
vol.35
サマーブレイクを経て、心機一転のブルノへ
前半11戦終了後、恒例の短い夏休み期間を経たMotoGPは、8月半ばから再開。第12戦チェコGPから、いよいよシーズン後半の7戦を迎える。約3週間の夏休みは選手たちにとって貴重なリフレッシュ期間だが、開発陣はその間も休むことなく、シーズン再開後の勝利を目指して開発を続けている。その先頭で指揮を執るレプソル・ホンダ・チーム監督・山野一彦が、7月の2戦を振り返り、後半戦に向けた展望と決意を語る。
「以前お話したように、ドニントンパーク(第8戦イギリスGP)からの4戦が天王山だという覚悟で、ザクセンリンク(第10戦ドイツGP)とラグナセカ(第11戦アメリカGP)に挑んだのですが、結果からいうと、2戦とも残念なリザルトになってしまいました。
ザクセンでは、ダニのマシンに投入したパーツが非常に好評で、天候不順はあったものの、非常にいい形でレースに臨めました。決勝レースでは、序盤から引き離しにかかったものの、6周目の1コーナーで転倒してリタイア。チャンピオンシップを考えると痛恨なのですが、ライダーとして攻めた結果の転倒であり、そこに至るまでのプロセスも、チーム全体が非常にいい形でレースに臨むことができていました。その意味では、結果こそ残らなかったものの、今後につながる貴重な一戦だったと思っています。

−ダニ自身の判断でキャンセルした、ということではなかったのですね。
「土曜の朝に、手の痛みが増してきたという話は本人から聞いていました。だから、ダニをホテルに残して私はサーキットに出向いたのですが、その間、私は彼が走れるかどうかということをずっと悩んでいました。最終的には、監督に決めてほしい、と決断を委ねてもらったのですが、朝ダニと話してホテルを出る段階で、私の中では8割から9割がた、出走させない方向で考えていました。最終的には、サーキットからダニに電話をして、「今回はキャンセルして治療に専念しよう、このファイティングスピリットをケガの克服と次のレースへの準備に向けよう」と話しました。
その後、チームスタッフを招集して、ミーティングを行いました。「明日はもうレースがないのだから、頭を切り換え、次のブルノ(第12戦チェコGP)に集中しよう」と話している最中に、携帯電話が鳴ったんです。空港に向かっている途中のダニからでした。皆に聞こえるように携帯電話の音声モードを切り替え、チーム員の前に携帯電話を置きました。すると、ダニはスタッフに、申し訳ない、と謝りはじめるんですよ。メカニックたちひとりひとりに対して。ダニの声を聞いて、いろいろな感情がこみ上げてくるのか、涙を浮かべている者もいました。それを見た瞬間、自分たちはまだいける、チャンピオンを目指して戦えるぞ、と感じました。もちろん、ここから先の戦いは決して楽ではありません。しかし、この苦境をどうはねのけていくのかという最高の題材を得ることができました。この課題の克服が今の私たちの重要なテーマで、必ずこの壁を越えて結果を出してやる、という意気込みで全員が臨んでいます。ランキング首位から3位に後退し、トップとのポイント差も41点に広がりましたが、最終戦のバレンシアでチェッカーが振られたときにどんな結果になっているか。悩んでいるくらいならとにかく前に進もう!今の合言葉は、最終戦バレンシアのチェッカーフラッグまで全力で戦う、それだけです」
−ちなみに、ケガの状態は、現在はどうなんでしょうか?
「地元バルセロナの街を離れ、マヨルカ島でトレーナーやドクターに同伴してもらいながら、リラックスしつつリハビリを行っている状態です。電話で話を聞く限りの経過では、まだ痛みは少し残るものの、快方に向かっているようです」