vol.39

ここから始まる、新たな一年

 2008年のMotoGPは、スペイン・バレンシアで全18戦におよぶ戦いの幕を閉じた。レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサは、第17戦と第18戦でともに2位表彰台を獲得して一年を締めくくり、一方、ニッキー・ヘイデンは第18戦のレースをもって、Hondaライダーとしてアメリカ時代から通算9年間戦ってきた歴史にひとまずピリオドを打った。また、来年からレプソル・ホンダ・チームに合流するアンドレア・ドヴィツィオーゾは、両レースを3位と4位でフィニッシュし、2009年シーズンの飛躍に大きな期待を抱かせた。シーズン終盤2戦の戦いと来季に向けた展望を、チーム監督の山野一彦が語る。

「ダニは、今年1月のセパンテストでケガをしてしまい、シーズン前に十分な乗り込みができませんでした。だから、第17戦のレースではそのセパンを攻略して新たなページを開くことにポイントを置いてセッションをスタートしました。コース的にも、動力性能や旋回性といったマシンの長所や改善点を把握しやすい場所なので、それも見極めながらひとつひとつ確実にセットアップを進め、レースに挑むことができました。ライダーも乗れている状態で、決勝レースではポールポジションからスタートしたのですが、途中でバレンティーノ(ロッシ、ヤマハ)にオーバーテイクされ、2位でフィニッシュする結果になりました。抜かれてからペースを上げることができない、という現在の私たちの弱点がクローズアップされたレースです。マシン面での課題もあるし、ライダーのスキルをもっと向上させなくてはならないという両面があらためて明確になったという意味では、得るものの大きいレースでした。それを受けて最終戦のバレンシアに臨みましたが、ここでもセパン同様の結果で2位でした。両レースとも、セッションそのものでは大きな混乱もなく、マシンのセットアップやライダーの乗り込みというテーマは着実にこなせてきたにもかかわらず、それがまだ最終的な結果に結びつかない。来年に向けた我々の大きな課題の1つはここにあります。それを克服するために何をしなければいけないかということはライダーも十分に自覚をしていますし、開発サイドも抽出すべき問題を明確に把握できました。それをウインターテストの課題として生かし、来シーズンにつなげていきます」

−ダニは日本GPでも3位を獲得しています。このときと比較すると、同じ表彰台でもラスト2戦での2位は、意義や内容の面で大きな違いがあるのでしょうか?

「もてぎの3位は、ダニがまだ十分にマシンの挙動を読みきれていなかったり、ブリヂストンタイヤの性能を確認しきれていない状態での表彰台でした。それ以降、実戦を重ねながらマシンに対する理解を加速させています。その意味では、日本GPでの3位と、ラスト2戦の2位は、順位が1つ上がっただけとはいえ、内容は大きく異なっていると思います。どういったところでどんな挙動になり、どの部分を詰めてどこを我慢する、というタイヤの特性とマシンの特性をライダーが把握できるようになり、もてぎからセパン、セパンからバレンシア、と確実に上向きの傾向にあります。ただ、結果的にはまだ1位を取れていないのは、その一枚も二枚も上をいくライダーとチームがいるということで、それに勝つために私たちはさらに三枚も四枚も上を行かなければならない。だから、確実によくはなってきているとはいえ、このレベルではまだ満足してはなりません」

−よくなってきているといえば、第17戦のセパンでドヴィツィオーゾ選手がMotoGP初表彰台の3位を獲得し、最終戦でも4位フィニッシュでした。

「あれはまさに彼のがんばりそのものでしょう。両レースともニッキーと競り合っていたので、複雑な心境でしたけれども。ドヴィツィオーゾとしては、今のチーム・スコットに恩返しをしたいという気持ちと、対外的に自分の存在をアピールしたいという気持ちもあったでしょう。彼の今年の傾向として、セッションでは波があっても、決勝では上位に来るという勝負強さを持っている。セパンでは特にそれが明らかに出ましたよね。来シーズン、我々と一緒に戦ってくれるライダーがこういう結果を出してくれるのはうれしい半面、レプソル・ホンダ・チームとしては2人揃って表彰台に上がってほしいといつも思っているので、サインボードエリアにいながら、私としては非常に複雑な心境でした」

−そのニッキーですが、第18戦のバレンシアで、Hondaライダーとしての生活にひとまずピリオドを打つことになりました。

「Hondaで最後のレースということで、決勝前には少し目に涙を浮かべながらかなり気合いが入った様子でした。その気合いがあのリザルトになってしまったという意味では、少し残念ですが、レースを終えたニッキーは清々しい顔をしていて、その後少し2人で話をしたときに『この一年間、あなたと仕事をできたことは、自分のレース人生にとって非常にプラスになった』と言ってくれました。私としても、彼と仕事をできたことに対しては感謝の気持ちで一杯です。今シーズンは、開幕戦で昨年モデルのマシンを持ってきたり、シーズン途中に彼がケガをしたり、と波瀾のシーズンでしたが、ニッキーは私たちにとって家族のような存在です。彼がライバル陣営に行くのはちょっと残念な気持ちもあれば、今後の彼の活躍を応援したい気持ちもあるし、かといって、強力なライバルになると手強い存在になるでしょう。『今、こうやって2人で話ができて、笑って次もがんばろう、と言い合えるのはいいことだよな。お互いに来年もがんばって、次は表彰台で会おう』と言って別れました」