HRC総監督・石井勉レポート


 マレーシア・セパン、スペイン・ヘレスと続いた最終戦後のポストシーズンテストを終え、MotoGPはシーズンオフのテスト禁止期間に入った。このテストでは、レプソル・ホンダ・チームのニッキー・ヘイデンとダニ・ペドロサが、ともに充実したメニューを消化。来季のタイトル奪回に向けて確かな手応えを掴み、一年を締めくくった。また、既報のとおり、来季に向け、レプソル・ホンダ・チームは、HRCのマネージメントを含め、新たなスタッフへとバトンタッチする。今回は、2007年シーズンをもってチーム監督を退くことになった田中監督が、選手やチームスタッフたちと苦楽を分かち合った日々を振り返り、自らが指揮をとった3年間を締めくくる。

−セパンとヘレスで行われた2回のテストでは、両ライダーとも順調にメニューをこなし、タイム、内容ともに充実した結果だったようですが。

「セパンは、ニッキーひとりがワークスライダーとして参加しました。というのも、最終戦のバレンシア終了後に行った事後テストで08年仕様のプロトタイプマシンをテストしたのですが、その際に、ライダーたちからエンジンキャラクターについてリクエストが挙がっていたんです。ライダーからこのような要望が出ることは、シーズンオフのプロトタイプマシンのテストではよくあることですね。ダニは、その部分を改善した仕様が到着するヘレスで集中してテストをする、ということに決定しました。タイヤに関するテストも、バレンシアで順調にこなすことができていましたし。だから、セパンテストそのものを中止にしようかという話もあったのですが、一方のニッキーはとにかくいつも走っていないと死んでしまうという性格で(笑)、少しでもいい状態で来年に備えるために可能な限り多く乗り込みたい、と彼自身が希望していたこともあって、車体とタイヤを中心項目に据えてセパンテストを当初の予定通り実施しました。内容的には、車体のセッティングも進み、タイヤのメニューも充実した、いいテストだったと思います。
 ヘレスでは、ライダーから指摘のあったドライバビリティを改善したエンジンを投入しています。両選手から、かなりいいイメージになってきた、というコメントをもらえましたが、まだまだ今後も改善の余地はあると考えています。車体面でも、私自身がコースサイドで観察していても、コーナーの進入から旋回性という従来の課題だった要素がだいぶ改善されてきた印象がありました。3日間のテストを終えて、タイムを見てもダニとニッキーが1-2フィニッシュという結果でしたし、しかも両名とも今年のレースのベストタイムを上回っています。来シーズンに向けて、本当にいい終わり方で、来季こそタイトルを奪回するぞ、という充実した手応えのある締めくくりになったと思います」

−08年仕様のマシンはニュウマチックバルブを採用したさらに高回転型のエンジン、という話ですが、両選手が指摘するドライバビリティの課題というのは、そのことに関連しているのですか。

「はっきり言ってしまうと、エンジン回転を上まで回すと下のフィーリングが損なわれる傾向にある、ということのバランスですね。さらに高回転型のエンジンを目指すとはいっても、やはり低速域もスムーズにパワーが出るようにしなければいけない。そこをどうやって両立させるかということに、今は取り組んでいる最中です。さらに、燃費とのバランスのクリアも大きな課題になるでしょう。最終戦でダニが勝ったことで、我々のマシン作りの方向性が間違っていないこと、ニュウマチックバルブだけが重要ではないことは証明できたと思います。また、最後のヘレステストにおいてレースのタイムを1秒近く縮めることができたという意味で、それなりの技術や方向性は手中に収めたといってもいいと思います。あとは、テスト禁止期間が開ける1月まで、そして08年シーズン開幕に備えるプラスアルファの期間中に、これらの技術をどう生かし、改善していくか、というところを詰めていかなくてはいけません。
 ただ、燃費という現実的な制約がある中で、そうそう高回転を常用していくわけにもいかないでしょうから、回せるだけの余力を備えたエンジンの特性を見極めつつ、今後のマシン開発を進めていく必要があると思っています」

−ともあれ、この2回のテストで年内のスケジュールはすべて終了しました。

「終わってしまえば、あっという間でしたね。レースはやはり、相手あってのものなので、勝ったり負けたりの繰り返しです。そういう意味では、去年勝った我々が今年は悔しい思いをしてしまった。残念な結果ですが、現実を踏まえながら技術革新をしていけば、来年は同じ失敗を繰り返さずにすむでしょう。つまり、やるべきことをしっかりとやれば速くなるんだ、ということです。あとはライダーを信じて、彼らの望むものを用意してレースに臨む。今季は彼らのリクエストに100%応えられなかった部分があったのかもしれない、というところを大いに反省しながら、今年のマシンから来年のマシンへバトンタッチしていきたいと思います。07年は、少しずつしか結果が向上しませんでしたが、それでも最後にはライダーがストレスをほとんど感じずにレースができるところまで進み、シーズンオフのテストでも、投入する仕様やパーツがほぼ予定通りに来ています。来季に向けて監督やエンジニアが交代しても、その部分が引き継がれていけば、同じ過ちは犯さないはずです」

< BACK 12 NEXT >