
vol.36
今後の逆襲を目指すために
約3週間のサマーブレイクが明け、チャンピオンの座をかけた激しい戦いが再開した第12戦チェコGP。後半戦からの巻き返しを狙い、士気を高めて意気揚々とブルノサーキットへ乗り込んだHonda陣営だったが、レースは全メーカー横断的にミシュラン勢が苦戦を強いられる結果となった。しかし、リザルトがつらく苦しいものであればあるほど、それを次戦以降の糧とするためにも、冷静な解析と着実な戦略が必要となる。今回の教訓を今後の逆襲へ向けた材料とすべく、レプソル・ホンダ・チーム監督・山野一彦が、現状と展望を語る。
「今回の内容を振り返る前に、まずはニッキーの欠場について説明をしておきましょう。サマーブレイク期間に彼がXゲームのスーパーモタードに参加するという話があり、我々としてはニッキー自身の精神的肉体的なリフレッシュになるだろうということで、ケガをしないことを前提に出場を承諾しました。ところが、イベント中にコースアウトを喫して、その際に右足かかと後部の骨にひびが入ってしまい、骨のひびはともかく、腫れがひどい状態で、それでも本人は最後までブルノGPを走る方向で備えてくれていました。しかし、医者の診断結果により移動や激しい運動は腫れを悪化させるということだったので、今後のことも考慮し、残念ながら今回は見合わせることにしました。この結論には何よりニッキー自身が残念に思っており、自分の欠場はもとより、応援してくださるファンの方々に対して申し訳ないことをした、と謝っていました。次のミサノGP(サンマリノ)は、全力で戦うと本人も言っておりますので、引き続き応援宜しくお願いします。
−さて、一方のダニですが、今回のリザルトは信じがたいレース内容と結果でした。やはり手のケガの影響もあったのでしょうか。
「確かにダニのケガは、100%完治したわけではないですし、今でも痛みはごくわずかに残っていますが、ライディングへの支障はなく、ほぼ完治に近い状態といっていいと思います。そのような状態で、金曜午前のフリープラクティス1回目では、気合いを入れながらも慣熟走行を兼ねたスロースタートで走り出しました。しかし、その慣熟走行をした段階でフロントタイヤは摩耗をきたしていました。午後のフリープラクティス2回目では別のフロントタイヤを使用したのですが、それでも状況は改善されず、このままだとかなり厳しいレースが予想され、何よりも決勝に出られるかどうかが心配されました。ご存じのとおり、レースに使うタイヤは登録制になっており、木曜に申請した以外のものを使用することができません。我々は、マシンをタイヤに合わせ込むセッティングを行ったり、ダニがライディングを調整するなど、できる限りのことをやって翌日に備えたのですが、土曜は雨になってしまいました。
そのレインコンディションでも、残念ながら不利な状況に変化はありませんでした。
私は最初、ダニだけの事象かなと思っていたんです。ほぼ完治したとはいってもやはり病み上がりであることは間違いないし、しばらくマシンに乗っていなかっただけに、意のままに乗ることができなかったのかなとも考えました。しかし、Honda勢のミシュランユーザーである、ランディ(デ・ピュニエ)やドヴィツィオーゾのコメントを聞いていても、ダニと同じような症状を訴えている。さらに、もう少し向こう側のピットでも、我々と似た状況に陥っているような様子でした。少なくともHonda陣営に関する限り、皆が共通して訴えていた一番の問題はフロントの切れ込みです。ブレーキングから進入にかけてフロントが『ない』状態では、とても攻めていくことなどできないし、それ以前に転倒のリスクが高くなってしまいます。とにかく我々は試行錯誤を繰り返し、今与えられた環境でハードとソフトの両方でベストを尽くそう、という結論に至りレースに挑みました。転倒すると得られるものは何もなく、マイナスしか残らないから、それだけは絶対に避けよう、とにかく走りきろうと。ダニはライダー人生でも初めてというくらい非常に落胆していたのですが、私としても、それは同様です。いつもなら『とにかく攻めていこう』といってライダーを送り出すのですが、『転倒だけはしないように、完走でいいから走りきろう』というつらい指示を出したのは、あれが初めての経験でした」