−さて、レース終了後、ダニのタイヤをミシュランからブリヂストンへ変更するという発表がありました。その理由と経緯を説明してください。

「シーズン中のタイヤブランド変更は、本当に異例だということは十分に理解をしています。ただ、我々は、レースに勝ちチャンピオンシップを獲得することを目的としている以上、何も手を打たないまま今の状況に甘んじるわけにもいかないのです。ライバル陣営と競り合うレースができていないのは、やはり問題がある。競い合うレベルに持っていくために必要に応じて改めていかなければなりません。そこには様々な要素があり、たとえばライダーは、今がんばっている以上にもっとがんばらないといけないし、マシンの開発や改良もさらに進めていく必要がある。さらに、公式発表されているとおり、我々のスポンサーであるレプソルYPF社からも、強力なプッシュではないものの、これまでの戦績やファンの方々に応えるレースを展開ができていないことから、現状を改善することを視野に入れてほしいと示唆があったのも事実です。
 そのような環境の中で、以前からミシュランにもタイヤの改良を要求していたのですが、即座に結果を出すことはなかなか難しいという状態でした。しかし、我々はここで止まっているわけにはいきません。
 ライダーはこれまでの状況を十分理解したうえで、一生懸命走ってくれていました。しかし、やはりレースを行う中で、1度だけではなく、2度3度と抱えた不安が積み重なることで、なかなか取り除けなくなってしまうのも事実です。それを取り除く手法を見いだしてやるのは、チームの仕事であり、監督である私の仕事です。ライダー、チーム、ミシュランのそれぞれと何度も時間をかけてじっくりと話し合いの場を持ちました。その間、全員でできるかぎりのことをしましたが、現状抱えているこれらの課題を打開するために、ダニのチームに対してブリヂストンを選択させてもらうという苦渋の決断に至たりました」

−とはいえ、どれほどいいライダー、マシン、タイヤの組み合わせでも、それぞれのいい面を引きだし合って最高の結果に結びつけるのは簡単ではないと思います。そのリスクに対してはどう考えていますか?

「それに関しても、シミュレーションをしました。『タイヤのステッカーを替えたからといってすぐに速く走れるわけではない』というご指摘もいただきましたが、それは全くその通りで、すぐに結果が出るほど甘くはないことは理解しています。タイヤ特性に対するライダーの理解や順応に時間がかかるのも覚悟の上です。しかし、それでも我々は常にチャレンジしなければいけない。ライダーやHondaファンの方々の応援に応えられるような魅力のあるレースをするためにも、そのチャレンジするフィールドの中で上位を狙わなければならない。シーズン途中でタイヤを替え、時間のない中でマシンをどうやって合わせ込んでいくのかという点では我々の技術力を問われるし、ライダーのスキルも問われます。そういった意味では、すべてがチャレンジだと考えています。
 アットホームな雰囲気や和を対外的に強調し、妥協しながら1シーズンをそれなりに戦うことも可能です。しかし、それでは誰に対しても今後にプラスの影響をおよぼさない。やはり何かを改善しなければならないという強い意志が我々の中にありました。改善がなければ進歩もない。ここから先、我々が直面する環境は決して甘くないことは覚悟のうえで、それでもやはり結果ですよね。今まで大変だったこと、これから先に大変なこと、すべて覚悟の上での決意です」

−一方のニッキーは、現状のパッケージで進めて行くのですか?

 「ニッキーとは、時間をかけていろいろと話しあったなかで彼自身考えていることがあり、さらに違ったアプローチで改良を進めて速く走る、という結論にいき着きました。今回の経緯についても、理解をしてくれています。本当は、ひとつのチームの中に(タイヤメーカー間の機密保持のために)ピットに壁を作らなければいけないという状況を、彼は一番いやがっていたのですが、最終的にはそれにも納得をしてくれました」

−そのような状況の中、レース後の月曜にダニは事後テストを実施しました。手応えはどうだったのでしょうか。

 「今回のテストでは、新しいタイヤ、そしてニュウマチック・バルブ仕様マシンのテスト、と多くの項目がありました。ニュウマチック・バルブのエンジン特性と車体特性、トータルで見たマシン特性は、当然ながら今までダニが乗っていたものとは少し違っているのですが、その新しい仕様がブリヂストンタイヤにうまくマッチしていました。現在は、そのマッチした要因を解析しているところです。攻めの走りでない状況でもタイムが出やすい、と本人も話しており、最初の一歩のつもりで行ったテストが、1.5歩くらい進むことができた実感があります。
 次のインディアナポリスGPは、全く新しいマシンとデータ、しかも新しいサーキットなので、我々にとっては早速の大きな試練になります。しかし、チャレンジということを考えると、そのような試練を克服していけば必ず好結果を得ることができるでしょうし、その意味でも今回のテストは、ライダー、マシン、タイヤ、すべてを含めて良い手応えを掴むことができたと思っています」

−では、そのインディアナポリスに向けての展望は?

 「インディアナポリスを含め、新しい環境下でここから先のレースでは今まで以上に様々なことが起こるでしょう。あらゆることを幅広く想定し、シミュレーションを繰り返しながら進めていきます。
 具体的には、ニューマシンとニュータイヤでニュートラックに挑むダニについては、優勝しか考えていません。ニッキーは、負傷した足をカバーしながらの苦しい戦いになるかもしれませんが、それでも3位以内。ホームグランプリで是非とも表彰台に立てるよう、我々も戦ってまいります。チャンピオンシップも一戦一戦が勝負なので、大事に戦いながら最後まで決してあきらめません。止まることなく、これまで何度も言ったとおり、最終戦のチェッカーまで必死で戦い続けます。これからも、応援をよろしくお願いいたします」