HRC総監督・石井勉レポート


 日本GP以降のシーズン終盤、Honda勢はダニ・ペドロサが毎戦ポールポジションを獲得するものの、優勝には手が届かない悔しいレースが連続した。しかし、最終戦のバレンシアで、ついにペドロサはポール・トゥ・ウィンを達成し、今季2勝目。地元スペインのファンが熱狂する中で一年を締めくくった。一方、チームメートのニッキー・ヘイデンは、シーズン中盤以降は連続して表彰台に上る活躍を見せるなど、復調の兆しが見られたものの、前年チャンピオンの彼にとって、07年は苦戦を強いられるシーズンとなった。苦しい戦いを経て、第15戦もてぎ以降、最終戦で勝利を実らせるまでの4戦を、レプソル・ホンダ・チーム監督の田中誠が振り返る。

「シーズン終盤の4戦を振り返ると、第15戦のもてぎは、前戦エストリルでのニッキーのポールポジション獲得に続いて、ダニが予選1位。ダニ自身も『今回はいけるぞ』と手応えを感じていたのですが、レース当日はだんだん雲がかかりだし『うーん、イヤな予感がするなあ……』と思っていたら、やはり雨が降ってきてしまった。そしてレースは結果的にトップを走りながらも、転倒リタイアで終わってしまいました。しかしトップに立ったとはいっても、実際のところは追われていたような格好です。そこから最終戦までの戦いは、いつも何か決め手が一つ不足していた感じでした。全体的にコツコツとまとめてきても、天候やタイヤ面などと、微妙なところで最後に何かが一つ噛み合わない。フィリップアイランドでもポールを取ったもののレースは4位、次のセパンもポールでしたが、結果は3位でした。

 そんな状態でも少しずつうまく噛み合ってくるようになってきたのですが、時の運という要素も加わり、なかなか勝てない。一度勝利の方程式から外れてしまうと、勝つところにまた戻ってくるのは非常に難しい、ということを痛感したシーズン後半でした。しかし、最後はすごくいい形でシーズンを終えられた。今シーズンはレース中、相手選手に抜かれるばかりだったのが、バレンシアではピタリと背後についてスッと前に出ることができた。ああいうシーンを見ると、ファンの皆様に対しては、『本当にお待たせしました!』という勝ち方だったと思います。あれができるということは、来シーズンは今年のような事態にはならないと信じています。今年一年、ライバルに後れをとったことは大きな反省材料ですし、特にシーズン終盤はニッキーとダニで5戦連続ポールポジションを取りながら、優勝という結果がついてこないので焦ることもありましたが、最終戦はすべてが吹っきれる内容でした。特にダニは、MotoGPクラスでは過去5戦の地元スペインで勝っていなかったのですから、今回こそ勝ちたいという気持ちが非常に強かった。ファンも当然期待していましたから、そんな状況の中で優勝できたという事実は、今後の彼にとっても非常に大きな自信になると思います」

−一方のニッキーは、苦しい戦いが続きました。

「ニッキーは、一時彼本来のリズムを失い大スランプの時期があったのですが、カタルニアの事後テストあたりからヒントを得て、乗り方も工夫して変えていった。彼の走りを見ていても、昔のイメージは影を潜めたといってよいと思います。まだ彼も25歳で、まだまだ進化の途中で、今後も期待できます。今シーズンは優勝こそありませんでしたが、ポールポジションを取り、表彰台にも連続して上がっていますから、あとはそれをソツなくまとめていくという部分で、来年はもう一回仕切り直しですね。バレンシアの決勝レースは、8位フィニッシュでしたが、事後テストではレース時に準備された以外のタイヤで決勝のペースを上回るほどのタイムを連発していました。最終戦にかける思いが強かっただけに、かなり残念がっていましたが、これも自信につながったでしょう。ニッキーはシーズン前半はスランプに陥り、それが後半戦のリズムにも響いたとはいえ、ランキング8位という場所は、彼が本来いるべき位置ではない。あと、第16戦のフィリップアイランドのように、エンジンが壊れてしまうという、Hondaとしてあってはならないトラブルも彼の足を引っ張ってしまった。ダニにマシントラブルはありませんでしたが、転倒に巻き込まれてポイントを獲得できないアンラッキーなレースが数戦あった。勝負の世界で<たら・れば>を言っても仕方がないのですが、最終戦のような勝てるマシンが開幕に間に合っていれば今シーズンの流れは変わっていただろうし、彼らが勝つレースも、もっと増えていたでしょう。その意味では、これから春までのテストは、我々にとっても彼らにとっても非常に大切です」

−シーズン終盤もタイヤが大きな話題になりましたが、最終戦まで難しい要素の一つだったのでしょうか?

「今シーズンはタイヤに話題が集中しましたが、ラグナセカのように大差が出てしまった例を除けば、タイヤばかりのせいではない、と私は思っています。ミシュラン陣営が勝つレースもあったわけですから。では、なぜうちが勝てなかったのか。ライダーが悪いのかというと、それは絶対に違う。掲げた目標通りのマシンを早々に準備できなかったこととライバルのパッケージングが我々の想像を超えた所にあったということです。エンジンも燃費という制約があるなかで、簡単に上まで回せばいいかというと、そうでもない。どこのメーカーも、エンジンをブンまわしたときに燃料が持たないのは分かっているのです。厳しい規制の中でほぼ同じ性能の燃料を使っている限り、大きな差は出ない。ただ、最後に勝った車は、やはりすごく指針になるし、どこに向かって進んでいくかということもハッキリする。だから、最終戦で勝つことができたのは非常に収穫が大きかったと思います。自信もつくし、技術的な見通しも立つ。新しいマシンやパーツを持ってきて比較しても、最終的に勝てなかったマシンだと半信半疑になるじゃないですか。でも、ああいうふうに勝てるマシンだと比較したときに説得力がある。そういう意味では、非常にいいシーズンの終わり方でした。2勝しかできなかったのは非常に残念ですし、もっと勝てたはずだとも思います。ただ、レースはライバルあっての世界ですから、いつも自分たちが思い通りに勝てるという考え方は甘い。努力しても報われない時期はある。でも、それをバネに自分たちはもっとがんばるんだということを、レースを見にきて下さっていた観客やファンの方々にアピールできたような気はします。有終の美、というと格好つけすぎかもしれませんが、来年はもっといいレースをお見せできると思っています」

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