−山野監督にとって、ニッキー・ヘイデンとは、どんなライダーでしたか?

「彼とはよく話をしましたね。今シーズンから監督に就任するにあたり、コミュニケーションが非常に重要な要素だと思って指揮をとってきたのですが、ニッキーは自分からどんどんこちらに入ってきてくれるので、その意味で非常にやりやすいライダーでした。普通なら監督と選手がそれほど密に話をすることはないのかもしれませんが、ことニッキーに関しては、チーフメカニックと選手の緊密さに劣らないくらいのコミュニケーションを取れていたと思います」

−一方のダニは、開幕前にケガをして、そのケガが癒えない状況でシーズンが始まり、チャンピオンシップを争いながら中盤戦で転倒してふたたび負傷したことで、タイトルが遠ざかり、という、こちらも波瀾の一年でした。

「第10戦のザクセンリンクで転倒するまでのチャンピオンシップと、それ以降のチャンピオンシップは、まったくといっていいくらい非対称です。転倒するまでのダニは、マシンのポテンシャルがライバル陣営に対して劣っていた面もあって、ギリギリの線で戦っていた。ダニだけではなく、チーム全員がそうでした。それはそれでいい戦いだったと思いますが、そこから1つ上に行くためにどうするか、というところで、ライダーがリスクを負って転倒をしてしまった。あの転倒で実質的にチャンピオンシップを失ってしまったのは事実なのですが、ダニのあのがんばりは大いに評価に値する、と私は思っています。さらに転倒の後には、マシンが新しくなってタイヤもスイッチし、周りから様々なご意見もいただきましたが、それらすべてをひっくるめて、あの短期間にいろんなことを経験させてもらいました。タイトルを取れなかったのは、私をバックアップしてくれる人々やファンの皆様に対して非常に申し訳ないと思う半面、チャンピオンシップを逃したからこそ経験できたことは、おそらくダニがケガをしなかったであろう場合以上に大きかったと思います。渦中にいるときは苦悩の連続でしたが、今となってみればすべてポジティブで、非常に内容の濃い一年でした」

−そのような2008シーズンの結果を受け、来季に向けた最初のテストが第18戦の翌日からバレンシアで実施されました。テストの内容はいかがでしたか。

 「まずは2009年のパーツ確認を行いました。2009年モデルの基本骨格は2008年仕様から大きく変わらないので、各部のパーツを確認するための貴重な2日間になりました。初日は天候がよく、パーツの確認も順調に進み、2009年用タイヤのパフォーマンス確認とセッティングを進めて、1日目のメニューを終了しました。2日目は雨になったのですが、今回は新しいレインタイヤがなく、マシンテストの項目もすべてドライ用だったので、ダニに関しては初日で終了することにしました。ドヴィツィオーゾは2008年もHondaのマシンに乗っているとはいえ、ファクトリーマシンは今回が初めてなので、ニッキーが使っていたマシンをベースにポジション確認を行うところから開始しました。ドヴィツィオーゾはコメントの出し方が非常にうまいライダーで、そのコメントに対してセッティングを進めると、徐々にタイムを上げていきました。本人も『Piano,piano(少しずつ)』と言っていたとおり、着実に項目を進め1日目の総評価としては非常にいいものでした。 ライダーのポテンシャルの高さを確認でき、コメントの精度も高い。今後一緒にやっていくにあたって非常に能力の高いライダーが来てくれた、という印象を持ちました。2日目は、ダニと違ってドヴィツィオーゾはブリヂストンのレインタイヤを試すのが初めてなので、昼過ぎから走行を開始しました。レインタイヤの初テストにしては微妙なコンディションだったので、私の本心としては中止しようかとも少し考えたのですが、本人が、これは貴重なコンディションだから走るというので、継続することにしました。彼のやる気の高さにチームのモチベーションも上がり、士気も高まりました」

−では、その2名のライダーを擁して戦う来季に向けた展望と抱負をお願いします。

 「さきほどもお話ししたように、今年一年戦ってきたなかで、課題は把握できています。それを克服するために、ウインタータイムに貴重なテストを重ね、2009年の開幕に向けて照準を合わせていきます。現在、私自身も含め、ライダー、スタッフ、チームクルーに、今年の敗因を考えてほしい、と依頼しています。それを今月末のテストの際にディスカッションし、より明確なテーマとして抽出していきます。来シーズンも非常に厳しい戦いになると思いますが、私としては、できればその中で競技としてのモータースポーツの楽しさを感じながら挑んでいきたい、と考えています。厳しい戦いの中で喜びを見つけながら戦っていくためにも、このシーズンオフにしっかりとマシン作りをし、また、ライダーもしっかりとコンディションを整えて来シーズンに備えます。2008年はチャンピオンシップを逃してしまい、我々を支えてくれた方々やファンの皆様に大変申し訳ないことをしたと思っています。ただ、応援してくださっていることにチーム全員が感謝をしていますし、ライダーが何よりもそれを一番敏感に感じ取っています。皆様の声援が我々の力になります。2009年は、チャンピオン奪還を目標とし、全精力を注いで戦います。これからも皆様の応援を力にして、これまでとはちがったレプソル・ホンダ・チームをお見せできるようがんばります」