オランダといえば、運河や風車、そして乳製品。このようにのどかな風景の中を走り続けているうちに、やがてサーキットに至る。
■MotoGP全18戦の中でも最も古い歴史を持つレースが、今回の“ダッチTT”ことオランダGPだ。1949年に世界グランプリがはじまって以来、60回にわたり連続開催されている唯一のサーキットである。ダッチTTそのものの歴史はそれよりもさらに古く、1925年までさかのぼる。日本では大正14年、と言い換えれば、この伝統の一端が少しは想像できるだろうか。“TTウィーク”として様々なカテゴリーのレースが行われていた当時から決勝は土曜日と定められており、その文化は現在も継承されている。オランダでは、「TT」とひとこと言うだけで、「ああ。アッセンね」と即座に話が通じる。それくらい、彼らの生活と文化に深く根ざしたレースなのだ。
■グランプリの歴史が幕を明けた1949年、世界GP第3戦として開催された際のコース全長は16.536km。当時は公道でレースが行われており、1955年にクローズドコース(7.7km)へ場所が移された。その後、年を経るにつれ、コース幅や全長に改修が施されていき、2006年には、最後まで公道レース時代の面影を残していた前半セクションが大幅に削り取られて現在の姿(4.555km)になった。かつてのコース跡は、イベントホールやキャンプ場として生まれ変わるべく、現在工事中である。
■フリープラクティスや予選などのセッション中、ピット内で忙しく立ち働くスタッフたちの姿を少し紹介しよう。セットアップの煮詰めや変更、タイヤ選択、レースシミュレーション、タイムアタックなどなど、限られた時間の中で消化しなければならないメニューは数多い。ライダー、メカニック、エンジニアなど、チーム全員がうまく連携しスムーズに作業を進めていくことができるかどうか。決勝レースに先立つ金曜午前から、すでに戦いは始まっている。各セッションの一瞬一瞬が、勝負の連続なのだ。
■ピットウォールには、各チームの前線基地兼司令塔が設営される。チーム監督やスタッフは、ここに設置したモニターの映像やデータをもとに、自陣営のライダーやライバルチームの走りをチェックし、サインボードで指示を出す。テレビ中継では、ここで一喜一憂する彼らの横顔が映し出されることも多く、ファンにもおなじみの場所だ。一見どれも同じ造りのようにも思えるが、よくよく観察してみればそれぞれに特徴を持っていることがわかる。