vol.31

<勝利のシナリオ>を実現し、優勝を勝ち取った第2戦

 3月30日に決勝レースが開催されたMotoGP第2戦スペインGP。13万人を超える観客が押し寄せたヘレスサーキットで、レプソル・ホンダ・チームのダニ・ペドロサはホールショットを決め、最終ラップまで一度もトップを譲らず圧倒的なレース運びで今季1勝目を挙げ、地元ファンを熱狂させた。また、チームメートのニッキー・ヘイデンも4位に入り、着実な復活をアピール。公約どおり<勝利のシナリオ>を実現し、優勝を獲得するまでの過程をチーム監督の山野一彦が振り返る。

「今回のレースでは、開幕戦のカタールをベースにしながら、金曜午前のフリープラクティスでダニのマシンに新たなエンジンスペックを投入し、比較検討をしてみました。ただ、本人のコメントでは、あまり明確な差がないということだったので、金曜午後のフリープラクティス2回目からはスタンダードの仕様に戻し、セッティングとタイヤチョイスに集中しました。今回、我々が掲げていたテーマは、マシンに迷いを持たず勝つためのセッティングに集中する、ということでしたから、タイヤ選択に続いてロングランも実施し、レースに向けて<勝利のためのシナリオ>を着実に進めていくことができました。ライバル陣営に対して、圧倒的な速さをアピールするまでには至りませんでしたが、それでもセッションを進めていくなかで、ダニ自身も着実に掴むものがあり、チーフメカはじめスタッフたちも『よし、今回はいけるぞ』という手応えを毎セッションで感じながら、確実にワンステップずつ積み上げて来たことが、結果としての優勝に結びついたと感じています」

-前回のレース後に話していたプランどおり、順調にことが運んだ、ということですか。

「ただ、決勝日朝のウオームアップセッションでは、タイムが思ったほど出ていなかったので、新人監督の私としては、少し心配になったんです(笑)。走行後にダニにたずねてみたところ、決勝に向けて要所要所でマシンの最終チェックをしていた、という話でした。
 実は、土曜から日曜にかけて欧州ではデイライトセイビングタイム(サマータイム)に切り替わる日だったので、タイムスケジュールでは10時からの走行でも、昨日までの時間帯なら9時のコンディションに相当するわけです。当然、外気温も低いし路面温度も低い。決勝前に絶対やってはいけないのは転倒なので、ここは攻めどころ、ここは普通に、と確認をしていた、というのです。トータルのラップタイムは低くても、本人が目的意識を持ってしっかりと取り組んでいる。そして、数時間後の決勝レースに向けて『もうOKだ。マシンの微調整は必要ない』と自信に満ちあふれた表現をしてくれたので、『今日のレースはいけるぞ』と私も確信しました。
 でも、手はまだアイシングしているんですよ。まだ多少の違和感があるようで、去年のバレンシアと比較すると100%の状態ではない。しかし、それにも増して着実にセッションをこなしていくスキルを持っているライダーなので、今回のレースでは、環境を整えることさえできれば確実に結果を得られる、ということを証明できたと思います」

-レース内容も、ダニの持ち味が存分に出た勝ち方でした。

「今回のレースでは、開発陣がハードの性能、具体的にはクラッチの性能を向上させ、ライダーも安心してその性能を発揮することができました。ダニもニッキーも、先頭をきって1コーナーに入っていきましたよね。レース中に強力なライバル陣営のライダーたちを抜いていくリスクを考えれば、スタートで前に出て自分のペースに持っていく、という勝ちパターンを実行できるライダーのポテンシャルと、それを補うマシンの能力がうまく噛み合う展開になったのは、チームとして本当にうれしいかぎりです」

-では、金曜の走り出しから優勝に至るまで、100点満点で採点すると今回のダニは何点ですか?

「はやばやと100点をあげてはいけないのかもしれませんが、ヘレスは過去2年勝てなかったサーキットです。それらも考慮に入れれば、第2戦目ということではなく、ヘレスというひとつの場所として考えると、十分に100点をあげていいと思います。チームの仕事としても100点。パーフェクトです。欧州メディアのインタビューで、私は、エクセレントだ、と答えたんです。全員が、それくらい最上の仕事をしてくれたと思います。総合力を発揮するためには誰ひとりとして欠けちゃいけないんだ、ということを、改めて思いました。たったひとり欠けてもライダーに伝わらない。ライダーもそれをよく見ています。ダニは、勝ったとき、メカニックに一番に感謝してますよね。そういう姿を見ると、チーム力は絶対に必要なんだ、と痛感します。レースで最大のパフォーマンスを発揮できたのは、彼のスキルでもあり、チームの力でもあると思います」

-そういえば、山野さんは今回、表彰台に上がりませんでしたね。

「一番の中心にいるのはライダーですが、チームの核はチーフメカです。優勝したときは一緒にがんばってきたチーフメカにポディウムに上がってもらおう、と決めていたんです。だから、ニッキーが勝てばニッキーのチーフメカがポディウムにあがる。監督はしょせん裏方ですからね。でも、2人とも表彰台を獲得した場合には、私が上がるかもしれません(笑)」