
レプソル・ホンダ・チーム
今回のレプソル陣営は、昨年末に登場したプロトタイプマシンに改良を加えた新たなスペックを持ち込み、そのニューマシンのテストだったのですが、開幕に向けて非常にいいスタート切ったように見えました。コーナリングで、ライダーがより積極的にアプローチできるようになっていて、クリッピングポイントの通過スピードも安定感がさらに増しています。
2008年に向けたプロトタイプマシンは、昨年の最終戦直後に行われたテストからデビューしましたが、コンセプトは2007年のRC212Vを引継ぎながらも、フロントカウルのエアーインレットの位置変更や、シートカウルの形状を変更し、またエキゾーストパイプがセンターアップタイプになり、細かく見るとずいぶんと印象が変わりましたね。マシンはホイールベースがわずかに延長され、コーナーをより安定して攻められるよう、細部にわたって車体のバランスが見直されているようです。またエンジンも、F1の技術を応用したニュウマチックバルブをテストするとともに、パワーデリバリー特性に優れた従来からのバルブスプリングスペックをさらに熟成させたニューエンジンも登場させています。特に高回転でのエキゾーストノートは快音といえる印象的な音色でした。テストを通した今後の車体の進化と、エンジンスペックの進化からも、目が離せませんね。
今回のテストで唯一残念なのは、ダニが初日の終了直前に転倒して右手を負傷してしまったことです。ただ、転ぶまでの彼は、他のライダーを圧倒する驚異的な速さを披露していました。去年のレースで自らが記録したPPタイム(2:01.877)を、レース用タイヤで午前中にあっさり更新(2:01.864)したくらいですから。このタイムをマークする前の周回をコースサイドで見ていたのですが、1コーナーから2コーナーへの切り返しなどは本当に圧倒的でした。その次の周回で、ダニは残念ながらスリップダウンを喫してしまったのですが、そのときの様子も無理を重ねた結果のどうにもならない悔しい表情、といったものではなく、自分でも手応えを感じているような納得した顔つきでした。いずれにせよ、セットアップを詰めきっていない初日午前中からこれだけの走りを披露するのですから、ライダー、マシンともに相当なポテンシャルを秘めていることは間違いありません。
そして、この日の午後5時にダニは11コーナーで転倒し、右手を負傷してしまったのですが、彼は若いからきっと驚くような回復力を備えているでしょうし、そこから再度準備を進めて、開幕にきっちりと照準を合わせてくれると思います。
さて、一方のニッキーですが、3日間を通して常にトップ周回数を記録する彼ならではの精力的な走り込みを行う姿が、とても印象的でした。初日は85周、2日目は66周、3日目は77周。これだけ走り込むと、ライダーにとっても自信になるし、チームとしても非常に豊富なデータを収集できる。それにしても、気温30℃、路面温度50℃を超えるような状況で85周も走行するなんて、どれだけ体力的、肉体的に過酷なことか!
とにかく、ニッキーはそれくらい懸命に走り込みながら、さまざまな仕様の違いを確認してマシンを仕上げていくタイプのライダーなのですが、テスト3日目の午前中、路面温度の状況のいいときにベストラップをマークしています。昨年のセパンテストでは、2分00秒592というタイムを非公式ながら記録していますが、今回はそれを塗り替える00秒326という驚速タイム。これは、990cc時代のポールタイム(2:00.605)も上回る、実にすばらしいものです。さらに、この日の午後には、ニッキー自身のリクエストでレース周回を想定したロングランを実施して、タイヤとマシンのコンビネーションも確認しています。このとき、私はコースサイドでタイムを計測しながら彼の走りを観察していたのですが、最初は02秒台のレースラップでコンスタントに走りながらどんどんタイムを上げてきて、なんと、18周目には01秒6に入ってしまいました。あとで調べてみて分かったのですが、これは昨年の優勝ライダーのファステストラップ(2:02.108)よりも速いタイムです。これだけでも、新しいRC212Vとミシュランタイヤのパッケージングが、去年以上の戦闘力を披露してくれそうな期待が高まります。
そして、以上の事実から総じて見えてくるのは、今年のレプソル・ホンダは非常にいいスタートを切った、ということです。今年からチームを采配する山野一彦監督にも話を伺ったのですが、こんなふうにコメントしていました。
「テスト途中からダニが抜けてしまった分も、ニッキーがテストを着実にこなしてくれて、我々としては非常に感謝をしています。3日目のロングランはニッキーからのリクエストだったというところにも、彼の今シーズンに掛けるモチベーションの高さを感じています。また、今回のテストでは、ライダーのコメントの具体的な症状や挙動を理解するためにも、できるだけ多くのスタッフがコースサイドに出て走りを観察し、見守るようにしました。
ダニについては、初日の夕刻に転倒してケガをしてしまったのは非常に残念です。テストの進め方にもっと注意をしなければいけなかったのですが、午前中にタイムがすぐ上がってきたところを見ても、いい方向に進んでいるのは確かだと思っています。また、マシンに対する大きなコンプレインもなく、非常にポジティブなコメントをしてくれているので、ヘレステストを走行復帰の目標にして、復帰後は改めて彼用のテストメニューを用意してマシンを仕上げ、開幕に備えます。両ライダーとも、今シーズンは大活躍してくれると信じています」