HRC総監督・石井勉レポート

 

■ レプソル・ホンダ・チーム監督田中誠 [ ホームグランプリに向けた意気込み ]

−前戦エストリルは、結果的に僅差で敗れる悔しいレースになってしまいましたが、ライダーのリズムやマシンのポテンシャルは確実に上向きになってきているように見えました。

田中「エストリルといえば、去年はダニとニッキーがチームメート同士でリタイアしてしまうという悲しい出来事がありました。あんなことはもう二度とないよ、とみなで言っていたのですが、レースウィークがはじまって土曜になるとダニのタイムが一気によくなりはじめ、予選タイヤを履いたタイムアタックではニッキーが去年の第14戦フィリップアイランド以来のトップグリッドです。モチベーションも一気に高まり、これは面白いレースになりそうだという予感があった……のですが、じつは正直なところ、レース用のタイヤではセッティングが不十分で、その部分の詰めに若干の不安も残していたのです。結局、リザルトもそれを反映する結果で、表彰台に今一歩届かない4位でレースを終えました。ただ、転倒などに巻き込まれるようなことがなければ、いつも表彰台を狙える圏内で走れることは示せており、前半戦のような底を打った状況からは抜け出しています。
 一方のダニは、表彰台は間違いない、いける、という手応えをつかんでいて、その通りのリザルトになりました。タイムで見るとダニは優勝選手と互角の勝負で、マシンの旋回性でも負けていなかったのですが、最後までT4(最終区間)のタイムアップができなかった。結局、そこが勝負ポイントになってしまいました。相手は、あの区間の手前で自分の方が前にいれば勝てる、と踏んでいたのでしょう。レベル的には遜色ない戦いでしたが、相手がコントロールする区間で前にでられたときに、『ああ、勝負あったな』と思わざるをえませんでした。
 結果的に悔しい思いはしましたが、ライダーはライバルと張り合っています。マシンやタイヤを含め、条件がそろうとそれだけの戦いができるということで、これが開幕直後の2〜3戦目なら、ものすごくモチベーションも高まるのでしょうが、すでにシーズンは終戦モードですからね。正直なところ、そこは残念ですね」

−つまり、エストリルでダニが僅差の2位、ニッキーは惜しくも4位というリザルトを得たことで、田中監督としても少しは明るい兆しが見えてきた、ということですか。

田中「残り4戦はできるかぎり勝っていくしかないと思います。最終戦のバレンシアでは、『今年はしくじってしまったけれど、来年こそ行けるぞ』と前向きな姿勢で終わりたいですね。そうしないと、応援してくれるファンのみなさんに対して、あまりに申し訳ない。だから、今回のもてぎでは、エストリル以上の結果を望みますし、望めると思っています。いいタイヤができているし、エンジンもいいものを投入するので、エストリル以上の成績が残せると私は思っています」

−エンジンを投入する、というのはワークスの2人に対してですか?

「彼らが使っているエンジンは、彼らの要望に合わせて仕様が微妙に違っています。で、実は前回のエストリルでドライバビリティがよくなるモノをダニに投入したんです。今回のレースでは、ニッキーにもそれが入る。一方、ニッキーは比較的トップエンドのパワーを優先する仕様 で走っているのですが、今回はダニもそれを試してみたい、と言っています。ロングストレートが2本ある、“ストップ&ゴー”タイプのこのサーキットで、タイヤがうまく決まってエンジンもいいとなると、これは結構おもしろい勝負ができると思っています。
 もてぎに入ってダニが即座に尋ねてきたのは、『週末の天気予報はどう?』という質問でした。『晴れるぞ、日曜日はちょっと曇りかな』と答えたのですが、気温や路面温度はタイヤのパフォーマンスに大きな影響を与えるファクターなので、そこが気になるかと聞かれれば、そういえますね」

−そういう意味では、この季節にはめずらしい30℃という暑いコンディションはどうなんでしょうか?

「これまでの経過でいうと、温度が高いほうがミシュランにはいいのかな、と思います。実際、この前のエストリルでもそうでしたが、午前中に路面温度が30℃ちょっとのときよりも、40数℃に上昇した午後のほうがいい走りを披露していますから。このサーキットは、フラットでグリップがよくてバンプがないので、タイヤさえ決まればダニが恐ろしく速いかもしれません。そういう意味では、大いに期待しています」

−Honda勢のほかのチームの状況は?

「グレッシーニチームは、ふたりとも体調が回復しつつあります。マルコは前回5位でフィニッシュしていますが、少しバージョンアップしたエンジンを投入していたんです。エストリルではスロットルを開けたときのフィーリングにやや違和感がある、と言っていたのですが、今回はFI(フューエル・インジェクション)セッティングのエンジニアが来ていますから、そこの部分のフォローもOKです。エリアスも、もう一度頭を整理して車体のセッティングを進めれば面白い結果を出してくれると思います。
 中野君は、前回のレースでザクセンのときと同様のミスファイアが出てしまっていたのですが、原因を究明して対策も施しています。いいタイムで走っていただけに、前回のレースでは申し訳ないことをしました。そのかわり、というのもおかしいですが、エストリルでは今までやらなかったような車体の変更をしたらよくなったと言ってくれていますし 、今回は地元日本でのレースですから、期待をしています。シングルといわず、可能な限り前を走って活躍をして欲しいと思っています。チェカも、先日の鈴鹿8耐で表彰台に上がっており、日本に来ると調子がいいんです。彼は予選でぽんと出ればレースもがんばってくれるので、楽しみにしています」

−250ccクラスはどうですか。

「エンジンのスペシャリストたちが、万全を期して今回のレースに備えています。前回のレースでは、チームとライダーには本当に申し訳ないことをしているので、今回は背水の陣で立ち向かいますよ」

−総じて、いい雰囲気でホームグランプリの決勝レースを迎えられそうですか?

「ワークスがまずきっちりと表彰台に立って勝てるマシンを作り上げ、それを迅速にサテライトチームに供給するという関係を早く築けなかったのが、今年の敗因です。しかし、ここに来てようやく、何とか本来の活躍ができるようになってきたと思います。だから、レースに勝つことでそれをもっと鮮明に証明し、来年こそいけるぞ、という安心感をみなさんに提供しなければいけないと思っています。今後の我々のレース展開に、どうかご期待と応援をよろしくお願いします」

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