
vol.34
7月の2連戦こそ、1−2フィニッシュを目指して。
英国ドニントンパークからオランダ・アッセンへ、とふたたび2週連続開催になった第8から9戦のMotoGP。当初の予測どおり不安定な天候に見舞われたものの、レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサは困難な状況を見事にしのぎきって2戦ともに表彰台を獲得し、ランキング首位に返り咲いた。また、チームメートのニッキー・ヘイデンは、ときに苦戦を強いられながらもアッセンでは4位フィニッシュ。ニューマシンの高いポテンシャルを確実に引き出しつつある。チーム監督の山野一彦自身がシーズン最大の天王山、と自ら分析するこの2連戦を振り返り、次の連戦に向けた展望を語る。
「前回の現場レポートでは、ドニントンパーク〜アッセン〜ザクセンリンク〜ラグナセカ、と続く、夏休み前のこの4レースが天王山だと申し上げました。強力なライバル勢との激しい戦いを制して頭ひとつ抜け出るためには、いうまでもなく、表彰台の獲得が最低ラインです。実は前回の現場レポートではお話しなかったのですが、今回のドニントンパークとアッセンは、過去のレースを振り返ると、我々にとってあまり相性のよくないサーキットだったんです。
ましてや、この2戦は天候も変わりやすい土地柄です。金曜午前のフリープラクティスから、ときに混乱がうかがえる状況もあったのですが、数戦前に経験した教訓を糧に、崩れても素早く軌道修正を行えるようになりました。
『我々のマシンは、普通に走れば上位を十分に狙えるだけの戦闘力の高いベースが出来上がっている。大きく混乱することはない。ライダーの能力を存分に発揮できる微調整をすれば、結果は自ずとついてくるんだ』と、自信を持って自分たちに言い聞かせながら、この連戦に挑んできました。
そうやってチーム全員が結束し、ライダーも、自分はいけるんだと自らを奮い立たせて臨んできたのが、この2戦でしたね」
−第6戦のムジェロで得た教訓が今、生きているということでしょうか?
「そうですね。ムジェロやルマン、特にルマンは表彰台を逃しましたが、シーズンも半ばに来て過去のレースを振り返りながら一戦一戦を挑んでいくなかで、あのとき以上の最悪はない、と考えながら戦っています。今季は強力なライバル勢がいて、さらにここに来て激しい追い上げを開始したライバル陣営もあります。いずれもチーム、ライダーともにスキルが高く、これからはさらにレベルの高いレースをしないとそうそうは勝てない。ほんの少しのミスが大きく影響する緊迫した状況ですが、ライバル同様、我々にもミスする可能性はあるわけです。だから、次のザクセンリンクは開幕戦のつもりで緊張感を持って戦い、チャレンジを続けていかなければ、と思っています。
前半戦では、守りの体勢になってしまったときがあったんです。第2戦のヘレスで優勝し、第5戦目のル・マンでは守りのレースを展開し、という結果になりました。もう、あれは繰り返さない。どこまでも攻めていく。ポイントリーダーになったからこそ、攻めていく。当然ですよね。私たちは未だチャンピオンではなく、あくまで挑戦者なんですから。
ニッキーも、ずいぶん調子を上げてきました。アッセンではトラブルに見舞われて4位でしたが、ライダーのスキルとマシンのポテンシャルが今はうまく合っています。ニッキー自身も、自分の勝ちを狙うのと同時に、『マニュファクチャラータイトル、コンストラクターズタイトルを獲るためにも、僕はレースをがんばる』と言ってくれてるんですよ。そういう意味で、Hondaとしてライバル陣営に勝つ、という強い意志が今はチーム全体から感じられるんです。私自身も、どんなに強力なライバルチーム、ライバル選手が迫ってきても、真っ正面から勝負するぞという強い意志があります」
−ドニントンパークとアッセンのレースでは、ピットロード脇から表彰式を見上げる山野監督の厳しい表情が印象的でした。どういうことを考えながら見ていたのですか?
「一番高いところをいつも目指しているので、表彰台に立っただけで満足していてはいけないな、ということが1つです。また、特にアッセンでは、我々のピットの上に表彰台が設置されていたことから、『2人とも表彰台に立てる。ピットから一番近いところにあって行きやすいんだから、我々が行くんだ」と、チーム全体で目標を掲げていたんです。1位の選手には逃げられてしまいましたが、レース序盤から中盤後半となって、『よし、有言実行だ、2位、3位はいける』と思っていた直後、最後の最後にトラブルが発生してニッキーは表彰台を逃してしまいました。落胆と同時に、これを解決していく方法も頭の中をよぎりながら、表彰台を見ていました。ライダーにマシンを提供する側として、最後に順位を1つ落としてしまった、悔しい思いをさせてしまったのは、非常に残念だし、ライダーにも申し訳なく思います。1人は2位でも、もう1人のライダーがそういう状況のときは、複雑な心境ですね。とはいえ、いい経験をさせてもらいました。この悔しさをバネに、我々はさらに強くなれるだろうし、プラスに捉えれば、Hondaとして相性のあまりよくないアッセンをこの様にで切り抜けられたのだから、ここから先はもう大丈夫。いけるぞ、と感じています」
−ニッキーのマシンに発生した最終ラップ最終コーナー立ち上がりの挙動は、進入時すでに前兆があったようにも見えましたが。
「ラストラップの最初から、いまひとつエンジンが吹けていませんでした。データで見ると、息絶えたのがチェッカーまであと30mのところなんです。いろいろな想定をしていたとはいえ、結果的にはズレが生じてしまった、ということです。あのレースが終わったあと、チーム全員で反省し、話し合いました。ニッキーも、レース直後に、私に対して正直な心情を打ち明けてくれました。それを聞くのも辛い状況でしたが、トライすることで起きたエラーだ、必ず直してくる、と話しました。トライをしなければ何も起きないかもしれない。けれど、それよりも上のレベルへもいけない。トライゆえのエラーだ、と。ニッキーも理解をしてくれて、同じトラブルを二度と起こさないよう、全員が早速取り組みを開始しました。日本サイドもその日は休日だったんですが、日曜から仕事を始めてくれました。そういう意味では、トラブル自体はよくないことですが、ライダーやスタッフ、日本サイドや現場サイド含め、全員がさらに結束することになりました」