
vol.32
不順な天候を乗りきり、総合力で獲得した2位表彰台
第3戦の舞台は、ポルトガルの首都リスボンからほど近いエストリル。イベリア半島の最西端で風光明媚な観光地としても名高い土地だが、そこからやや内陸に位置するサーキットは不安定な天候や強風に悩まされることの多い場所でもある。例年に違わず難しいコンディションのなかでスケジュールが進行したものの、レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサは2位でフィニッシュ、これで開幕以来3戦連続の表彰台となった。このレースウィークは、ライダーとスタッフ全員の総合力で戦い抜いた、と語るチーム監督山野一彦とともに、第3戦の成果を検証する。
開幕前に私たちは、序盤3戦で安定して表彰台に上るという目標を掲げていました。シーズン全体を考えると、チャンピオンシップを獲得するための最低条件だと考えていたのですが、ダニがしっかりとそれを実践してくれています。今回のリザルトは2位なので、非常に悔しいのですが、全18戦のうちの序盤3戦と考えた場合には、ひとまず好結果といえると思います。
一方のニッキー(ヘイデン)は、開幕戦10位から2戦目に4位と上昇気流に乗り、今回の3戦目で表彰台獲得を目標に臨んでいたのですが、追い上げ中に7コーナーで転倒リタイアを喫してしまい、残念な結果に終わりました。レース序盤に降雨があったものの、ウエットパッチが残っていたわけではなく、路面の荒れた部分にフロントをすくわれる形での転倒でした。月曜に行った事後テストではその原因を十分に検証し、引き続き行ったタイヤテストではレース以上の好タイムもマークしています。また、ニッキーと2人で十分に話し合い、今後は必ずゴールして好成績を収めると固く約束してくれました。序盤3戦で表彰台に乗れなかったのは残念ですが、その分だけ得たものも大きかったと思っています」
−今回のレースウィークを振り返ると、ダニについては順調に進んだのですか?
「セットアップ面では、今回はパーツ類に関してあえて大きな投入を行いませんでした。エストリルは天候不順が予測されたので、投入パーツの見極めがつきにくい状況で決勝に挑むよりは、前戦ヘレスの仕様をベースに戦ったほうがいいと考えたからです。従って、エストリルに合ったギアレシオやサスペンションのアジャスト、あるいはタイヤの温度レンジなどを考慮したファインセッティングに集中しました。金曜のフリープラクティス1回目はハーフウエット、決勝日朝のウオームアップはウエットでの走行となり、このようなコンディションではタイヤ面での課題が明確にもなりましたが、ドライコンディションでのセットアップは順当に進み、満足のいくものでした。セッションを重ねるに従い、ロングランを実施し、アベレージタイムの検証もしっかりとできたので、ダニに関しては着実にステップアップしてきたという印象です」
−では、ニッキーは?
「好調なラップタイムを刻んで、ドライでのセッティングも大きく変えることがなかったので、私個人としては、今回はニッキーが優勝してくれるんじゃないかという手応えを感じていました。それくらい、調子を上げていたんですよ。レースが始まると、序盤数周で雨が降ってきて、その状況下でやや慎重に走り過ぎたのかもしれません。様子を見ているうちに、前を走るライバル陣営のペースが予想以上に速く、そこで少し離されてしまいました。ニッキーは硬めのタイヤを選択していたので、後半に勝負という作戦だったのですが、そこで離されたことが焦りにつながってしまったのかもしれません。ドヴィツィオーゾも同じ展開で、2人とも同じコーナーでの転倒でした。アンラッキーという言葉で済ませてはいけない状況だと判断したので、次の日に問題を確認し、すっきりとクリアにした、というわけです」
−その意味では、今回はやはりコンディションに翻弄されたという側面は否めません。
「去年のエストリルは秋のレースでしたが、今年は春なので、気温は低く、雨も降り、風も強いということを、あらかじめ予想していました。ダニはもともと風の影響を受けやすい選手で、一方のニッキーはそうでもないものの、向かい風になった場合にはトップスピードが伸びなくなってしまう。そういう意味では、気合いを入れていかないと厳しい状況になるだろうな、と気持ちを引き締めて臨みました。セッションによっては天候にも翻弄されながら、チームの総合力で難なく切り抜けて『よし、いけるぞ』と思ったところに、また雨がぱらついた、という状況でした。
レース中も、どきどきしました。ニッキーが転倒した瞬間、ダニにも同じことが起きるのでは、と少し不安になったのですが、『いや、とにかく信じろ。ダニを信じるんだ』と自分に言い聞かせました。レースが後半4分の1になり、前との距離をダニがどれだけ詰めるかという展開になったときでも、あきらめずにプッシュを続けていたので、攻めているうちは大丈夫だ、と思いながらモニターを観ていました。2位キープで満足するのではなく、ちょっとでも前へ、少しでも差を詰め願わくば1位に、という姿勢は必ず上海につながります。自分自身にもそう言い聞かせながら『もっと攻めろ、もっといけ』と心のなかでダニに話しかけながら観ていたんです。その意味では、これからのシーズンを戦っていくうえでも非常にいい内容だったと思います」