−ただ、今回の転倒により、ランキング争いでは不利になった印象もあります。そのあたりについては、どのように捉えていますか?
「ライダーだからランキングを気にするのは当然で、1位を逃した今は2位を狙っています。少なくとも現在のランキング3位というポジションは死守しなくてはいけないし、2番手の選手との差も開いて少し厳しくなったのですが、『セパンとバレンシアでは、優勝を狙うよ』と言って帰って行ったので、心強く感じています。ニッキーが『次は勝つよ』と言い、ダニも『次は狙うよ』と言ってくれているので、とても頼もしいですね。話し合う内容も非常に密度が濃く、全員が同じ方向を向いていることが実感できます。シーズン中にタイトルを取られてしまうとモチベーションは下がってしまうものですが、残り2戦と来年に向けて、全員の気持ちが一致して同じ目標を共有しています。タイトルを取られたことは悔しいし、「来年こそ」、という気持ちも強いのですが、それにしてもここまで心身ともに充実し、前向きに取り組めているのは、自分でも新鮮です」
−負けてよけいに強くなった、ということなのでしょうか。
「以前、私が監督を務めた鈴鹿8耐でも、負けて得られることはたくさんありましたし、実際にそういう経験もしていますが、今回はそれともまた違う感覚なんです。自分でも初めての感覚で、少し不思議な気がしています。
もちろん、もてぎでライバル陣営にチャンピオンを獲得されてしまったときには本当に悔しく感じました。我々のホームコースで、しかも2年連続なのですから。自分たちには達成できていないことをほかのチーム、ほかのライダーが達成できた、ということを結果として見せつけられたわけです。だから、来年こそそれができるように自分たちはチーム作りをしなければいけないし、ライダーはスキルを上げなければならない。そして、開発チームはマシンを作らなければならない。レース後にはそのミーティングもしたのですが、個々に悔しさを噛みしめていることがにじみ出ていました。
ただ、悔しくともバレンティーノ・ロッシ選手(ヤマハ)がチャンピオンを獲得したことに対しては、我々全員が敬意を表し、心から拍手をしました。バレンティーノはすごい、このライダーに我々は負けたんだ、と。そこは素直に認めなければならない。でも、これからはそのすごいライダーに挑んで、我々は勝利を目指していく。そのためには何をしなければならないのかということを、一人ひとりが考えました。タイトルを取ったバレンティーノと、彼らのマシンやチームは優秀である。我々は、それに劣っていたから負けたんだ。理由は明解で、明確です。その事実を受け止めたうえで、次に何をするかという環境をチーム全員で整えることができた。
きっとそれが、今の私たちの姿勢につながっているんだと思います。一人ひとりが自覚していれば、負けず嫌いだとか我々は勝たなきゃいけないとか、そういう言葉や標語は必要ないんです。言葉に出さなくとも身体からにじみ出ていればわかる。今は、それがわかるような環境になっていると思います。今は、黙っていても皆の気持ちをひしひしと感じますから。これを来年につなげて、ぜひとも開幕から好スタートを切りたいと考えています」
−そのモチベーションの高い状態で、2008年最後の2戦に向けた抱負をお願いします。
「今から思い起こせば、ダニは今年1月に行われたセパンでのテストでケガをして、シーズンオフ中に十分なテストをできない状態でカタールの開幕戦を迎えました。ライダーもチームもそれは頭に入っています。だから、セパンはダニとチームにとって新たなスタートです。そこで結果を出し、最終戦の母国バレンシアGPでは昨年同様に勝利を収めて次のステップに進んでほしいと思います。ニッキーについては冒頭にも言ったように、残り2戦で全力を集中する姿勢で臨んでいます。また、今年はまだ、レプソル・ホンダの2人のライダーがそろって表彰台に上がっていないので、是非ともそれを達成したいと思っています。残りの2戦でそれが達成できれば、2009年に向けてもっと弾みがつくでしょう。これまで何度も申し上げてきたように、最終戦のチェッカーが振られるまで、我々は全力を尽くして戦います。シーズン最後の2戦も、我々レプソル・ホンダの挑戦に応援をよろしくお願いいたします」