、今年からタイヤがワンメイクになり、フロント8本、リアが12本と厳しい本数制限が課されるようになりました。セッションの組み立てなどに影響はありますか?

「ワンメイクの根底にあるのはイコールコンディションなので、我々はプラスに捉えていますし、実際にダニとアンドレアの両チームからも、タイヤが機能しない、という話は出ていません。セットアップの仕方も含めて、ハードタイヤとソフトタイヤの2仕様のどちらをどう合わせ込んだらレースに勝てるのか、というところにおのずと的を絞れています。
 また、セッション内で使用するタイヤは必ず新品の状態で使うわけではなく、ユーズドタイヤでレース中盤から終盤にかけてのシミュレーションも行うので、常に新品に履き替えるよりもレースへ向けた対応もできています。だからワンメイクの影響は総じてプラス、といってもいいでしょうね」

−次のムジェロから数戦は、ハイスピードコースが連続します。今シーズンまだ勝利を挙げていないHondaが勝つためには、何が必要なのでしょうか。

「車体領域でしょうね。世界最高峰のレースで勝つためには、厳しい状況下で走っていてもライダーが楽しく乗れなければならない、と思います。マシンの挙動に気をつかって走っているようでは、勝てないですよね。だから、極限状態で乗って楽しく、扱いやすいこと。そのためにやはり、車体領域でモディファイをしなければそこには到達しないだろうな、と考えています」

−到達までには、どれくらいかかりますか。

「早いですよ。次のムジェロを見ていてください。今シーズンの前半は、ライダーも含めて完全な状態に持ってくることができず、多少のタイムロスがありましたが、そのロスをこうやってしのいでくることができました。これからは、その努力を開花させないといけない。でも、そのためには武器が必要ですよね。開発チームもそれをわかってくれていて、そろそろこちらに与えてくれるかなという状況なので、楽しみです」

−次のムジェロは、アンドレアのホームグランプリです。

「ホームグランプリだからといって気負いすぎるのではなく、幼い頃から育ってきた土地や食事がすでに自分の力になっているわけだから、特に気負わなくてもいいよ、とル・マンが終わったときにアンドレアと話をしました。
 コース特性としては、ハイスピードコースでありながらスリッピーなので、ドライバビリティや旋回性が重要になるテクニカルコースです。そこをどう攻略するか。第5戦にムジェロという意義は大きいですね。ムジェロとその次のカタルーニャで試す内容が、シーズン中盤以降に影響してくると思うので、ここをうまく戦えればライダーも開発陣もいいリズムを掴めるでしょう。楽しみですね」

−HondaのWGP参戦50周年の今年は特に、チャンピオンを獲得しなくてはならないですからね。

「こういうときこそ、自分はいかにまわりの人に助けて貰っているかということを痛感しますし、また、自分も他人を助けなければいけない、とも思います。チーム員ひとりひとりがそれを自覚していますし、ダニチームもアンドレアチームも『今年はHondaが勝たなきゃいけないんだ』という気持ちを強く持っています。そういう環境下だからこそ、今年は結束力が強く、勝つということに対する執着も強くなっています。というのも、ル・マンのレース後、アンドレアのチームに『お疲れ様』と私が声をかけたら、悔しくて泣いてるメカが3人いたんです。いつも私はメカニックたちに対してライダーと一緒に走れと言ってきましたが、彼らはちゃんと走ってたんですね。最後にチームメートにパスされて4位という結果で、悔しくないわけがない。泣いて当たり前なんですよ。そういう意味では、勝つということへの意識は去年以上に高いです。
 ダニのほうはというと、ゴールした瞬間は3位でOKなんですが、時間が経って冷静になると『なんだ、3位じゃないか』と。自分たちは優勝が欲しいのにそこには到達しなかった、と考えると、やっぱり悔しいですよね。今年はそれを初戦から体感しているので、これは必ず、もっと強くなるきっかけになる。逆境を乗り越えなきゃいけないことを、おそらくダニ自身が一番強く感じています。足が動かない状況で1カ月、人によってはマイナスに思考が振れるかもしれないけれど、ダニの場合はそこで踏みとどまって自分自身の力でプラスにしていかなければならない、と考えたと思うんですよ。この精神の強さは、今後のレースにも大きく影響してくるはずです」

−では、次の第5戦ムジェロはいい結果を期待できそうですね。

「もちろん、毎戦優勝を狙っています。とはいっても、ただ勝ちます、ではなく、勝つためにはロジカルな戦略と、勝利へのプロセスをチーム全体で養うことが必要です。だから、今年は走行前の打ち合わせが念入りですよ。コンディションの変化によるシミュレーションや、限られた時間の中でマシンをセットアップしていく方向性のシミュレーション。プランAが勝つ方向ではないと判明した場合のために、プランB、プランC、と代替案も組み立てておかなければいけない。そういう話合いを、チームの中で入念に行っています。過程を重要視しながら戦っていくことを両チームとも認識していますからね。次回の我々レプソル・ホンダ・チームの戦い、そして両ライダーの活躍にどうぞご期待ください。そして、皆様からの応援をどうぞよろしくお願いいたします」

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