vol.37

新たな挑戦を目指して

 今シーズン2回目のイタリア開催となった第13戦サンマリノGP。8月上旬に足を負傷し、前戦チェコGPを欠場したニッキー・ヘイデンは、傷の癒えない状態でレースに臨み、予選までのセッションを走行したものの、傷の状態を考慮して決勝レースを断念。一方のダニ・ペドロサは、6番グリッドからスタートして4位でレースをフィニッシュした。また、決勝後にはペドロサのタイヤブランドを次戦から変更することが発表になり、大きな注目を集めた。チーム監督・山野一彦が、今回のレースの舞台裏とその詳細を明らかにする。

「レースに先立ち、ニッキーは元気な様子で現地サーキットに入ったのですが、やはり足はまだ痛そうでした。おそらく走行に影響はないだろうと話し合い、金曜日の走行に臨みました。午後のセッションを終えた段階で足裏をチェックしてみると、腫れが大きくなっている状態でしたが、本人も闘志を見せているのでトライし続けました。予選が終わった段階でもう一度トレーナーと足の状態を一緒に確認したところ、足裏が内出血で黒ずんでおり、これではマシンコントロールが難しいのではないか、レースは厳しいかもしれない、という個人的な印象を持ちました。決勝日午前のウオームアップは走行をとりやめて様子を見よう、とニッキーと話をしていたのですが、ウオームアップ後に、私のほうから、今回のレースは見合わせよう、と話ました。本人はレースに出ることを強く希望していましたが、チームやスタッフに対してはもちろん、なによりレースを楽しみにしている観客やファンの方々に対して申し訳ない、と非常に残念がっていました。

−決勝を見合わせるに至った決定的な理由は何なのですか?

「足の痛みが原因でマシンのホールドが難しく、スポーツができる状態ではない、競技レベルに至らないだろう、ということが1つです。予選グリッドが16番手であの体調では、トップ10に入るのが精一杯だったと思います。ニッキーの体調を一番に考え、無理を押して走行し得られるであろう成果も考慮した結果、今回は欠場が最も賢明な選択であると判断し、本人にも納得してもらったというわけです。

 さらにもう1つ、次戦のインディアナポリスに備えた、ということも大きな理由です。ここは本当の意味での彼のホームグランプリであり、ニッキーも気合いが入っていることから、我々も思う存分に力を発揮させてあげたいと思っています。今回、無理をしてレースに出ても、得られるものより次戦に与えるダメージのほうが大きいのではないかと考え、苦渋の決断ではあったのですが、欠場を決意ました」

−一方のダニは、予選6番手から決勝を迎えました。

「前戦のブルノ(チェコGP)から比べれば、状況的には好転したと思います。各セッションの内容も、ライディング、マシンのセットアップ、タイヤ、すべてについてザクセンリンク(ドイツGP)の頃に近い完成度まで進めることができるようになりました。とはいっても、アベレージや予選タイムでは、トップタイムの選手に依然として差を開かれており、ここ一番というところでのギャップを埋めることができませんでした。やはりフロント周りに対する不安感を拭いきれないようで、車体を調整して工夫を重ねたものの、完全な解消はできなかった、というのが現状です」

−4位というレース結果についてはどう捉えていますか?

「毎戦、表彰台以上を目標にしているので、両手を挙げて喜べるリザルトではありません。しかし、ザクセンリンクの転倒からラグナセカの欠場、ブルノで15位、というここまでの戦績を考えると、結果は4位ですがいい方向に向かっていると思います。ダニ自身もレース後に、『競り合う、レースをするという感覚が戻ってきた。結果は手放しで喜べないけれど、内容的にはよくなってきている』と、手応えを取り戻しつつある様子でした。4位という結果に喜んではいけないのですが、ここ数戦はアンラッキーを含め様々な変化があったので、ひとまずいい傾向へのはずみがついたといえるでしょう」