−ところで、テスト2日目にはレインコンディション下でタイムアタックセッションが行われました。ニッキーは、ミシュラン勢ではトップの3番手タイムでした。
「雨で始まって最後は雲間から少し光が射してくる難しい状況でしたが、個人的な印象で言うと、タイヤの選択を少し失敗してしまった、と反省しています。本来の予選では、あの結果だと3番グリッドになってしまうわけですから、もう一度原点に戻って見直そう、とセッション後にチームスタッフやチーフメカニックと話し合いました。レプソル・ホンダは百戦錬磨のチームですが、私の意見に対してスタッフやチーフメカニックも理解を示してくれました。そういう意味では、いいシミュレーションになったと思います。『予選ではポールを獲るぞ!』と言っているのに、獲れなかったんですから、それには必ず理由がある。その問題を抽出して課題立てをし、この課題をレースに向けて潰し込むぞ、という話し合いまで進んだので、意義のあるシミュレーションができたと思います」
−今シーズンのミシュランタイヤは、どうでしょうか。
「すごくスピーディに、要求に応えてくれています。我々はマシンを作るマニュファクチャラーで、問題があれば改良ポイントを見つけて、ここヘレスに備えてきた。タイヤマニュファクチャラーのミシュランさんも、セパン−フィリップ−セパンと続いたテストの結果を踏まえて、ヘレスに備えたタイヤを持ち込んでくれた。そういった意味では、すごくスピーディな開発で、素早い回答を出してくれていると体感しています。開発スタッフも非常に人材が豊富で、いろいろなスペシャリストの方が現場に来られて、セッションが終わったときのミーティングでも、具体的な話をできているので、そういったことが開発スピードを速める手法につながっているのだと思います。言葉だけではなく、実際のモノとして供給してくれているので、今は非常にいい関係でお互いに仕事ができていますね。開幕戦のカタールは初のナイトレースですが、既にシミュレーションをしてこういうアレンジでいきます、ということを早々と掲示してもらっていますし、そういう意味でも相当に気合の入った準備をしていただいていますよ」
−Honda勢の各サテライトチームの印象は、いかがですか?
「今回のIRTAテストで、08年仕様のエンジンを全てのチームに供給できました。私が聞いているかぎりではどのライダーからも評判がよく、トップエンドのパワーも問題ないという話です。オールHondaの総合戦闘力として、これだけポテンシャルの高いライダーが揃っているんだぞ、と他陣営に披露するちょうどいい機会だったと思います。
アレックス・デ・アンジェリスと中野真矢選手は、我々と別のタイヤメーカーですが、<ニューエンジン−車体−タイヤ>のマッチングが非常にいい、と聞いています。2人ともポテンシャルの高いライダーです。デ・アンジェリスは若く、可能性のあるライダーで、外から見ていても、いい仕事をしているなと思います。中野選手は、皆さんご存じの通り十分にポテンシャルの高いライダーです。シーズン全体のペース配分を考えて戦っていけるライダーなので、リラックスしながら上位を狙ってくれるでしょう。同じ日本人として、サムライ魂を見せて欲しいなと思いますね。期待しています。
アンドレア・ドヴィツィオーゾも250ccからステップアップしてきたライダーで、将来有望な選手です。今はまだ、荒削りなところも見受けられますが、若いライダーの荒削りなところは、その時期に出して貰ったほうがいいと思います。彼は、今、それを出しているので、強いライダーに育つ第一歩として十分に可能性を持ったライダーだな、という予感がします。
ランディ・デ・ピュニエは、レースアベレージは速いし、予選タイヤでも速い。転倒することもありますが、そこからのリカバリーも速い。転倒しても、なぜ転倒したかということを十分理解したうえで次のステップにつなげ、転倒しないように自分の走りやセッティングを変えることができる、非常にクレバーなライダーです。先ほどはマシンについて<車体−エンジン−タイヤ>という3要素の話をしましたが、チームの総合戦闘力を見るときには、<チーム−ライダー−マシン>という3要素が重要です。今年のサテライトチームは、それぞれチーム力は高いし、ライダーのポテンシャルも高い。さらに我々が供給するマシンも、それなりのポテンシャルがあると自負しています。この3要素が三位一体となっているので、今年は面白いシーズンになると思いますよ」
−では、締めくくりとして、ワークス勢の開幕に向けた展望はいかがですか。
「ダニはもともとの能力の高さに加え、精神的にも強い選手なので、レースへの心配は全然していません。車の方向性もしっかりと見極めができているし、開幕戦に向けて『皆さん、見ていて下さい』という状態です。ニッキーも、有言実行でコツコツがんばってくれています。特に昨シーズンは、開幕当初の不振がチャンピオンシップ全体でかなり不利に働いてしまいましたが、今年はそこを改善するために取り組み、ここまで順調に来ています。スタートダッシュをかけて、開幕から有利な立場に立ちたいところですね。ニッキー自身もすごくモチベーションが高く、充実した意気込みで走っています。ダニもニッキーも、チャンピオン獲得を公言しているので、お互いに刺激しあっていい相乗効果でレプソル・ホンダの2人がともに上位を占めるようにしていきたいと思います。そして、それを全面的にバックアップするのが我々の仕事です。我々スタッフもコンセントレーションが非常に高く、モチベーションも高いので、そういう意味ではいいチーム編成ができたと思っています。
本来、レースは競争なんですが、現場にいる私たちがレースを楽しんでいなければ、ライダーには伝わらないし、会場やテレビで見ているファンの方々にも楽しさは伝わらない。そういう意味では、今は私自身が開幕を非常に楽しみにしているんです。Hondaファンの皆様も、楽しんでいただけるシーズンになると思います。今シーズンは、ワークスとサテライトが一体になって、オールHondaとしてライバル陣営に挑んでいきます。我々は挑戦する立場ですが、チャレンジャーとしては最高の編成を組めたかな、と考えています。目前に迫った開幕戦、そして18戦のシーズンを全力で戦いぬきます。どうかご期待ください」