天気のいい穏やかな日は、海からの眺めが実に心地よい。海岸沿いをジョギングする人、何をするでもなくただベンチでくつろぐ老夫婦。そんな風景が、訪れる人の気持ちを穏やかにする。
■首都リスボンから車で西へ約15分ほども走ると、あっという間にエストリルの街へ至る。この一帯は<コスタ・ド・ソル(太陽の海岸)>とも呼ばれ、その名前からもわかるとおり、一年を通じて比較的温暖な気候に恵まれた欧州有数の避寒地として人気が高い。大西洋に面した海岸に立てば、わずかに弧を描く水平線が一望でき、踵を返して街に目を向けると、その中心にはネオンもきらびやかなカジノが目を引く。郊外へ足を向ければ、いかにも富裕層を対象としたゴルフリゾートが緑の絨毯を敷き詰めたように広がる。そんなのんびりした街から少し内陸部にゆくと、第3戦ポルトガルGPの舞台、エストリル・サーキットが姿をあらわす。
■街はずれとはいえ、サーキットは住宅や店舗も建ち並ぶ通り沿いに面しており、歩いてやってくる人も多い。また、場所柄、モータースポーツ王国スペインから観戦に訪れるファンも数多く、彼らの乗り物はもちろん、バイク。同じイベリア半島とはいっても、スペインで開催される3回のレースと違って、ここは気象の変化が激しく、さらに大西洋から吹きつける強風に悩まされることでも有名だ。場合によっては足を踏ん張らなければ前へ進めないことすらある。幸い、今年はそこまでの強風に見舞われることはなかったものの、それでもパドック内では各チームやタイヤサービスのフラッグが音を立ててはためいていた。
■ピット裏に少し足を伸ばしてみよう。前回のヘレスほど露店がずらりと軒を連ねる壮観さはないものの、それでも各種ノベルティグッズのショップがグランドスタンド裏にテントを張り、観客たちの足を止めていた。レプソルやペドロサ選手関連のグッズが目立っていたのは、やはりイベリア半島ならでは、といったところだろうか。
■観客たちが集まるショップ前を通り抜け、グランドスタンド地下通路を抜けてパドックエリアへ戻る。さて、そろそろ今回の目玉、ホスピタリティエリアの紹介といこう。セキュリティゲートを通過して、まずはHonda Racingから。ここはHRCやレプソル・ホンダのスタッフ以外にも、Honda陣営各関係者が気軽に出入りする場所だ。左右非対称の一風変わった外観が目を引く。外から見て屋根の一番出っ張ったあたりは、中二階になっている。
■ここではお茶を飲んだり打ち合わせをしたり、もちろん食事も供給される。ビュッフェ形式のサラダ類を自由に取って席につくと、メインディッシュはテーブルで給仕されるスタイルだ。設備の中はチームごとにさまざま工夫が施されていて、ホスピタリティ(歓待)という言葉どおり、それぞれ独特のくつろいだ雰囲気が漂っている。