
vol.38
最終戦のチェッカーまで、レースは終わらない
2008年シーズンもいよいよ終盤戦。ハリケーンに見舞われた第14戦アメリカGP(インディアナポリス)では、ニッキー・ヘイデンが母国GPを2位表彰台で飾り、第15戦日本GP(もてぎ)ではダニ・ペドロサが3位を獲得した。そして、日本から2週連続開催となった第16戦オーストラリアGP(フィリップアイランド)では、ヘイデンが3位表彰台を獲得したものの、ペドロサは惜しくも転倒リタイアを喫した。レプソル・ホンダ・チーム監督の山野一彦が、様々な変化の続いたこの数戦の状況と、ラスト2戦に向けた決意を語る。
「ニッキーは、インディアナポリスで表彰台に立ち、もてぎでは表彰台を逃したものの5位でチェッカー、フィリップアイランドも結果的に3位。足のケガから復帰してニュウマチックバルブ・エンジンのスペック違いを使用し、よりよいコンディションでレースをしているという印象です。マシンにも好感触を得ていますし、タイヤもよく機能しているので、パッケージ全体として非常によく出来上がってきたと思います。シーズン前半よりも、ケガを克服した今のほうが気力体力ともに充実し、いい成績を残せている状況ですね」
−これほどのハイレベルでまとまるようになってきたのは、いつ頃からですか。
「まさしくインディアナポリス以降です。ケガで2戦欠場し、自分で自分を追い込んでしまった状況の中で、母国GPでこそ好成績を出すんだという強い意志を持ってレースに臨み、表彰台に立って結果を出した自信から、今まで以上にモチベーションが高まりました。コメントの質や内容にも、ニッキーらしさが甦ってきました。今はまさしく、心身ともに充実している状態で、今年は一度も優勝していないことから、残り2戦で勝つ、と言ってくれています。来シーズンの彼はライバル陣営に移籍しますが、それに気を取られることはなく、チーム全体が今後もずっと一緒に戦っていくという雰囲気で取り組んでいます。監督としては、それが一番うれしいですね。
移籍が決まると、ライダーによってはモチベーションが下がることもあるようですが、少なくともニッキーにはそれがない。以前にも言いましたが、チャンピオンはすでに確定してしまったものの、バレンシアのチェッカーフラッグが振られるまでは、自分たちの中でベストを尽くすということについては変わらない。シーズンはまだ終わっていないわけですから、モチベーションは非常に高い。彼のこの姿勢は、きっと来年にもつながっていくでしょうね。選手としてのニッキーの成功はまさしく私の望むことなので、非常にいいことだと感じています」
−その意味では、終盤2戦のニッキーは期待できそうですね。
「非常に楽しみですね。フィリップアイランドのレース後も、早くレースがしたい、次のセパンが待ち遠しい、と言い残して帰っていったので、今は非常にいい状態です。Hondaにも恩返しをしたいし、Hondaファンの皆様にも締めくくりとして、ニッキー・ヘイデンここにあり、という姿を必ず最後に見せたい、と常々言ってるので、彼の意気込みに応えるためにも、我々もこれまで以上に必死で取り組まなければならないと感じています」
−ダニのほうはいかがですか?
「インディアナポリスからタイヤブランドを変更してレースに臨んだのですが、悪天候が重なってしまったために、タイヤ特性をクルマに合わせ込むことが十分にできない状態で決勝日を迎えることになりました。初めてのレインタイヤでレースに挑むという厳しい状況でしたが、それでも8位で完走し、貴重なデータを収集することができました。この結果をもとにもてぎに乗り込んだのですが、やはりまだ合わせ込みが十分ではありませんでした。ディメンションを変更したりサスセッティングを変えたり、といろいろ調整した結果、以前からの懸案だったフロントまわりの不安感は解消できたのですが、それでも表彰台を狙うには時期尚早、という状態でした。それで3位を獲得できたのは、なによりチームとライダーががんばってくれた結果だと思います。
このもてぎの結果とデータをさらに生かし、フィリップアイランドでは、ラップタイムのアベレージをキープすることをチームの目標に掲げて取り組みました。着実にステップアップしてレベルを上げ、トップ争いができるいい状況で、もてぎと違って本人も上位を狙っていくと明言してレースに挑んだのですが、本人のミスで1周目の2コーナーで転倒してしまい、残念な結果に終わりました。レース後、ダニのほうから謝ってくれたのですが、前に出なければいけないという気持ちが先走り、コーナーでスロットルを少し早く開けすぎて、リアを滑らせて転倒してしまった、ということでした。転倒後はマシンのダメージもほとんどなく、再スタートしようとしたものの、ヒザを強打して立ち上がれず、そのまま担架で運ばれレースを終えてしまいました。幸い、ケガは軽傷だったのですが、結果を残せなかったので落ち込んでいるのかと思ったら、非常にポジティブだったので安心しました。
正直なことを言えば、レース中にモニターを見ながら、『きっとダニは落ち込んでいるだろうな。残り2戦に向けて気持ちを高め、来年につなげていくた めに、どうやって士気を上げていこうか』とも考えていたのですが、そんな不安は全くの杞憂でした。レース後、オフィスに戻ると、落ち込むどころか次のレースに目標を切り替え、すでに自らの気持ちを高めていました。リタイアした結果をごまかすのではなく、今回の結果は結果として自分たちの中にしっかり入れて次のレースに備えるというこのポジティブな姿勢は、シーズン残り2戦、そして来シーズンに向けて、非常に心強い題材だと思います」