グランドスタンド前の道路も、このとおり樹々に囲まれている。囲まれているというよりもむしろ、森を抜ける道、といったほうが妥当かもしれない。
■7月末から約3週間のサマーブレイクが明けたMotoGPは、チェコGPで再開されるのが毎年の恒例になっている。戦いの舞台となるブルノサーキットは、その名のとおり同国第二の都市ブルノから車で10分少々西へ走った郊外にある。街を離れて鬱蒼とした森の中を進んでゆくと、やがてサーキットが忽然と姿をあらわす。まさに深閑という言葉がぴったり来るロケーションにあるサーキットで、近代的な設備を持ちながらも、西欧や南欧のサーキットとは一風違ったどこか無骨な雰囲気も漂わせる。どのサーキットも国情や土地柄が強く反映されるものだが、ここもまさにチェコならではの興趣が至るところに溢れているのだ。
■このサーキットに、今年は三日間総計で23万9371人の観客が訪れた。決勝日の朝はサーキット周辺が渋滞し、混雑を極めるのは欧州なら当たり前の風景だが、ここの場合は、サーキットが森の中にあるだけに一種独特の印象を与える。会場近辺の駐車場に車やバイクを止めて観戦席へ歩いて向かう人々が森を縫う狭い道に溢れかえり、その数は時間とともに増加する一方で、いつまでたっても途切れる気配がない。決勝日朝のこの人波こそが、チェコGPを代表する風物詩かもしれない。
■チェコは、いわゆる旧東欧圏の国家で、隣接するハンガリーからもたくさんのファンが観戦に訪れる。特にこの数年は、小排気量クラスでハンガリー出身の選手が活躍していることもあって、年を追うごとにファンの数は増加する一方だ。ブルノとブダペストの距離は320kmというから、およそ東京−名古屋間ほどの距離だ。一説によると、今年は応援団が3万人以上も大挙してやってきたとか。サーキット中至るところで見かける国旗をみていると、その数字もあながち大げさなものではなさそうだ。