サーキット正面ゲート。頑固なくらいに伝統的というか、由緒と誇りの気高さを感じさせるというか。
■ドニントンパーク・サーキットの歴史は古い。施設そのものの竣工は1931年で、現在のイーストミッドランド空港近辺に建設された。最初の四輪レースが行われたのは1935年。その数年後には二輪レースも開催されている。やがて第二次世界大戦が始まるとサーキットは軍に接収されたものの、戦後は地元のビジネスマンが買い戻し、少しずつ現在の姿へと形を整えていった。ピットビルディングをはじめ、多くのファシリティがその当時の面影を残しているところは、いかにも伝統と文化を尊重するイギリス人らしい“誇り高き自尊心”のたまもの、といったところだろうか。
それでも近年は、利便性を求める声の高まりに応じて少しずつ改修の手が入るようになった。まるでカマボコ型の軍隊宿舎のようだったメディアセンターも数年前に新築され、サーキットを象徴するロゴも、今年から新たなデザインへ一新された。刻々と変化する時代の波に洗われながらも伝統との共存を図っていく、イギリス文化をまさに象徴するような場所。それがドニントンパーク・サーキットなのだ。
■施設や設備の歴史や古さはともかく、このサーキットは攻略の難しいコースとしても有名だ。芝生の絨毯のような、なだらかな丘陵地帯を縫うように下り、上ってゆくハイスピードの前半セクションと、上りきったあとにはタイトなストップ&ゴーが続く後半セクション、という対照的な構成になっているからだ。セッティングやレース戦略に頭を悩ませるチームや選手は大変だが、観客にとっては、レースの楽しさを満喫できる実にすばらしいコースでもある。晴れた天気のいい日には、ピクニック気分でのんびり観戦する家族連れやビール片手にくつろぐファンの姿をそこらじゅうで見かける。「何もしかめっ面して観なくてもいいじゃないか。みんなでのんびり楽しもうや」と、無言のうちに語りかけているようでもある。
■ドニントンパークは滑りやすいコースとしても有名である。イギリスは天候が不安定なこともあり、毎年、レースウィークのうち一日は必ずといっていいくらい雨が降る。今年も土曜日が終日雨のセッションとなり、各クラスで転倒者が続出した。その滑りやすい理由としてよく言われるのが、サーキットに近接するイーストミッドランド空港を発着する飛行機の燃料がコース上に降ってくるから、というものだ。まことしやかにそう語る関係者は多いものの、それがどこまで本当なのかという検証については、まだ行われていない。ただし、今年のレース前にはコースの一部が清掃されたようで、その部分に関してはグリップが向上したという声もライダーたちから挙がっていた。
■サーキットで見つけた、いかにもイギリスらしい風景をいくつか紹介しておこう。ヨーロッパ、と一口に言っても、実はこの国は他のEU諸国と一線を画す独特なものをたくさん備えている。たとえば、通貨はユーロではなくポンドを採用、欧州大陸諸国では長さなどの単位系はメートル法で表記されるが、この国はヤード・ポンド法で表示する、等々。そのような点を指して他国の人たちはイギリス人を頑固と言うのかもしれない。その真偽はともかくとしても、サーキットの中をよくよく観察していれば、ちらりほらりと英国人たちの「考え方」や「習慣」を垣間見る瞬間があるのも事実だ。