
A.ドヴィツィオーゾとA.デ・アンジェリス
サテライトチーム勢ですが、まずは250ccクラスからステップアップしてきた2人のライダーは、ともに慎重かつ着実にメニューを消化している姿が印象的でした。
ドヴィツィオーゾは、新体制のチームとはいえ、メカニックたちのほとんどが250cc時代の同じチームスタッフなので、その意味での安心感はすごく大きいと思います。彼は若いけれども非常に落ち着いたところがあって、ゆっくりと1つずつ確かめるようにマシンを仕上げていく。スタッフもそれを充分に理解しているから、彼の姿勢を受け入れながら仕事を進めているように見えました。3日間のテストを終えて、最終的に7番手タイムという結果も、頼もしい限りですね。私の見る限り、まだまだマシンを仕上げていく必要があると思いますが、それが詰まってくれば、さらに戦闘力が上がり、1年目からいきなりすばらしいリザルトを残してくれるかもしれませんね。
それはグレッシーニ監督以下、一流のチームスタッフに支えられているデ・アンジェリスも同様です。彼は、昨年11月のセパンテストには参加していないので、ここでMotoGPマシンに乗るのは今回が初めてだったわけですが、この熱さでMotoGPマシンを操ることに関しては、ややタフに感じていたようです。もともと体格のいい選手ですが、今後はこのコンディションでMotoGPバイクを余裕を持って扱えるだけの体力が必要になります。そのための最良の方法は、やはりバイクに乗ること。貪欲に走り続けることで、スタミナも力もついてくると思います。
250ccクラスから上がってきたこの2人に私がまず希望するのは、転倒しないで欲しい、ということです。今転ぶと、仕上げてきたマシンのバランスが崩れたり、自分の中で積み上げてきたものも潰れてしまう可能性がある。だから、今はとにかく転ばずに、マシンに慣れていくこと。今のMotoGPバイクはコンパクトで電子制御のデバイスがたくさん盛り込まれているから乗りやすい、とはよく言われることですが、それはあくまでも表現の仕方の1つであって、決して250ccと同じように乗れるわけではありません。
車重は約145kgもあるし、その分だけ慣性モーメントも大きい。だから、ドヴィツィオーゾとデ・アンジェリスの2人のステップアップしたライダーに必要なことは、確実に周回数を重ねて走りきること、転倒なくしっかりマシンを理解しながら仕上げていくこと、だと思います。
ランディ・デ・ピュニエ
この選手、いいですねえ。コースサイドで見ていても、うまいな、と感心しました。250ccからステップアップしてライバルチームで2年間乗ってきた中で、着実に実績と経験を積み重ねてきています。コーナリングスピードが高く、アグレッシブな走りの中にも自由度がある。しなやかに走っているように見えるんです。1コーナーから2コーナーを経て3コーナーのアプローチで切り返すところとか、あるいはコース裏側のヘアピンを立ち上がって右へ曲がっていくところ、このあたりは非常に難易度が高いコーナーで、ギアでいうと3〜4速の中速コーナーなんですが、そこでのマシンの挙動の安定性が抜群にいい。初日、2日目とトップタイムをマークしたのも納得できる走りです。この特徴は、今後、彼の強みになってくると思いますよ。
だいたい、普通はマシンが変わってタイヤメーカーも変わると悩むものです。ところがランディは、非常に気持ちよくRC212Vに乗っています。さらに、彼のチームは今年からオーリンズのサスペンションを採用しているので、これが新たなポテンシャルを引き出す可能性もある。新しいパーツサプライヤーが入ってくることにより、そのノウハウを引き出してさらにうまく走れるようになると、これはちょっと面白いことになりそうですね。チェッキネロ監督の表情もよく、ランディに「もう少し抑さえていくように」なんて指示していたくらいです(笑)。
中野真矢
今回のテスト期間に彼と話をした中で私の印象に残ったのは、マシンのベースセットとチーム力、この2つの水準の高さでした。もちろん、中野選手自身が、2ストローク500cc時代から走っている経験豊富なトップライダーであることは言うまでもありません。その意味では、今回のテストは一流のライダーと一流のチームがシェイクハンドするための3日間だった。そして、それは充分に成功をした。そんな気がします。
3日間のテストの中でいろいろな仕様変更を試みながら、チームと中野選手はお互いを非常によく理解した。その中でしっかりとセットアップを仕上げていった、という印象です。中野選手は初日の走行で、すでに昨年の予選タイムをあっさり塗り替える走りを披露していますが、今年はHonda2年目で慎重にテストに取り組みながら転倒もせず、2台のマシンをじっくり仕上げていく姿に好印象を持ちました。このチームは、今シーズンからニッシンのブレーキを採用していますが、初日の午後に作った仕様が非常によくて、残りの2日半をほとんど問題らしい問題もなく走りきっていました。この暑いセパンで問題が発生しないのですから、日本製のこのサプライヤーとHondaのマシンの組み合わせにも、さらに新たな期待ができると思います。
というわけで、今回のセパンテストを振り返ると、いずれもすばらしい内容で、Honda勢各チーム各ライダーがそれぞれしっかりと手応えを感じた3日間のテストだったのではないかと思います。
ラップタイムを見ても、全ライダーが昨年のタイムや自己ベストを塗り替える走りで、Honda勢最後尾のデ・アンジェリスでも、去年のレースでスターティング・グリッド2列目6番手を獲得したニッキーより速いタイムを記録しています。今回のテストが非常に密度の濃い内容だったことは、これらの数字にもハッキリと表れている、と言えそうです。
マシン面でも、レプソル・ホンダ・チームは開発の方向性が明確に定まり、サテライト勢もダニがポール・トゥ・フィニッシュを飾った実績のある昨年最終戦仕様のワークスマシンがベースになるので、開発陣、ライダー、チームの全員が自信を持って新たなシーズンに立ち向かっていることが、手に取るように伝わってきます。
お世辞ではなく、2008年シーズンのHonda陣営の活躍にはかなり大きな期待ができそうだと感じた2008年シーズン最初のテストでした。
今シーズンもMotoGPレース現場のレポートを随時お伝えして参りますので、Hondaライダーへのご声援をお願いいたします。