-一方、ニッキーは惜しくも表彰台を逃しましたが、転倒寸前の状態から持ち直したのはさすがでした。
「カタールはニッキーにとっても我々にとっても非常に不本意なレースでした。なので、今回はすっぱりと気持ちを切り替えるためにも、まずはIRTAテストのヘレスを含めてウインターテストのタイムを思い出そうよ、と、ニッキーと話をしました。08年仕様のマシンであれだけ速いタイムを刻み、何百周も乗り込んできたのだから、自信を持っていこう。おれたちには何も迷いはないよな、と話をしました。今回は新たにフレームも用意し、本人も違和感がないということだったので、あとはダニと一緒でファインセッティングに向けて集中しました。サスペンション調整、タイヤチョイスと、こちらも勝つシナリオ通りに進みました。
決勝レースは紙一重で、3番手を走行していた選手まで0.2〜0.3秒というところまで来て、よしこれから、と思ったときにアクシデントが発生してしまいました。しかし、あそこで転ばなかったことが今回の一番のビッグポイントだったと思います。あそこで持ちこたえられたのはチームのおかげだ、とニッキーは言うんですよ。彼はいつも、『チームが全力でやってくれるからこそ、僕は走れるんだ』と言うんですが、今回転ばなかったこともチームが全面的にバックアップしてるから、何とかヒジとヒザで立て直して転ばずにすんだんだ、と。ただ、そのあとタイムが落ちてしまったのは、あとで本人に聞いたら、やはり心臓がバクバクしたからだと言ってました(笑)。後ろとのタイム差はサインボードで15〜16秒もあると確認できたので、4位でゴールすることに切り替えた。そうやっていいリザルトを残してくれたのは、チームとしては意義が大きいですよね。次につながる。カタールが終わってヘレスに来たときより、ヘレスが終わってエストリルに行くほうがさらに上昇気流に乗れています」
-今の話でひとつ確認をしたいのですが、今回ニッキーが採用したフレームというのは、IRTAテストでの仕様からモディファイを施したもの、ということでしょうか?
「そう。ダニが使っているものと同じです。ダニが先行する格好でカタールで使用していた理由は、単純にライディングスタイルの違い、好みの違いなんですよ。アジャスト幅のより広いものをダニが望み、ニッキーはそこまでのアジャスト幅は必要ないと判断していた、ということです。ニューフレームというほど大きな仕様変更でもないのですが、セッティング幅が広がるフレームをニッキーにも入れたことにより、これでレプソル・ホンダ・チームのライダー2人のマシンが同じフレームになりました」
-レース翌日からの事後テストでは、どのような項目を試したのですか。
「メインはタイヤです。ウインターテストでダニがケガをしてしまったために、彼のメニューは思ったほど進まなかったという事情があります。ニッキーとダニでやはり違う好みのタイヤチョイスをするので、ダニの傾向を少しでも絞り込んでいきたい、という事情がミシュランさんにもあるわけです。だから、マシンに乗り込みたいというダニの希望をかなえるためにもテストを2日間行い、タイヤテストを中心に取り組みました。次につながるいい結果を得ることができました。ニッキーも、本来は一日で切り上げようと話していたのですが、タイヤが少し残っていたのと、セッティングの範ちゅうでフレームのディメンションを変更してその傾向を見ようということで、2日目にそれらもテストしました」
-今シーズンのミシュランは、明らかに昨年より改善されていることがうかがえます。
「昨年、劣勢が見受けられた部分を巻き返そうと、強い意志で取り組んでくれています。そして、現実にそれをモノとして、我々に供給していただいているので、非常に助かっています。我々も要求レベルを高くしていますし、ミシュランさんもその要求に応えるレベルが高くなっているし、お互いにいい関係ですよ。ときには想いが強い口調になってしまうのですが、それもいい意味で受け止めて貰っているし、我々もミシュランさんがやってくることをしっかりと受け止められているし、良好な関係が築けています。去年とはひと味もふた味も違いますよ」
-では、第3戦のエストリルに向けた展望をお願いします。
「今回のリザルトは1位と4位だったので、エストリルではさらにファインセッティングに集中します。ヘレスで走ったマシンと事後テストで得たベースセッティングを武器に、エストリルを戦います。以前、長いシーズンを勝ち抜くためには序盤3戦が肝心だと言いました。だから、今回以上に気持ちを引き締めて臨むつもりです。勝ってうれしいのは当たり前なんですが、開発陣も現場のスタッフも第2戦の勝利に甘んずることなく、自分たちはまだ1回しか勝ってない、という認識で備えてくれています。次のレースも、ダニとニッキーが十分に乗り込んできたこのハードで勝負をします。2人のスキルなら、十分に優勝を目指して戦えます。第3戦エストリルも全力で立ち向かいますので、さらなる応援をよろしくお願いします。どうぞご期待ください」